放課後、俺たちは何となく集まる

 放課後は部活の時間だ。俺は複数の部活を掛け持ちしていてその日は演芸部の日だった。

 なお、ではない。

 うちの学校には演劇部もあって俺はそちらにも所属している。演芸部と演劇部はもともとは一つの部だったらしいが分裂して二つになった。そのせいでどちらも部員はギリギリだ。

 何で分けるかな、と俺は思う。

 演芸部は落語や漫才、マジックなど主に一人二人の少人数で演じるものをやっている。最低でも三人が出てくる演劇とは人数の違いがあった。そして俺は一人の方が気が楽だ。外面そとづらとは違い俺は本来ボッチだからだ。

 その日、俺は落語の練習をしていた。

 離れたところで大道芸をやっている先輩もいる。時々ジャグラーのクラブが飛んできて怖い。

 ここで極めた芸は、ボランティア部が近隣の老人施設を訪れて余興する際に披露される。だから演芸部とボランティア部は関係が深い。俺のようにどちらにも属している者は多い。

 俺は「時そば」を独りで練習していた。それもあって六時の下校時刻が近づくとひどい空腹を覚え始めた。

 蕎麦そばでも食って帰りたいな。誰か連れになる奴はいるかな。

 俺の頭に耀太ようたの顔が浮かんだ。

 あいつは今日サッカー部の練習に付き合っているはずだ。いつもキーパーかセンターバックをやらされると嘆いていた。サッカー部にしてみれば図体ずうたいのでかい耀太はちょうど良い練習相手なのだ。

 しかし耀太は温厚な性格の奴だがスポーツとなると過激になる。シュートを決めたくなる奴なのだ。

 それはさておき、俺は部活を終えるとサッカー部の部室まで耀太を迎えに行った。

 その日は俺はスマホを持って来ていたが、運動部に参加する時の耀太は持って来ないことが多い。だから合流するには俺がわざわざ迎えに行く必要があった。

 四月の夕刻はまだ暗くなるのが早い。そして肌寒い。

 耀太は部室ではなくグラウンドにいた。トンボで地ならししている。

 そこには部活連の面々がいた。運動部を代表して部活後の整備を交代制で行っているのだ。

 上級生に混じって和泉いずみの姿もあった。和泉は今日、陸上部の活動があったはずだ。

「耀太、蕎麦でも食って帰らね?」俺は耀太に声をかけた。

 そして近くにいた和泉にも声をかける。「和泉もどう?」

 耀太は「良いねえ」と言ったが和泉は「私はまだ見回りもあるからパス。今度誘って」と笑った。

 相変わらず爽やかな奴だ。額の汗が沈みかけた夕日に照らされている。

「遅くまで大変だなあ」俺が言うと「泉月いつきの送迎車に乗せてもらえるから」と目を細めた。

 遅くなった生徒会役員を迎えに来る車に乗せてもらえるとのことだ。それなら良いか。

 俺は耀太と一緒に帰ることになった。

 耀太が着替えるのを待って二人揃って校門まで歩く。

 その俺たちの背中に小動物の奇襲があった。

「どーん!」梨花りかだった。

「何だよ、梨花も部活あったっけ?」

「レクリエーション部で新入生と遊んでた」

「え、レク部今日あったの?」

 俺もレクリエーション部には籍をおいている。確か曜日は違うはずだ。

「新入生が入ったからね。オリエンテーションだよ」

 同い年の新入生が二人三人入ったと聞いた。男子だ。梨花に誘われたら断れないだろうな。

「一緒に帰ろ」

「おう」

 本当に可愛い奴だ。

「蕎麦でも食って帰っか、って言ってんだが、どや?」

「お蕎麦か。でもどうせなら」と梨花は新しくできたラーメン屋の話をした。

 行ってみたいと思っていたが独りでは行けないと梨花は言う。

「お前、独りでも行けるっしょ?」

「行ったことのあるお店ならね。今度のお店は並んでいて入りづらいよ」

「そっか」

「じゃあ、そこにしよう」耀太は何でも良いようだ。

 俺もみんなに合わせるタイプなので梨花が行ってみたいと言うところに行くことになった。

 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る