学園のマジシャン
その日の放課後、俺は気まぐれをおこしてボランティア部の部室を訪れた。
確か今日は
俺は演芸部に三十分ほどいてからボランティア部に移動した。文化系部活を掛け持ちしている奴には珍しくない動きだ。
俺が顔を出すと純香と梨花はいた。そしてもう一人。俺たち一年A組のクラスメイトにして純香や梨花にマジックを教える女子。
入試成績は五位だったはず。その後もコンスタントに十二位以内には入っているからS組十傑ではなくS組十二神とかS組十二使徒だったら入っていたのだが、何しろ群れるのが嫌いな子でいつもひとりでいる。ボランティア部にも籍をおいていない。あくまでもオブザーバーの立ち位置だった。
「
「ごめんなさい」
純香は正直者だからな。しかし物覚えが良いから慣れれば人を騙すのもうまい。むしろみな油断しているからころりと騙されるだろう。器用な梨花の方が何かやってくるはずと注視されるはずだ。マジックそっちのけでプリンセス純香の姿のみ視ている輩が一部いるだろうけれど。
「百回くらいやったら見世物になるかもね」
純香は背が伸びた分、胸も順調に発育している……気がする。
「少し休憩しよ」
梨花は言うなり椅子にどっかと腰を下ろした。短くしたスカートが跳ね上がり白いのが見えたような。
プリンセス純香はおしとやかに腰かける。
「
「何か?」
可愛い笑顔なのだが態度はクールビューティなんだよな。
この笑顔は営業用だ。彼女の祖父は名の知れたマジシャンだった。テレビにはほとんど出ず、劇場公演を主体にしたマジシャン。だから知る人ぞ知る存在だった。
その血を受け継いだ雪舞はプロ級の芸を見せる。しかし今は決して表舞台には立たなくなった。ボランティア部の純香と梨花にマジックを教えるだけで、自分はやらない。だから学校でも彼女のマジックは一部の者にしか知られていない。
「
彼女は一年目のみ参加してその後は二年続けて不参加だった。招待されたにもかかわらず断ったのだ。だから二年目三年目に参加した俺とは入れ違いだ。
「呼ばれないよ、きっと。ずっと行かなかったもの」
「招待されたら行くの?」
「どうしよっかな」
何となく行きたくなさそうだ。集団行動は合わないか。
「行ったら良いのに」梨花の声がした。
仔犬のような仕草で雪舞にまとわりつく。可愛い。何だこの小動物は。
「行ってまたあの大魔術を見せてよ」
「それを期待されるからイヤなのよね」
「ああやっぱり」残念、という顔を梨花がする。
「それに私、東矢さんのご家族、苦手なのよね」
「おばさまには褒められてたじゃん」
「そうだけど、あのおばさまが特に苦手。褒めているようで褒めてなかったりする」
「え、そうなの? 私は鑑賞に値するほどのものを見せたことがないからピンと来ないよ」
「
「東矢さんに学園の顔になるよう日々激励しているって言ったのよ。それで彼女、生徒会に入ったし、勉強も頑張った。そして一位をとった。でも……
「そんなの初めて聞いた」梨花が驚く。
「多分、当時の一班だけね。そんなことを言ったのは」
というとそれを聞いたのは雪舞以外に和泉、明音にミスズ、そしてもう一人か。
「……それで明音は東矢さんより上の順位をとらなくなった」
「「え?」」俺と梨花は声が揃った。
「彼女ならそれができるわ。それは和泉もそう。あの二人はもっと良い成績をとれるのにセーブしている」
そうなのか?
和泉は部活動と学級委員の仕事で超忙しくて学年三位だから勉強だけに専念したらあるいは泉月の上へ行くのも可能かもしれない。
しかし明音は、あの性格を考えると手抜きするなど考えられないのだが。
「中等部一年生の時の定期試験総合順位、覚えている?」雪舞が問い、すぐに答えを言った。「一学期中間テスト一位がミスズ、期末一位が明音、二学期中間一位和泉。その後二学期期末と三学期が東矢さんだった。そして総合成績で東矢さんが学年一位」
よく覚えているな。
「出る杭は打たれる。最初に目をつけられたのがミスズだった。彼女、東矢さんとキャラが
「そうだっけ?」
「「そうよ」」今度は純香と梨花が声を揃えた。
「黒髪ストレートのロングヘア。ゾッとするような美少女。音楽家の一族でミスズ自身も子供の頃からコンクールで優勝している。そして中間テスト一位。東矢さんより明らかに目立っていた」
だから
「東矢さんが二班だったから一班の五人は目の上のたんこぶみたいな存在だったと思うわ。夏休みの後、一班はどうなった? 二班どころか三班の
そうだっけ?
俺には自分の班以外のことはよくわからない。ただ、泉月、璃乃、恭平、秀一、純香がいた二班がその後はクラスの中心になった。
梨花や耀太がいた三班にも一班はかなわなくなったのか?
「
「私のは実力だけれどね」
雪舞は笑った。それは営業スマイルではなかったと俺は思う。
「何にせよ、怖くて」和紗さんが怖いらしい。「でも今の私なら大丈夫かな。あの頃とは違うし。だからもし本当に誘いがかかったら少しは考えるわ。あらお喋りが過ぎたわね。これで失礼するわ」
長年抱えていたことを吐き出して楽になったのか雪舞はボランティア部を後にした。
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