回想 中等部三年の夏休みー軽井沢ー③
初日の夕食はビュッフェ形式だった。大食堂をパーティションで区切って俺たちだけの空間をつくり、そこでお喋りしながら食べる。
テーブルと椅子はあるが固定せず移動自由になっていた。互いの親睦をはかるためだった。
実際は
俺はたまたま
この
真咲と光輝の母親だから四十歳前後なのだろうが、ずっと若く見える。三十くらいでも通じる。
ハイソな美人なのだ。社交性があり、人の顔を覚えるスキルが高く、俺ですら顔を覚えられていた。
「
「今年もお世話になってます」俺は丁重に頭を下げた。
もちろん和泉と純香が挨拶をした後で俺に声がかかったわけだ。
和紗さんの記憶力は人の顔だけに発揮されるものではない。演劇部や演芸部の公演鑑賞も頻繁にしていて、俺が出た演目と役まで覚えてくれている。しかも批評付きだ。「夕鶴」の「与ひょう」は素朴な感じで良かった、「ドリアン・グレイの肖像」の「ヘンリー卿」は少し軽薄に見えた、とかなかなか厳しいことも言う。
話を聞いたら演劇部のOGだった。なるほどと俺は思った。
「今年は生徒さんの発表会はないのかしら」
「お笑いコントとかならできるかもしれません」和泉が答えた。
俺にさせるつもりだな。でも緊張するんだよな、この人の前だと。
「マジック・グッズは用意していなかったっけ?」俺は純香に訊いていた。
老人ホームなどで披露するマジックだ。純香と梨花の二人ならいつでも見せられるだろう。
「あいにく……」純香は申し訳なさそうな顔を和紗さんに見せた。
「それは残念だわ。ペンション貸し切った年は皆さんの隠し芸を堪能させていただいたのに」
去年は俺も落語を披露したな。
「二年前初めて避暑会を開いた時はプロ並みのピアノ演奏とマジックショーを鑑賞してとても感激したわ。あの子達は今年も来ていないようね」
「マジックの子は残念なことに都合がつかなかったようです」和泉が答えた。「お盆ですし、ピアノの子はA組ではなくなりましたし」
「そうなの? 残念ね。A組にこだわらなくても良いのにね」
「人数が増えすぎますよ」和泉は笑っていたがこの話はしたくないように見えた。
俺が参加しなかった一年目のことを和紗さんは懐かしそうに言っている。
中一の夏はまだS組十傑は完成していなかった。呼ばれたのは誰だっけ?
和紗さんはしばらくお喋りして、次のテーブルへと移動していった。
「私も次行こ」
和泉はトレイを手に料理を
俺はわずかの間
「一年目誰が行ったんだ?」
「
「俺、五班だったしな」俺は頭を掻いた。
中一の班分けは入試の順位に基づいていた。一位から順に上位五名が一班、六位から十位が二班という具合に。
しかも順位がそのまま席次になっていたから自分が入試成績何位だったか周囲にまるわかりだ。
初めて担任を持った水沢先生が張り切ってやったことだが、それでショックを受けた者も多い。なぜかその班分けは一年時の定期テストの順位が変動しても変わることはなかった。
俺はA組に入れただけで満足していたが。
「マジックをやったのはユマなんだろ? ピアノは誰だ?」
「ミスズよ」
「ああ、
俺は何となく思い出してきた。中一の一学期に「勇者パーティー」と言われた一班。そこに和泉と明音もいたな。ユマとミスズがいて、あと一人は誰だっけ?
思い出せない。
マジックが得意なユマが魔法師、明音は剣士と言われていた。そしてミスズが姫。
その頃の純香はまだ目立たなかった。プリンセスと言われるようになったのは二学期以降だ。
残りは
和泉が魔王にされて憤慨していた気がする。ぷんぷんする和泉が可愛かった。
残りの勇者……確か男子だったと思うが全然思い出せない。
そいつはどうなったっけ?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます