俺たちの休日 ラーメンとカラオケ

 十一時開店だから俺たちは十時四十分に最寄駅に集合することになっていた。学校がある駅と同じだ。

 部活で登校する生徒がいるかなと思ったが、中途半端な時間帯だったこともあり見かけることはなかった。

 俺と耀太ようた明音あかねは五分前には集合場所に来たが梨花りかが十分ほど遅刻した。

「あは、ごめん、ごめん」

 謝っているが屈託のない笑顔だ。可愛い過ぎる。

 臭いがついても良いようにポニテにカジュアルなピンク柄のシャツ、赤のミニキュロット、濃紺のニーハイにスニーカーだった。

 明音は黒シャツにジーンズだった。

 耀太は白字の漢字が入った黒いシャツにダボダボのボトムスをはいていた。

 明音と並ぶとペアに見える。やっぱりその組み合わせだよな。すると俺は梨花かな。

「予想通り遅れてきおって」明音が梨花の背後から胸に手をまわし揉みしだいた。

 いや、そういうのは俺たちには刺激が強すぎるんですけど。

 俺は突っ込むこともできず「行こか」と促した。

 梨花と明音が前を歩く。その後ろを俺と耀太がついていく。

 耀太がでかいので前を行く女の子二人とその保護者みたいだ。しかし俺たちが集まるとまず間違いなく女子が主導権を握る。たとえ恭平きょうへいがいたとしてもそれは変わりない。そういうスタイルだった。その方が安定するのだ。

 開店直前に俺たちは店までやって来た。すでに二十人近く並んでいる。これは第一陣として入れないな。日曜日は暇な人が多いのか。俺たちもだが。

 しかし俺たちは立ったままお喋りをするのも慣れている。舞浜まいはまテーマパークのアトラクションに並ぶよりずっと楽だ。

 中等部二年生の頃にS組十傑プラス何名かでテーマパークに行ったことがある。楽しい一日だった。

 あのような日はもう二度と来ないのかもしれない。せめてあの時の半分の人数でも良いから集まって行きたいものだ。高校生になったのだからまた違ったものになるかもしれない。

 俺はつまらないギャグを飛ばしながらも心の中では昔を懐かしんだりしていた。実は俺はそういう女々めめしい奴なのだ。

 店の人がうまくやりくりしてくれたお蔭で俺たちは横一列に四人並ぶことができた。耀太、明音、梨花、俺の並びだ。

 女子二人を俺と耀太で挟んだ格好だ。まあここはラーメンを食ったらさっさと出なければならないから順番はどうでも良い。

 耀太が大盛、梨花が中盛、俺と明音は普通盛にした。

 俺は前回中盛で胸やけしたから普通にしたのだが、明音は意外にも少食派になった。ダイエットを心がけているのかもしれない。あるいはまた間食軽食用に小腹を空けているのか。いずれにせよひとつのものをたくさん食べるタイプではなかった。

 ちゅるちゅると梨花は美味しそうに食べる。幸せそうな顔だ。それを横目で見る俺も幸せな気分になった。

 その向こうで明音もガツガツと食べていた。どうも麺は普通盛だがトッピングを満載にしたようだ。一日三十品目を目指しているのか?

 俺たちはものの十分ほどで店を出ることになった。

「美味しかったよ、ありがとう」明音が満面の笑みを浮かべた。

 俺と耀太が女子二人分を払ったのだ。

「また来ようよ。学校帰りに」

「パパラッチされるぞ」

「そういや、それらしき奴いなかったな」

 注意していたが学校関係者らしき客はいなかった。いても今日は私服だから問題はない。

「さあて、カラオケ、カラオケ」明音は機嫌が良かった。

 満足させることができて俺は気分が良かった。隣を歩く梨花もにこにこしている。

 俺たちは行きつけのボックスへと移動した。

「高校生になって初めて来たね」明音はボックスに来ただけで満足したようだ。

「俺たちは二回目だけどな」始業式の日に和泉いずみ純香すみか秀一しゅういちと来たことを俺は言った。

「そうなんだ」多分誰かから聞かされていると思うが明音は軽く流した。

 始業式の時は璃乃りの泉月いつきも、そして恭平も来なかった。

 このボックスには毎月のように足を運ぶことになると思うがS組十傑全員が揃うことはもうないと俺は思った。

大地だいち、一発目」明音は俺を指名する。

「おうよ」

 俺は景気づけにノリの良いのを歌った。

 本当は俺は暗い歌の方が好きだ。しかし明音や梨花の前でそれを歌ったことはない。

 梨花がまた軽食注文に忙しい。

 明音は耀太の方を向いて爽やかな笑顔で何か喋っている。それを耀太は眩しそうに見ていた。

 やはり俺の歌はただのBGMだ。

 俺の次は梨花だった。運ばれてきたスナック菓子に手をつけようとした梨花は何もとらずにマイクの前に移動。

「明音、まだ食べちゃダメだよ」と明音に釘を刺す。

「ちょっとくらい良いでしょ」

 明音は無邪気に言うが歯止めが利かないことはみんなよく知っていた。

 仕方なく俺は梨花の分がなくならないように明音を牽制しようとした。しかし耀太と明音が何だか良い雰囲気なのでいじりにくい。

「お前ら、イチャイチャしすぎじゃね」それでも何とか二人をいじれるのが俺のおもての顔だった。

「お、大地、焼きもちか?」

 明音はふざけて耀太の腕に纏わりついて耀太の大きな体をソファー代わりにしてもたれた。

 あまり表情が変わることのない耀太が何気に照れている。

「良いね、耀太は包容力があるわ」明音は満足そうに言う。女王様かよ。

「お前が耀太を椅子にしてるだけだろ」

「てへ」

 明音が舌を出した。ここに璃乃がいたら顔をしかめたのは間違いない。

 梨花が歌い終え明音と交代する。梨花が頼んだ菓子はほとんどなくなっていた。

「ないじゃん、もーう」梨花の泣き真似は極上だ。「もう一度頼む」と意気込む。

「待て、タイミングを見図らないとまた歌うときに運ばれてくるぞ」俺はアドバイスした。

「あ、そうか」

 そんなこんなして二時間近く経った頃、俺は用足しに出た。

 まだ四時だし、あと一時間はいるかな。学校ではこんなに話せないよな。

 用を済ませて手を洗っていると扉が開いて若い男が入ってきた。

 鏡越しにそれが恭平だとわかった。

「恭平」かけなくても良い声を俺はかけていた。

「ん、大地じゃないか」

 恭平はテニス部のジャージ姿だった。部活での移動用スタイルだ。

「新人の親善試合があったんだよ。一年が秀星しゅうせい学院と試合していた。終わって反省会だ」

「反省会ね」俺はジト目を向けた。「ハーレムの間違いじゃないのか?」

「大地の方こそ、ボランティア部か? 純香や梨花がいるのか?」

「いや、完全に気晴らしだよ。耀太と梨花と、そして明音だ」

 隠してもこいつは覗きに来るだろう。そう思ったから俺は明音がいることを言った。

「明音がいるのか。あとで顔出すよ」憎らしいくらい爽やかな笑顔で恭平は言った。「待っていろと言っておいてくれ」

 トイレを出て俺は頭を抱えた。

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