俺、恭平と交える

 俺は苛立いらだちを覚えていた。

 教室にいる時、恭平きょうへい梨花りかをいじったり、和泉いずみに触れたりして肘鉄ひじてつを喰らったりしていかにものスキンシップを見せつけられると心なしか虫酸むしずが走るような感覚を覚える。

 そこに明音あかねがいなくて、恭平はプリンセス純香すみかには節度を保っていたから余計に不快感を覚えた。

 俺は恭平のことが許せないのだろう。それにも増して恭平に対して羨望や嫉妬を感じている自分が許せなかったのだろう。

 俺の心の中に自分もハーレムの主になりたいというがあることに俺はしっかり気づいていたのだった。

 そんな心の中の葛藤を俺は隠して普段通りおちゃらけたキャラを前面に出す。俺は道化者だった。

 しかしそれも昼休みになる頃には疲れてしまった。

 俺は耀太ようた秀一しゅういちのバスケの誘いを断ってひとりになった。

 屋上にでも行きたい気分だが鍵がないと行けない。正当な理由がなければ鍵を借りることはできない。

 俺は屋上の手前にある階段踊り場で過ごすことを決めた。そして四階を超えて上へと目指した。

 その時、俺が目指すところから駆け降りてくる女子生徒とすれ違った。

 多分上級生だ。何をしていたか知らないが泣いていたように見える。

 俺は何となくその先に行くべきでない気がして足を止めた。

 すると男が一人降りてきた。それはまさに今最も顔を合わしたくない人物第一位の恭平だった。

「――大地だいちか……」

「なんだよ、こんなところで修羅場しゅらばでも演じていたか?」

「そんなところだ」恭平はあまり見せない苦笑いを浮かべた。「よく知りもしない女子に告白されてもな」

「てか、単にキャパオーバーだっただけじゃねえの?」

「それは……あるかな」あるのかい!

 恭平は階段に腰を下ろした。

 俺はその場を離れたかったが、逃げたと思われるのが嫌だったので同じように腰を下ろした。別に逃げたなどと恭平が思うはずもないのにな。

「イケメンは辛いよな」

「はじめは恐怖だったな」

「それも慣れたってか」

「何事も慣れるものさ。怖いくらいに」

秀星しゅうせい学院の森下もりしたさんとは会っているのか?」

 あれから二、三日しか経っていない。それでも恭平なら忙しい時間をやりくりして会ってそうな気がした。

「一回会ったな」

「一回、の間違いか?」

「突っかかるなあ。嫉妬してるのか?」

 俺の柄にもないに恭平もで返してきた。

「あちこちに彼女作ってどうする気なんだ? テニス部にも美人の令嬢を引き込んだよな?」

村椿麗菜むらつばきれいなには手を出さないよ」

純香すみかとか手を出さないのが何人かいるみたいだけどその基準は何だ?」

」もちろんそれは体重のことではない。

後腐あとくされのなさ、で付き合ってるのか? 最低だな」

「みんなそうだろう? 中一の頃、寄ってたかった先輩女子はただ興味があるという理由で俺にアプローチかけたぜ。軽くしか考えない」

「そうでないヤツもいる」

 俺は明音あかね梨花りかの顔を思い浮かべた。あるいは泉月いつきもそうだったかもしれない。村椿さんもこの男のとりこになりつつある。

「いったい誰だ? に俺は手を出しちまったか?」

「あ!?」

 俺たちは喧嘩慣れしていない。所詮は坊っちゃん学校の生徒だ。しかし体格はそれなりだ。

 恭平は百八十近くあった。俺とは十センチ近く差がある。力任せに拳をふるうと大怪我をする可能性があった。

 しかしその時、俺たちはその可能性を一切考えずに殴り合った。

「いつもヘラヘラ笑っていて嘘臭いんだよ!」

「お前こそ必死になったり本気出したことあるのかよ!」

 誰も見ていなくて良かった。

 俺たちは青春しているつもりでも第三者には滑稽なじゃれ合いだったかもしれない。

 その後、俺たちは保健室のお世話になった。

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