回想 中等部三年の夏休みー軽井沢ー⑦
まあ許してやれよ。それだけ稀少価値があるってことだ。
「先生、イカしてるよ」
お前、そんなこと言えるようになったのか。中一の頃とは別人だな。
そんな恭平に
「見ちゃダメ! 目がつぶれる!」
「んなわけないだろ!」
恭平が体を左右に揺すぶっても背中にまとわりつく明音は
明音の胸が恭平の背中にぴったりくっついているのに恭平はそれを意識していなかった。昔なら考えられないことだ。
明音、お前大丈夫なのかよ。胸ないから恭平もわからないのか?
――って、お前らイチャイチャし過ぎじゃね。
この日をきっかけに梨花は恭平に対してグイグイいかなくなった気がする。
俺は何だか複雑な気持ちになった。
俺たちの
一瞬センチメンタルになった俺を目覚めさせたのは
「キャ!」という先生の悲鳴。その時オニになっていた光輝が水沢先生のお尻にタッチしたのだ。
こいつ小学生だと思っていい気になってるな。将来大物になるかもよ。
「俺、オニやりたかったああ!」
そう言った俺は水沢先生の手刀を受けて一瞬にしてオニになった。
しかし俺の
恭平はと言うと、明音を振り回して遊んでいた。
キャアキャアと嬌声をあげる明音。
この二人には近寄れない雰囲気ができていた。
俺は耀太とともにオニとなって他の女子たちを追い回した。
風呂に入って少し休憩した。
耀太は短時間でも睡眠をとる。これが成長の秘訣なのか。
そして夕食の
昨日と同様パーティションで囲われたところに移動自由の席があり、ビュッフェ形式の食事をとった。
ホスト役として
その場にはなぜか泉月ではなく従妹の
一つ年下なのにずっと大人に見える。
その様子を観察していた俺のそばにはたまたま
「叔父さんに初顔を紹介するのは真咲ちゃんなんだな」俺は感心したように言った。
「
「なるほど」
和泉は冷静に見ていたようだ。
恭平はというと
何だか良い役だな。生徒会副会長も伊達ではない。
その中に明音はいなかった。明音はトレイを手にして料理をとると耀太と秀一、光輝がいるところに移動した。
何となく明音と恭平がわざと距離をおいているような気がした。二人にもプールでイチャイチャし過ぎた自覚があったのかもしれない。
しばらくしてまたシャッフル。
俺は料理をとったトレイを手にしながら次はどこに座ろうかと考えていたら明音を見つけた。
明音はトレイを手にしたまま離れたところにいる恭平の方を見ていた。
恭平は純香、梨花、そして初参加の女子らといた。
「恭平のところに行かないのか?」
「昼間、さんざんいたからね」
「自覚はあったんだな」
「和泉に言われて」
「学級委員の
和泉は調和を大切にする。
「プールでイチャイチャし過ぎだったぜ」
俺が言うと明音は驚いたような顔をした。
「そう?」まるで初めて指摘されたような顔だ。
まあ、明音にそんな指摘ができるのは俺くらいだったかもしれない。和泉が遠回しに言ったとしても
「見ていられなかったなあ、イチャイチャカップル」
俺はいつものように余計なツッコミをいれた。もうその癖は染み付いていたからだ。
普通それを
「後で会う約束をしたんだ」
「ん?」それってまさかの告白イベント?
「ゆっくりと気持ちを落ち着けて、それから思っていることを言おうと思うんだ」
俺は一瞬言葉を失った。やはりそうなのか?
トレイを手にした俺たちが何の話をしているか誰にもわからなかっただろう。
「どうしてそんなことを俺に言っちゃう?」
「誰かに
覚悟の宣言。明音はそういう奴だった。いつも真っ直ぐ。時にまわりが見えていないこともあるがそれが明音の良さなのだ。
「うまくいくと良いな」俺は格好つけて爽やかな笑顔で言った。
「バカ!」
俺は
俺は柄にもなく
明音が見る先に女子に囲まれて笑う恭平がいた。
やっぱ恭平は別格だよな。
俺は後ろ手に
うまくいくと良いな。その時の俺は確かにそう思った。
しかしその夜、明音が恭平に思いを伝えることはなかった。
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