新学期初日 クラス確認

 新学期初日、まずやることがある。クラスの確認だ。

 学校サイトでも初日に公表されるのだがスマホの教室への持ち込みが禁止なのだ。だから持って来ない生徒は多い。

 下駄箱や個人ロッカー、または庶務課に預けることもできるがとても面倒だ。

 俺は校舎前掲示板に張り出されたクラス案内を見た。そこには内部進学生百五十人分のクラス名簿があった。

 その前に人集ひとだかりができていて、とても賑わっている。

 そこに俺は馴染みの顔を見つけた。和泉いずみ梨花りかだ。

「よお、元気してたか~」俺は外面そとづらを作り上げて「イエーイ!」と挨拶した。

「「あ、大地だあ」」声が揃っている。

 ショートカットの和泉はそのままだったが梨花はポニテにしていた。

 この学園は公式行事において髪型と服装にうるさい。女子は髪を下ろしてはいけないことになっていたから、シニヨンか三つ編みが主流だった。ポニテはどうにかボーダーラインだ。

 ポニテの梨花が駆け寄ってくる。栗鼠りすみたいで可愛い。

 俺は両手を挙げてハイタッチさせた。

 俺は身長百七十で背は高い方ではないが、梨花は百五十前半だ。その梨花が飛び上がって俺とハイタッチしたものだから梨花の胸が俺の胸に押しつけられた。

 前より大きくなってね? そしてやわらかい。

 中一の頃からこういうスキンシップをしているがさすがにもう近すぎるだろうと俺は思った。

 その後、和泉ともハイタッチをしたが、和泉はちゃんとわきまえている。適度に距離をとった。

「で、同じクラスだよな?」名簿を見る前に俺は二人に訊いた。

「もちろん」梨花が答えた。

「三十六名中、二十名は中三Aのメンツよ」和泉は状況説明までしてくれる。

「S組だね」梨花が笑った。

「ああ」俺も笑って頷いた。

 俺たちの学校に特進クラスはない。かつては地元のお嬢様が通う女子校だった御堂藤みどうふじ学園は二十年くらい前に共学になり、今は二流の進学校だ。

 二流と自虐的に言うのは、帝都大や医学部などへ進学する者はごくごく一部に限られるものの全員が大学進学するからそう名乗っているのだった。

 そんな俺たちの学校にも一つの方針があった。A組だけが成績上位の者で構成するというものだ。それ以外のクラスは成績が均衡するようランダムに分けられる。そういう意味でもA組は特別だった。

 中等部は三十名クラスが五つあり、毎年組替えがなされるもののA組のおよそ半数は顔ぶれが変わらない。成績の上位はそれほど変動しないからだ。

 高等部になりA組からD組の四クラス編成になったためA組は三十六名となったわけだが、そのうち二十名は前のクラスと同じ顔ぶれだった。

 そして名簿を見て残りの十六名もこれまでに一度はA組になったことのある者たちだった。

 クラス替えしても新鮮味のないクラス。そういう意味でも特別だった。

 何においても特別。いつしか俺たちのクラスはA組ではなくS組と呼ばれるようになった。

 A組の名簿掲示の前に俺たちを中心とする人集ひとだかりができていた。客観的に見ても陽キャの集まりだ。文武両道に秀でたクラスとして羨望のもとになっているだろう。中にいる身としてはいろいろあるのだが。

 次々やってくるクラスメイトとハイタッチを交わす俺の中にわずかに黒い影が差したがどうにか封じ込めた。

 ここでは俺はS組お笑い担当の陽キャだからだ。

 その時俺の体が影に隠れた。

「早いな、みんな」

 振り返ると耀太ようたの巨体があった。身長百九十を超えてまだ成長している。

 体格は痩せでも肥満でもない。中肉中背をそのままスケールアップしたような体だ。だから遠くから見たら大きく見えないこともある。そばに誰か比較対象がいないと分かりにくい巨漢だった。

 でも今はすぐそばだ。

「日をさえぎるな、こら」俺は耀太ようたから離れた。

「またよろしくな」

「お前との腐れ縁は卒業まで続くだろうな」

 俺たちは憎まれ口を叩き合える仲だった。

 俺たちはぐだぐた言いながら新しい教室に鞄をおいて体育館へ向かった。

 内部進学生の式が先にある。その後、入試を経て入学してきた高等部新入生の入学式が行われるのだった。彼らはE組からH組の四クラス百五十名だった。どんな奴らかとても興味がある。


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