第48話 変わらない私

 休憩をもらい沙夜と舞桜の3人で文化祭を楽しむことになったのだが、今になって気付いたことがある。


(これ、ヤバイやつにならないか?)


 右には沙夜、左には舞桜。周りからみれば、ハーレムみたいな状態になっている気がする。好きでこうなっているわけではないが、どうしてこうなることに早く気付かなかったんだろう。


「幼い頃、日向と楽しくやった射的の思い出から私に負けた思い出に塗り替えてあげるよ」

「できるものならやってみなさい。私、古賀さんに負けると思ってないから」


 本当に仲良くなれないのだろうかこの2人は。俺を挟んで喧嘩しないでほしい。やっぱり2人と回ることをオッケーしない方が良かったのかな。


 3年生がやっている射的のところへ行くと空いていたのですぐにすることができた。


 ここに来る前にチケットを買ったので、それを1枚受付の人に渡す。


「では、チャンスは5回です。ちなみにこちらの時計を落とすとこちらのコスプレ衣装がもらえますから頑張ってください」


 そう言った先輩はなぜか俺に向いている。もしかして、俺はコスプレさせたい奴に見えているのだろうか。てか、なぜコスプレ衣装が景品になっているのだろう。このクラスにそういう趣味をお持ちの方でもいるのか。


 取り敢えず、コスプレ衣装が欲しいわけでもないので舞桜との勝負に集中しよう。


「勝敗は5回中どれだけ取れるかよ。勝った人はそうね……負けた人にジュースを奢ってもらえるってことで」

「いいと思う……日向はどう思う?」

「いいと思うよ。それでいこう」


 射的ができるところが2つあったので、先に沙夜と舞桜がやることに。俺はその間2人のことを見ることにした。


 学生がやるものなので、お祭りの屋台にある射的よりかは簡単に作られていそうだ。


 5回はあっという間に終わり、沙夜と舞桜は2つという結果になった。


 ここで俺が2つ以上取らないと2人に奢ることになる。別に構わないのだが、今は勝負中だ。舞桜にも沙夜にも負けたくない。


「日向、頑張れ。勝ったら私がハグしてあげる」

「! わ、私も日向が勝ったら美味しいお菓子あげるわよ」


 いつの間に増えたんだ、この俺が勝った時だけに御褒美が与えられるルール。


 そして俺の番が終わり結果、俺が負けて2人にジュースを奢ることに。


「ありがと日向。喉乾いたでしょ? 日向も飲んで」


 沙夜は、カフェラテを俺に渡してくれた。飲みかけというのに少し抵抗があったが、飲んでほしそうに彼女がこちらを見てくるので一口もらう。すると口の中に少し苦くて、甘い味が広がった。


「ありがと」

「どういたしまして」


 そう言った彼女は、舞桜の方をチラッと見てどや顔していた。それを見た舞桜は、頬を膨らませて腕を組んだ。


「じゃ、射的終わったから大原さんは別行動ね。私と日向は今からデートするから」

「! なら私もいく。日向との勝負は射的だけじゃないから。ね? 日向」


 舞桜さ、ニコッと笑って、目で俺に頷いてと言ってくる。笑っているはずなのに物凄く怖い。


 沙夜と回りたい気持ちはあるが、ここでついてこないでと言ったらハブってる感じがするし、どうしよう……。


「ダメ、日向行こ」

「えっ、あっ、ごめん、舞桜」


 沙夜に手を引っ張られ、舞桜に謝ってからこの場から離れた。


 景品を抱えて1人残った舞桜は、もらったリンゴジュースの缶を見た。


「古賀さんには勝てそうにないや……」





***





「ごめん、ちょっと手洗ってくるね……」

「うん、ここで待ってる」


 日向とシューアイスを食べて、手が汚れてしまったので、お手洗いに向かう。


(美味しかったな……次は何食べようかな)


 手を洗い、ハンカチをポケットから取り出し、拭いてから日向の元へ戻ろうとすると、待ち伏せている様子の宝生くんを見かけた。


 すると、心の中でいうということができず私は呟いた。


「ストーカー」


「なっ、会ってそれはないだろ」


「ストーカーだからモテないんだよ。文化祭まで来て何の用? この高校に友達がいて、その人に呼ばれたからっていう嘘はなしだから」

「なっ! そっ、まだ何も言ってねぇーから」


 つく嘘までバレてしまい、宝生くんは何も言えなくなった。


(宝生くんはわかりやすすぎる……)


「私に言いたいことがあったら言ったら? 私、暇じゃないの」

「もしかして彼氏か?」

「何でそんなこと聞くの? 私が何をしようと宝生くんには関係ないと思う……」

「そ、それは」

「じゃあね……」

 

 私は宝生くんには全く用がないので、彼の元から離れて再び日向の元へ向かう。


(結局、何が言いたかったのかわからなかったな)


 甘い香りのする教室の前を通りすぎようとしたが、何を売っているのか気になり立ち止まると後ろから名前を呼ばれた。


「沙夜、こんなところにいたのね。探したのよ」

「!」


 振り向いて誰かと確認しなくても声でわかる。文化祭に呼んだ覚えはないが、振り返るとそこにはお母様がいた。


 お父様も一緒かと思ったが、お母様1人のようでいなかった。


「何で……」

「何でって母親である私が来たらダメなのかしら?」

「い、いえ、そういうわけでは……ただ日程も教えてなかったので、来られるとは思ってなくて」


 せっかく楽しい文化祭なのに何で私はこんなに堅苦しい空間にいるんだろう。逃げ出したくても逃がしてくれない空間に。


 私は嫌いだ。お母様の機嫌を悪くしないようにするために立ち振舞いを気にして、嘘の言葉を言う自分は。


「沙夜がどんな学校生活を送ってるか気になったの。河井くんだったかしら? 彼はいるの? いたら少し挨拶しておきたいのだけれど」


「……ひ、日向は、あの角を曲がったところにいます」


「そう、なら一緒に行きましょ」

「はい、彼がいるところまで案内します」


 そう言ってお母様の前に立ち、日向のところまで案内することに。


 角を曲がるとそこには私を待っていてくれた日向がいた。彼はすぐに私が来たことに気付き、そして後ろにいるお母様にも気付いた。


「あっ、沙夜……と綾さん?」


「お久しぶりですね、河井くん」

「は、はいっ、お久しぶりです」


 怖い。ただの挨拶ならいい、けど、お母様なら今すぐ私と別れてと日向に言いそうだ。そう思った私はお母様が目の前にいるが日向にぎゅっと抱きついた。


「日向……」








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