3章

第26話 私、よく体調崩しちゃうの

 週末の午前は5人でバスケをした。いつもは旭と話しながらただシュート練をしたりするだけだが、人数が多かったので試合をすることができた。


 驚いたのは沙夜の身体能力の高さだ。学校の体育の授業では男女別れて行うため、沙夜がスポーツをしているところは初めて見た。


 バスケはそこまで得意ではないと言っていた彼女だが、何度もシュートしていた。


 やっぱり、沙夜は凄い。俺も頑張らないと。彼女の隣にいて恥ずかしくないぐらいに。


 月曜日の朝。沙夜と一緒に学校に行くために駅前で昨日のことを思い出しながら待っていた。


 いつもなら同じ電車に乗ってそこで合流するのだが、今日は電車に沙夜は乗ってこなかった。


 乗り遅れたのかなと思い、沙夜からのメッセージが、来ていないか確認する。だが、メッセージはなし。


(心配だな……)


 しばらくすると沙夜から『今日は休む。大したことない熱だから心配しないで』とメッセージが来た。


(熱……大丈夫かな。学校終わったらお見舞いに行こう)


 沙夜に『わかった。お大事に』とメッセージを送り、1人で学校へ行くことにした。


 沙夜は一人暮らしなので大丈夫なのか物凄く心配だ。


 昨日はいつも通り元気そうでバスケをしていた……。あれ、もしかして、気付かなかっただけでしんどかったのでは?


 昨日の彼女の様子を思い出していると後ろから名前を呼ばれた。


「おはよ、河井くん」


「……あっ、おはよ、椎名さん」


 少し挨拶を返すのに間があったので、椎名さんは首をかしげて心配そうに俺のことをじっと見てきた。


「何か……あっ、そう言えば沙夜ちゃんは? いつも一緒に登校してきてるよね?」


「うん、熱でお休みだって」


 椎名さんの問いにそう答えると彼女はなるほどねと呟いた。


「心配になるよね、大切な人が熱って聞いたら。お見舞い行かなきゃね」


「うん、行くつもり。本当は今すぐ沙夜のところに行きたいけど、学校が……椎名さん?」


 話していると椎名さんがニヤニヤしながらこちらを見ていた。


「いいねいいね、沙夜ちゃんのことが本当に大好きってことが伝わってきた」


「!」


「ふふっ、沙夜ちゃん、早く元気になるといいね」


 そう言った椎名さんは、ニコッと俺に微笑んだ。


 椎名さんも1人なようで一緒に行くとは言っていないが、横並びで歩いていると後ろから走ってきたクラスメイト高坂廉こうさかれんが声をかけてきた。


「おはよ、明莉と……河井?」


 珍しいなと言いたげな表情で高坂は俺と椎名さんを交互に見た。


 高坂とは話したことがないが名前を覚えてもらえていて嬉しかった。


 俺は、教室だとあんまり目立つ方ではない。それに比べて高坂は男子の中でも1番モテていて、人気者だ。


 そう言えば高坂は椎名さんのことを下の名前で呼んでいる。どういう関係だろうか。


「おはよ、高坂くん。河井くんが1人で暗そうな顔してたから話を聞いてたの」


「ん? 何かあったのか?」


 一緒にいることが多くてもまだクラスメイトには沙夜と俺が付き合っていることは知られていない。おそらく知らないだろう高坂にそれを伝えた上で話すべきか……。


「さ……古賀さんと毎朝一緒に行ってるんだけど、今日は熱で休みらしくて……」


「えっ、古賀さん休み? それは心配だなぁ。河井ってよく古賀さんといるの見るけど、友達?」


 友達かと聞いてくるが高坂は薄々何かに気付いているように見えた。


「友達にしかまだ言ってないけど、古賀さんと付き合ってる……」


 最後になるにつれて声が小さくなっていった。だが、高坂はちゃんと聞こえてたのか俺の肩をポンッと優しく叩いた。


「おぉ、それはビックニュースだな」


「高坂くん、おめでたいことだけど誰にも言ったらダメだよ?」


「わかってるよ。大騒ぎになりそうだし言うつもりはない。いろいろ聞きたいことあるけど、待ち合わせあるから先行くな。また教室でな、明莉と河井」


 誰かと待ち合わせしているようで高坂は先に行ってしまった。


「何か高坂くんっていつも走り回ってる感じがするんだよね」


 小さく笑い、彼の背中を見送る椎名さんは、隣でそう呟いた。


「椎名さんは、高坂とは……」


「高坂くんとは同じ中学。風のように来て風のように帰っていくみたいな人だよ」


「へぇ……」


 取り敢えず、椎名さんによれば高坂は、風のような人らしい。




***




「じぇら……」


「? 体調はもう大丈夫そう?」


「うん、大丈夫……」


 放課後、事前に買ってきて欲しいものを聞いて、それを持って沙夜の家を訪ねた。


「お見舞いありがとう。私、よく体調崩しちゃうの……。熱も下がったし明日には学校行ける」


 沙夜はゆっくりとベッドから起き上がり、俺が買ってきたゼリーを手に取る。どうやら食欲はあるそうだ。


「それは良かった。じゃあ、そろそろ帰ろ……沙夜?」


 帰ろうと椅子から立ち上がると後ろから服の裾をぎゅっと掴まれた。


 後ろを振り向くとそこには俺の服の裾をぎゅっと掴み、うるっとした目で見てくる沙夜がいた。


「行かないで……」


「!」


 何だろう。いつもより沙夜が可愛く見える気がする。


「うん、わかった」


 彼女の手を優しく包み込むように握り、椅子に座り直した。


「日向、今日の学校の話、聞きたいな」


「うん、いいよ」


 学校に行っていなかったから気になるのだろう。今日は何があったのかと。


「今日、まぁ、朝にいろいろあって高坂と仲良くなったんだ……あっ、高坂に沙夜と付き合ってること言ったんだけど───」

「むっすぅ~」


 話の途中だったが、沙夜は、リスのように頬を膨らませるので、話すのをやめた。


「えっと、沙夜さん?」


「気にしないで……リスのマネしただけだから」


「そ、そう……」


 学校で起きたことを話すと、沙夜は楽しそうに聞いてくれた。


「ね、日向……最近してなかったけど、放課後また何か食べに行きたいね」


「そうだな……最近はどこにも寄ってなかったね」


 雨が降ることも多く、放課後にどこか寄って帰ることはここ最近していなかった。


「私、エクレアのカスタードが食べたい気分。商店街にエクレアが食べれる店があるんだけど、どうかな?」


 本当に沙夜はいろんなカスタードスイーツを知っている。いろんなカスタードスイーツを食べているとカスタードの良さがわかってきた気がする。


「なら明日行けそうならそこに行こっか」


「うん!」

 

 







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