第25話 仲良くなったらダメかな

 河井くんと沙夜ちゃんに助けてもらったその日の夜。私は、先に沙夜ちゃんにお礼のメッセージを送り、次に河井くんへ送った。


 今日、わかったことがある。沙夜ちゃんは可愛いしカッコいいところがあるということ。


 どんな風に萩原くんに説教したのか私は見ていないのでわからないが、私のために行動してくれた。相手は男の子なのに。


(沙夜ちゃん、カッコ良かったな……)


 沙夜ちゃんもそうだけど、河井くんも男子の中ではとても話しやすい人だ。


 河井くんには沙夜ちゃんがいるけど、仲良くなったらダメかな……。





***





「んん……朝か……」


 カーテンから眩しい日差しが差し込み、目を覚ます。腕が上手く動かないなと思い、そちらに目をやると沙夜がぎゅっと抱きついていた。


 そっか、昨日はデートして、沙夜は泊まることになったんだっけ。


 寝る前の出来事を思い出していると体がかーっと熱くなる。


 お母さんがあの時、リビングに来なかったら俺は多分、彼女にしていたと思う。


 今疑問に思ったけど、キスって付き合ってどれぐらいでするものなのだろうか。


「んん……日向……?」


 彼女も目を覚まし、名前を呼んで俺の顔をぼんやりと見つめる。


「おはよ、沙夜。よく眠れた?」


 昨夜、お喋りしすぎて寝たのは23時頃。彼女にとってはおそらくいつもより遅い時間の就寝だろう。


「うん、日向が隣にいたからぐっすり……」


 彼女はそう言いながらごそごそと布団の中で動きそして俺の額へキスした。


「さ、沙夜?」


「ふふっ、おはようのチューだよ。恋人はよくやるって結菜聞いた」


「へぇ~そうなんだ」


 丸山さんは物知りだな。あれ、沙夜が俺にしてくれて、俺は何もしなくていいのだろうか。


 お返しのチュー、言ってて恥ずかしいが、沙夜は俺にしてくれるのを待っているんじゃないか。


(分かりやすく、沙夜がこっち見てきてるし)


 そっと優しく沙夜の額にお返しのキスをすると、彼女の表情はふにゃりと緩んだ。


「そうだ、バスケのことだけど沙夜も大歓迎だって。丸山さんも来るらしいよ」


 昨夜の旭からのメッセージの返信を彼女に伝え忘れていたので今伝えた。


「結菜も来るんだ、楽しみ……」


 布団の中でいつまでもこうして沙夜といるのもいいが、旭とのバスケをする集合時間までに間に合わないので起きることにした。


 朝食はお母さんが用意してくれたサンドイッチを沙夜と食べ、各自動きやすい服装で駅前集合ということで彼女は一旦家に帰った。


 駅前に沙夜と集合したのは別れてから1時間後のこと。


「お待たせ、日向。動きやすい服で来た」


「…………」

 

 沙夜が着てきた服は上も下も刺激がつよつよなものすぎる。


 俺がしばらく固まっていると沙夜は心配して顔を覗き込んできた。


「日向、大丈夫?」


「だ、大丈夫……ではないかも……」


 いろんなところがくっきりと見えていてなんというかエロい。ポニテだからいつも見えない首筋まで今日は見えている。


 先ほどから沙夜のことをチラチラ見る人がいるし、ここは何か上に着せないと。


 寒いかもしれないと思って持ってきていた薄い長袖の上着を彼女の肩にそっと優しく置く。


「その……刺激が強すぎるので着て欲しい」


「刺激が強い……」


 沙夜はゆっくりと自分の服装を見ていき、顔が真っ赤になっていく。


「あんまり気にならなかった……日向に見られるのはいいけど、他の人の視線は集めたくないから上着借りるね……」


「うん、返すのはいつでもいいから家に帰るまでは着てて」


「うん……」


 上着なしで電車に乗った時、おそらく沙夜は注目を浴びていただろう。


 あんな刺激つよつよな服を見たら誰だって二度見してしまう。


 彼女が上着の袖に手を通して着てから旭と丸山さんと待ち合わせているバスケットコートがある場所へ向かった。


「日向、中に入ってるのはバスケットボール?」


 沙夜は俺が手に持っているバスケットボールが入った袋が気になり聞いてきた。


「ん? あぁ、そうだよ。結構長く使ってるやつ」


「そうなんだ。バスケ好きなんね。得意なの?」


「んー得意かなぁ……まぁ、できる方だとは思ってる。沙夜は、バスケ得意?」


「バスケは体育の授業でしかしたことないから得意ってほどじゃないかな……」


 彼女はそう言うが、噂で沙夜はスポーツ万能で、バスケの授業では誰よりも活躍していたと聞いたことがある。


 後、試合でバスケ部がいるチームが沙夜に負けたって話も聞いたな。


「沙夜は、中学の時、部活には入っていたの?」


「バレー部に入ってたよ。小学校からやってた」


「高校では続けなかったんだ」


「うん……あっ、結菜と久保くん発見したよ」


 沙夜は、楽しそうに話す2人を見つけて小さく手を振り、2人の元へ行く。


「おっはよ、さーちゃん、河井くん」


「おはよ」

「おはよ、丸山さん」


 合流し、挨拶を交わしているとここへ1人走ってやってきた。


「お待たせ! 私が1番最後だった?」


 後ろを振り返るとそこには舞桜がいた。旭から丸山さんが来るとは聞いていたが、舞桜が来るのは知らなかった。


「日向と古賀さんもさっき来たばかりだから大丈夫。今朝、偶然会って舞桜にバスケをやることを話したんだ。そしたら彼女もやりたいって言ってね。日向、古賀さん、舞桜もいいかな?」


 旭にそう聞かれて、一緒にバスケをしたくないとは思っていないので俺は頷く。


「私もいいよ……多い方が楽しいし」

 

「ありがとう、日向、古賀さん」


 舞桜はニコッと俺と沙夜に笑いかける。そう言えば、舞桜とあの日以来会ってなかったな。久しぶりだ。


 バスケットコートへ移動することになり、先に歩きだした旭と丸山さんの後をついていこうとすると沙夜と舞桜が何やら話していた。


(行くよーって声かけた方がいいかな?)


 けど、何やら話しているっぽいから話しかけにくい。


「大原さん、日向がいるから来たでしょ?」


「! そうだけど、何か問題でもある? 今の2人の間に私が入る隙はないと思ってる。けど、私は諦めてないから」


 この前の告白は、ただ自分も好きだと言うことを沙夜に知らせたかっただけじゃない。隙があればあなたから彼を奪うという宣戦布告だ。


 舞桜の言葉を聞いて、沙夜は、やっぱりねと心の中で呟きうっすらと微笑んだ。


「諦めない気持ち大事だと思う……。けど、私は隙なんて見せないよ」


 会話は聞こえなかったが、話が終わったのか沙夜が、嬉しそうに俺のところへ来て腕にぎゅっと抱きつく。そして後ろを振り向き舞桜に言った。


「大原さんも行こっ」







    

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