第27話 もしかして今、じぇられてらっしゃる?
「さーちゃん、大丈夫だった!?」
「大丈夫……ちょっとしんどかっただけだから」
翌日、沙夜は体調が良くなったため学校へ登校してきた。
心配していた丸山さんは彼女が来たのに気付くと駆け寄って抱きついた。
「も~心配したんだからね? 病み上がりで食べれるかわからないけどこれどうぞ。駅前のカスタードシュークリームだよ」
「わぁ、いい匂い! ありがと、結菜」
丸山さんからもらったカスタードシュークリームを受け取り、沙夜はさっそく食べようとしていたが、首を横に振り、持つところがあったので机の横にかけた。
「食べないの?」
横にいて見ていた俺は彼女にカスタードシュークリームは食べないのかと聞くと沙夜は首を横に振る。
「お昼のデザートにする……。そうだ、今日、楽しみだね、商店街のエクレア食べに行くの」
とても楽しみになのか彼女はキラキラした目をして放課後のことを話す。
(カスタードの愛が凄いな……)
カスタードに負けないようにしないと、という謎の気持ちが出てきた。
俺と沙夜がエクレアの話をしているとそれを聞いていた旭が話に入ってきた。
「商店街のエクレア俺も食べたことあるよ。美味しいよね」
「久保くんももしかしてエクレア好き?」
エクレア好き仲間発見!と顔に出ていて、テンションが高い沙夜は旭に聞く。
「まぁ、嫌いではないかな。古賀さんはカスタードが好きなんだっけ? 結菜から聞いたけど」
「うん、とっても好き」
「ならとっておきのカスタードスイーツを教えてあげるよ。後で詳細を送っておくね」
「わぁ~とっても気になるな~」
「日向は古賀さんに教えてもらって。いい店だと思うから2人で行くことをオススメするよ」
お昼はいつも一緒に食べるが、沙夜と旭が話しているのは初めて見た。
取られるなんて心配はしてないけど、モヤモヤするな。
今までこんなことがなかったためこれはどういう気持ちなんだろうかと考えていると丸山さんが隣に並んで話しかけてきた。
「河井くん、もしかして今、じぇられてらっしゃる?」
「じぇられる? どういうこと?」
最近、似たような言葉を聞いた気がしたが、また聞き馴染みのない言葉だ。
「なーいしょ。あっ、明莉ちゃんおはよー!」
「おはよう、結菜ちゃん。河井くんもおはよ」
「おはよ、椎名さん」
椎名さんの柔らかな笑みは何だか不思議な感じがする。
「わっ、ヘアピン変えた? 可愛いよ」
「ありがとう、結菜ちゃん。気付いてくれて嬉しいな」
えへへと笑う椎名さんは、ヘアピンを少し触り、俺の方を見た。
目が合い、不思議な空気が流れるとその空気を打ち破るかのような破壊力のある笑顔で椎名さんは微笑んだ。
***
昼休み。デザートタイムに入った沙夜にロッカーに教科書を取りに行ってくると伝え、俺は教室を出た。
1人で廊下を歩き、渡り廊下を見ると自販機から少し離れたところで困っている様子の椎名さんがいるのを見かけた。
「椎名さん?」
「わっ、河井くん」
背後に気付かず急に声をかけられ、椎名さんは驚いていた。
「何か困り事?」
「……えっと、自販機で飲み物を買いたいんだけど……」
買いたいけど買えない理由がある。そんな感じがして俺は、自販機の方を見た。
自販機の周りには男子が10人たむろっており、その中に萩原がいるのを確認した。
(なるほどね……)
俺もあの人数がいる近くに行くのは少し勇気がいるが、1人知り合いがいるので、大丈夫だと思った。
「椎名さん、俺が代わりに買ってくるけど何がいい?」
「えっ、いいの……?」
「うん、あれは買いにくいよな」
「……ありがとう。じゃあ、麦茶を頼めるかな?」
椎名さんは財布から150円を取り出し、それを俺の手のひらにのせる。
「うん、わかった」
受け取ったお金を握りしめ、俺は麦茶を買いに行った。
ちなみにさっき言った顔見知りは昨日仲良くなった高坂だ。彼に場所を空けてほしいと頼んだらスペースを空けてくれて自販機で無事買うことができた。
「買えたよ、椎名さん」
「ありがとう、河井くん」
買った麦茶を渡すと椎名さんは、受け取り小さく微笑んだ。
「じゃあ、俺は行くね」
「……あっ、待って!」
立ち去ろうとしたが、椎名さんに呼び止められて後ろを振り向く。
「河井くん、お礼に」
椎名さんから受け取ったものはチョコレートだ。
「ありがとう」
「うん!」
椎名さんと別れて、ロッカーで教科書を取りに行ってから教室に戻ると沙夜は、カスタードシュークリームを食べ終え、机に突っ伏していた。
(なんかこういう沙夜、久しぶりに見たかも)
「沙夜?」
「あっ、日向、お帰り……。結菜と旭は、どっか行った……」
「どっか……そうだ、シュークリームはどうだった?」
デザートを楽しみに午前中は頑張っていたらしいので、頑張った後のシュークリームは美味しかったはずだ。
「とっても美味しかったよ。話変わるけど、今日は、私の家で夕食食べない? 豚の角煮を作るから」
「豚の角煮……いいな、食べに行ってもいいなら今日は沙夜の家で夕食を食べようかな」
「うん! ところで、さっき椎名さんと何か話してたの? お手洗いの時に2人が話してるのを見かけたから気になったの」
驚いた。沙夜は教室にいたはずなのにそこから離れたところで俺と椎名さんが話しているところを見られていたとは。
まぁ、見られても別に隠すようなことは話してないし、なにもしてない。
「飲み物が買えなくて困ってたから代わりに俺が買っただけだよ。自販機の前に萩原がいたんだ」
「萩原……あの子、私の説教が足りなかったのかな?」
今にもまた萩原を呼び出して怒りに行きそうだったので俺は慌ててさっきの話に少し付け足す。
「いやいや、萩原はいただけで椎名さんには何もしてないから」
「何も……そう、それならいいけど……」
これは信じているのか微妙なところだ。すまん、萩原。暫くは背後に気を付けてくれ。
***
麦茶を受け取り、河井くんと別れた私は、教室に戻る前に中庭のベンチに座る。
「優しい人……」
気になるから仲良くなりたい。ただそれだけなのに彼と話した後、とてもドキドキしている自分がいる。
買った麦茶を1口飲み、蓋を閉めると偶然中庭を通りかかった大原さんと目が合った。なので、私は、微笑み、手を小さく挙げ、声をかける。
「大原さん」
「? 椎名さん、ここでどうしたの?」
大原さんとはあまり話したことがないが、クラスメイトなので、どんな子なのかは知っている。
「ちょっと1人で涼んでところ。大原さんも座る?」
隣が空いているのでトントンと手で優しく叩くと彼女はコクりと頷き静かに座った。
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