第28話 たくさん思い出を作りたい
「放課後だね。ここまで長かった……」
放課後になると沙夜は帰る準備をすぐにして俺のところへ来た。
「準備早いね」
「へへん、早くエクレア食べたいからね……」
謎のどや顔をした彼女は、そう言って俺が帰る準備を終えるのを待っていた。
「お待たせ、行こっか」
「うん!」
早く食べたいのか沙夜の歩くスピードがいつも速い気がする。早歩きで学校を出て、商店街のエクレアの店を目指す。
商店街に入ると4月の最初に沙夜と行ったたい焼きの店の前を通った。
懐かしいな。あそこのたい焼きは、とても美味しかったので是非また行きたい。今日は無理でもまた今度沙夜を誘って行こう。
学校を出てからずっと彼女とは手を繋いでいたが、俺がいろんな店を見ているとすっと手が離れた。
彼女のいた方を見ると隣にはおらず、少し先にある店の前にいつの間にか行っていた。
彼女の元へ駆け寄ると、沙夜は手招きして、口を開いた。
「日向、本日の寄り道場所はここです!」
「おぉ、オシャレ……」
店の前にある看板を見てみるとどうやらエクレア専門店ではないようで他にもスイーツがあった。
だが、カスタードが入っているスイーツは、エクレアだけだ。
店に入ると外装から思っていたが、オシャレでそして雰囲気のいいところだと感じた。
店員さんにテーブルに案内されると、俺と沙夜は向かい合わせに座り、メニュー表を見た。
スイーツとドリンクのセットがあるらしく、スイーツの方はエクレアにし、ドリンクは紅茶を頼んだ。ちなみに沙夜も俺と同じセットを注文した。
注文したものが届くまでの待ち時間、俺と沙夜は雑談をして待つことにした。
「そうだ、お母様が、日向に会いたいらしいの。だから夏休み、一緒に家に来てくれる?」
前に彼女に沙夜の両親にも挨拶したいと言ったら「いつかね」と返された。
あの時の彼女の作られたような笑顔は今でも覚えている。
それにしてもお母様が会いたいと言っているということは沙夜は俺のことを話したのだろうか。
「行ってもいいの?」
「うん、もちろん。付き合ってる人がいるとは言っていないけど、大切な人ができたって私が言ったらお母様が連れてきなさいって……」
もちろんとは言ったが、沙夜のお母様は俺に会いたそうだが、沙夜は俺にお母様と会って欲しくなさそうに見えた。
「わかった……夏休みだね。1つ聞きたいんだけど、沙夜のお母さんってどんな人?」
「私の? そうね、前にも話したけど、とても優秀な人。けど、冷たい人……」
彼女からしてお母さんがどういう人であるかを聞いて彼女がなぜ俺と母親を会わせたくないのかわかった。
娘に対して冷たいのならお母さんは、俺にも冷たい態度を取るのではないかと沙夜は思ったからだ。冷たい態度を取られて傷つく俺が見たくないから。
「冷たい人なの……だからもしかしたらお母様は日向を傷つけるかもしれない……」
「……だから本当は、俺をお母さんに会わせたくないっこと?」
確認を取るとなぜわかったのかという表情で沙夜は俺のことを見て、コクりと頷いた。
「大丈夫だよ。どんな人でも俺は沙夜のお母さんに会って挨拶したい」
手を伸ばし、安心させるように彼女の頭を優しく撫でる。しばらく撫でていると店員さんが来たのに気付き手を引っ込めた。
「お待たせしました。エクレアと紅茶のセットです」
「わっ、エクレア待ってました!」
いつもより明るい声を出した沙夜の目はキラキラしていた。
暗い顔をしていたが、スイーツで笑顔になった。スイーツは魔法だな。
一口エクレアを食べた彼女は幸せな表情をしていて、口の中になくなると口を開いた。
「日向が、大丈夫なら私はそれを信じる。夏休み、一緒に行こっ」
「うん」
頷き、俺もエクレアを一口食べる。久しぶりに食べたが、外がチョコでとってもいい。チョコスイーツはやはり美味し……いや、やはりカスタードスイーツは美味しいな。
目の前に座る沙夜が、俺の心の中を読んだのかエクレアの中にあるカスタードをアピールしてきた。
「カスタード、美味しいね」
「でしょでしょ? うんまぁ~だね」
久しぶりに聞いた気がする。沙夜の口癖みたいなのかわからないが、よく美味しいものを食べた後に言う言葉。
「そう言えば、もうすぐ夏休みだね。勉強も大切だけど日向とたくさん思い出を作りたい」
「そうだね、いろんなところ沙夜と行きたいな」
沙夜とならどこへ行っても楽しいだろう。夏休みなら海とかプールだろうか。
「うんうん、私、プール行きたい。後、動物園とかもいいな、癒されに行きたい」
「うん、行けるところたくさん行こ。スイーツ巡りはとかはどう?」
「それ、ナイスアイデア! まだ日向に紹介してないカスタードスイーツがあるの」
沙夜のカスタード愛は凄いな。彼女に会わなければ俺はおそらくカスタードをいろんなところに食べに行ってはいないだろう。
「そだ、久しぶりににゃんにゃんに会いに行かない? 私もあの日から行ってなくて癒し不足なの」
エクレアをいつの間にか食べて、紅茶を飲む沙夜は、そう言ってスマホでにゃんにゃんの写真を眺めていた。
「うん、俺も行きたい」
「じゃ、決まりね」
***
エクレアの店から出て、カフェ『AMAOTO』へ沙夜と一緒に向かった。
店の中に入ると部屋から出てきたにゃんにゃんが沙夜の方へ走ってきた。
「にゃんにゃん、天使! お迎え、えらい……」
沙夜は膝に乗った猫を撫で、幸せな表情をしていた。
(猫もそうだが、沙夜も天使な気がする……)
沙夜が猫を抱えて、カフェの奥へ入っていくので彼女についていこうとするとちょうど働いていた千里さんに話しかけられた。
「いらっしゃい、沙夜ちゃん、河井くん」
「千里さん、こんにちは」
「付き合い始めたんだって? 沙夜ちゃんから聞いたよ」
「あっ、はい……少し前から」
照れながらそう答えると千里さんは俺の肩に手を置いた。
「沙夜ちゃん、昔から1人でいることが多くて寂しがり屋なの。だから河井くん、できるだけ沙夜ちゃんの側にいてあげて」
「……はい、沙夜を1人にはしませんよ」
沙夜が1人でいることを寂しいと思っているのはこの前のお泊まりで感じた。
彼女には寂しい思いはさせない。沙夜には笑っていてほしいから。
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