第44話 彼女が考えたら全てカスタードになる

 長い夏休みが終わった。今日から新学期。久しぶりに友達と会ってたくさん夏休みのことを話した。


 どこに行ったとか、どう過ごしてたかとかそういう話を。


 友達と話していると教室に入ってきた舞桜ちゃんを見つけた。私は彼女に用があるので、話しかけに行くことにした。


「あっ、みんなごめんね。ちょっと行ってくる」

「うん、また話そう明莉ちゃん」

「バイバイ」


 友達の元から離れ、席についてカバンを机の横にかけた舞桜ちゃんのところへ行く。


「舞桜ちゃん、おはよ」

「あっ、おはよ、椎名さん」


 舞桜ちゃんは、私が来たことに驚いていた。仲良くなったのはあの夏祭りで、学校で話すことはあまりなかったから驚いたのだろう。


「今はもうあんまり時間がないから1限目終わったらちょっとお話いいかな?」


「話? いいわよ」

「ありがとっ! じゃあ、また休み時間に」


 ニコッと笑い、もうそろそろ本鈴がなるので、自分の席へと座った。


 1限目が終わると舞桜ちゃんとあまり人のいないところへ移動した。


「ごめんね、急に。確かめたいことがあったっていうか……ちょっと聞きたくて」


「確かめたいこと?」


「うん、もしかしてだけど、舞桜ちゃんって河井くんのこと好きなのかなって」


「!」


 夏祭りで舞桜ちゃんは、河井くんに浴衣が似合っているかどうか聞いていた。そして、彼と話しているとき嬉しそうにしていた。


 この2つのことから私は、気付いた。もしかしたら舞桜ちゃんは、河井くんのことが好きなんじゃないかって。


「何で日向のこと好きかどうか確認するの?」


「もし、舞桜ちゃんが河井くんのこと好きって言うなら私─────」





***





「お~い、沙夜さん?」


 新学期が始まり、始業式が終わった後は文化祭の話が行われ、まずはチーム分けとなった。


 沙夜に一緒にやろうと誘いに来たのだが、机に突っ伏していた。


(久々に見たこの光景……)


 俺が起こすのに困っているとそこに丸山さんが来てくれた。


「さーちゃん、おっきろ~」

「起きてる……文化祭の話でしょ? 日向、結菜、久保くん、一緒にやろ?」


 沙夜は顔を上げてこの場にいる俺と結菜、そしていつの間にかこちらに来ていた旭を誘う。


 いつものメンバーだが、これでは人数が足らない。


「文化委員、人数は確か5人からだよな?」


 文化委員の1人である旭に聞くと首を縦に振り、後1人は必要だなと言った。


 1人を探すのは難しそうだ。みんなグループがあるし、そこから1人だけこちらに来てもらうのは……。


「おっ、ここいい?」


 困っている俺たちのところに来てくれたのは高坂だ。


「もちろん、歓迎するよ、高坂。結菜、古賀さん、日向、大丈夫?」


 旭は、高坂を歓迎し、入れても問題ないかとここにいるみんなに聞く。


「私はオッケーだよ」

「私もいいよ、歓迎する……」

「1人足りなくて困ってたからありがとう」


 全員、高坂を歓迎し、何とか5人集まり、黒板に書かれたものからどの役割をやるか決めることにした。


 役割は全部で7つ。文化祭ではメイド喫茶に決まり、衣装チームや看板作りチームなど様々なものがある。


 どれにしようかと悩んでいると教室に入ってきた椎名さんと目が合った。


「あっ、もしかしてもうチーム作り終わっちゃった?」

「うん、ついさっき」

「わ~乗り遅れちゃった」

 

 椎名さんが辺りを見回してどのチームに入ろうか悩んでいると高坂が彼女のことに気付いた。


「明莉、先生との交渉お疲れ様」

「あっ、高坂くん。何とかなったよ」

「それは良かった。明莉、ここのチーム入るか? まだ決まってないだろ?」


 いいのかなと困っていると椎名さんと高坂の会話を近くで聞いていた沙夜が手を合わせた。


「明莉ちゃん、一緒にやろ。5人以上だから6人でも大丈夫。今、どの役割をやろうか決めてるの」


「ありがとう、沙夜ちゃん」


「いえいえ。あっ、結菜と久保くん、食べ物チームはどういうことするって?」


 沙夜は、黒板に書かれている役割を詳しく女子の文化委員に聞きに行った旭と丸山さんに聞く。


「何かメニュー考えるんだって。後はメニュー表作ったり。楽しそうじゃない?」


「うん、とっても楽しそう……。あっ、2人ともこのチームに新メンバーが今さっき入ってくれました。とても心強い……」


 沙夜は、旭と丸山さんに椎名さんも入ったことを伝える。


「わっ、明莉ちゃん! これは心強い。さてさて、このチームはどの役割をやるか多数決して決めよっか」


 丸山さんが仕切ってくれて、多数決でどの担当をやるか決めることに。結果は、まさかの全員一致でメニューを考える担当にしようということになった。


「じゃ、私がさこちゃんに言ってくるね」

「ありがと、明莉ちゃん」


 椎名さんが文化委員にどの役割をやりたいか伝えにいってくれた。そして数分後、満面の笑みで帰ってきた。これはもしかして……。


「他にもやりたいっていうチームがいたんだけどじゃんけんで勝ったよ!」


「「おぉ~」」


 拍手し、希望していた担当になれたことに喜ぶ。そして、文化委員からもらったメモを椎名さんはみんなに見せた。


「取り敢えず、明日までにメニューを考えておいてだって。グループチャット作っておこっか」


「賛成。ここの4人作ってるから私が明莉ちゃん誘うね。高坂くんは……」

「俺、持ってるから入れておくよ」

「ありがと、日向」


 2学期が始まり1日目だが、文化祭の準備が始まりここしばらくは忙しくなりそうな気がした。





***





『抹茶カスタードたい焼き、カスタードプリン、カスタードシュークリーム』


 夕方頃、メニューを考える文化祭グループに沙夜から送られてきたメッセージを見て俺は、クスッと笑ってしまった。


「カスタードばっかりだ……」


 これ、彼女が考えたら全てカスタードになるな。メイド喫茶がカスタード喫茶になってしまう。


 自分も沙夜のようにこれを出したらいいんじゃないかと思うものをメッセージで送る。


(文化祭か……去年は俊と2人で回ったけど今年はやっぱり沙夜と2人で回れたらいいな……)


 ドサッとベッドに寝転がり、目を閉じると片手に持っていたスマホが振動した。画面を見ると、メッセージが来ていたので、通知をタップする。


『文化祭なんだけど、一緒に回らない?』








      

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