第14話 まだ何もしていないのに決めつけるのはよくない

 彼女と一緒にいて気付いた。俺は、古賀さんが好きだってことに。


 彼女は異性として好きということはドキドキしたり、この人と特別な関係になりたいと思ったり、この人を独占したいって思うことだと言っていた。


 その言葉をよく考えてみたところ俺は全て当てはまっていた。古賀さんといるとドキドキして、特別な関係、つまりお付き合いしたいと思っている。そして、独占したいという気持ちもある。


 何度も考えて俺は答えを出した。この気持ちを隠し続けるのは無理だ。



 電車を降りて改札を抜けると後ろから古賀さんの声が聞こえて足を止める。


「河井くん!」


「あっ、古賀さん、おはよ」


 彼女を目の前にすると気持ちはどんどん大きくなる。決めたからには今日、必ず。



 時は遡り、2日前。古賀さんが、椎名さんとショッピングモールで恋愛相談をしている時間、俺は、旭に相談していた。


 その日はいつも待ち合わせしているバスケットコートに旭と集合し、バスケをしていた。


 中学の頃は部活でやっていたが、今は部活には入らずこうして公園でやったりする程度だ。


「おー、ナイスシュート! で、恋愛相談だって?」


 シュートを決め、俺は後ろを振り返り、旭の言葉に頷いた。


「変にニマニマするな。真面目に話したいというのにニマニマされると旭の場合、ふざけてるようにしか見えない」

「ひどいっ!」


 女子みたいなリアクションに俺はスルーし、ベンチに座った。すると、旭も一度シュートにチャレンジしてからこちらへやって来た。


「で、古賀さんが好きになった……だっけ?」


「俺はまだ何も言ってない。が……間違ってはない」


 なぜ古賀さんだとわかったんだ、旭は。古賀さんだとまだ言っていないのに。


「やっぱりね、好きなら告白したらいいんじゃない?」


 そんな簡単に言えたらいいけどな。好きと気付いたらそれを彼女に伝えるのは俺もわかっている。けど、伝えるのが怖い。


 もし、告白して断られ、彼女との楽しい時間がなくなるかもしれない思うと今の関係のままでもいいんじゃないかと考えてしまう。


「告白して断られるのが怖いのか?」


「! 何でわかるんだ……」


「わかるさ、日向との付き合いは長いからね。怖い怖いって言ってたら古賀さん、取られるよ。人気者だしね」


 旭の言う通りだ。怖い怖いといって、今のままでいいやと思うのは逃げだ。もし、古賀さんを他の人に取られたら俺は後悔するだろう。


「日向。まだ何も行動していないのにこうなると決めつけるのはよくないよ」


「……その通りだな」


 小さくそう呟くと旭が俺の背中を押すようにバシッと叩いてきた。


「応援してるぜ、日向」


「あぁ……ありがとう、旭。俺、古賀さんに気持ちを伝えてくるよ」


 まだ何もしていないのに決めつけるのはよくない。好きな気持ちを隠して、後悔するのは嫌だ。





***





 旭と別れた後、家に向かって歩いているとどこかへ出掛ける感じの服装をしている舞桜と出会った。


「バスケットボール……もしかして、旭とバスケしてきたの?」


 舞桜は、俺と旭が、日曜にバスケの練習をしていることを知っているので、俺の格好と持っていたボールを見てすぐにわかっていた。


「うん、いつものね。舞桜は?」


「私は今から妹の誕生日プレゼントを買いに行こうかと思って」


「あっ、そっか、もうすぐ誕生日だったな」


 舞桜の妹とは中学生だ。姉と同じで真面目でしっかりした子である。


「そうだ……最近、夕食食べに来ないけどちゃんと食べてる?」


 彼女の言う通り、俺は、最近、舞桜の家に行って一緒に夕食を食べていない。


 決して彼女のことが嫌いになって顔を会わせづらいからとかではない。理由としては、古賀さんと夕食を一緒にすることが多くなり、彼女のことが好きだと気付いて他の女子の家に行くのはどうなのかと思ったからだ。


「ちゃんと食べてるよ。心配してくれてありがとう」


「……そう、ちゃんと食べてるのならいいのよ。古賀さんと一緒に夕食食べてるの?」

 

「たまにね」


「そうなんだ。日向は、古賀さんのこと好きなの?」


 隠す必要はないと思い、俺は彼女の質問にコクりと頷いた。


 すると舞桜はこの前のように少し寂しそうな表情をした。


「月曜日、彼女に気持ちを伝えようと思う」


 旭と話し、そして考えて決断した。後悔する前に行動しようと。


「告白するんだね。頑張って、幼なじみとして応援する」


「ありがと、舞桜」


 その後、舞桜とは少し立ち話してから別れることになった。


「じゃあ、また学校で」

「うん、また」



 家に帰り、スマホを見ると古賀さんから電話がかかってきていることに気付いた。


 かかってきたのは1時間前。今かけてもいいかわからないので、一度今、大丈夫かとメッセージで聞いてからにすることに。


 メッセージを送って数秒後。彼女は偶然、スマホを触っていたのかすぐに既読がついた。


(はやっ)


 いいよとメッセージが来たので、電話をかけるとすぐに繋がった。


「古賀さん?」


『あっ、河井くん? 今、少しいい?』


「うん、大丈夫だよ」


 帰ってきて家にあるもので夕食を作ろうとしていたが、それは後でも大丈夫だ。


『ありがと……月曜日なんだけど、一緒に学校に行かない?』


「一緒に? うん、もちろん、いいよ」


 断る理由なんて見当たらない。彼女と一緒にお喋りして学校へ行くのは楽しいので即答した。


『やったっ。じゃあ、あの駅で待ち合わせで』


「うん、わかった。時間は8時?」


『うん、それぐらいで。ごめんね、急な電話。夕食の準備とかしてた?』


 そう思われるようなことは一言も言っていないので、少し驚いた。


「よくわかったね」


『そうかなと思っただけ……勘だよ。じゃあ、おやすみなさい、河井くん』


「うん、おやすみ、古賀さん」





***

 




 一緒に登校しようと約束した当日。先に着いた俺は、彼女が来るのを待っていた。


 待ち合わせなら彼女とは何度かしている。けれど、今日は覚悟を決めたからかいつもと違う気持ちでいた。


「河井くん!」


「あっ、古賀さん。おはよ」


 振り返ると彼女が走ってきているのが見えて、小さく手を振った。


 古賀さんは走ってこちらに来ると息を整えることなく、口を開いた。


「あ、あの……私……河井くんに伝えないといけないことがあるの!」


(伝えたいこと……)


「こ、古賀さん、一旦呼吸整えた方がいいよ。伝えたいことはその後で聞くから」


 俺がそう言うと古賀さんは、頷いて呼吸を整えるため深呼吸した。


「もう大丈夫……落ち着いた……」


「……俺も伝えたいことあるから聞くのは放課後でもいい? ここだと人多いし」


 彼女の伝えたいことが俺と同じ気がして、彼女にそう言うと古賀さんは頷いた。


「うん、私も放課後がいい……」


「じゃあ、今日も一緒に帰ろっか」


 そう誘うと古賀さんは、コクりと小さく頷いた。








      

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