第15話 好きになったきっかけ

 いつまでもここで立ち話していたら学校に遅刻するので、学校に向かうことになった。


 いつもなら自然と話せるのに今日は彼女と会ってからずっとドキドキしていて上手く話せない。


 お互い一言も話さず学校の近くまで来ると古賀さんが、俺の服の裾をクイクイと引っ張ってきた。


「河井くん、放課後なんだけど、カスタードプリン食べに行かない? きっと河井くんも好きだから」


 キラキラした目でお願する古賀さん。放課後に言わなきゃと思うより、放課後に古賀さんといつものようにカスタードのスイーツを食べると思う方が今はいい。


「うん、いいよ」


「やった!」


「古賀さんってカスタードスイーツの店、たくさん知ってるんだね」


 毎回、ここに行こうと提案するが、いつも場所が違う。学校の近くだったり、電車に少し乗ったところにあったりといろんな場所を知っている。


「ふふん、カスタードのことなら誰にも負けない……カスタードラブだから」


 負けないって、誰とどんな勝負をして負けないのだろうか。カスタードの知識に問われるクイズ大会があるわけないし。


「そうだ、カスタードを好きになったきっかけとかあるの?」


 ラブと言うほど好きになったのには理由があるだろうと思い、聞いてみると古賀さんが、目をキラキラと輝かせて語りだした。


「私が、小学校の時だったかな……お祭りである人がたい焼きをくれたの……」


「そのたい焼きってもしかしてカスタード?」


「うん……その時からかな。今まで食べたことなかったんだけど、カスタードってこんなに美味しいんだって初めて知ったの」


 それをきっかけに彼女はカスタードの入ったスイーツを好むようになったらしい。


「一時期、カスタードが食べるのが嫌になったことが……ううん、この話はやめとく。好きなものに対して愛が重いのは素敵だもんね?」


 何か暗い話をしそうになっていたが、古賀さんは、にっこりと微笑み、前に俺が彼女に言った言葉を言う。


「うん、素敵だよ」


「……河井くんはあの男子とは違うね」


「あの男子?」


「こっちの話だから気にしないで」


 彼女は、俺に心配をかけないようにうっすらと微笑んだ。





***

 




 放課後、古賀さんオススメのカスタードプリンが売っている店へ行き、お持ち帰りで買い、近くの公園で食べることにした。


 この公園には子供が遊具で遊んでいたり、子供を見守る親が集まってお喋りしたりと賑わっていた。


 そんなところから少し離れた木陰のところを見つけ、俺と古賀さんは空いているベンチに座った。ここは自然の音がよく聞こえ、落ち着いた場所だ。


 さっそくプリンを食べようと袋から取り出していると隣で古賀さんは空を見上げていた。


「ここは落ち着いた場所ね……」


「うん、そうだね。こういうところ、俺は好きだな」


「私も好き。のんびりな性格の私にはとっても合う」


「のんびり……俺、古賀さんとこうして話すまではしっかりした性格の人だと思ってた」


 彼女の最初のイメージを伝えると古賀さんは驚き、そして納得していた。


「しっかり? あっ、あれは、何というか小さい頃の習慣が残ってるだけ。私の家、厳しくて人の前ではしゃきっとしなさいって言われてきたの」


 彼女は自分に合わないことをこれまで何度か経験してきたと教えてくれた。


「けど、ずっと堅苦しいのは疲れるでしょ? だから私は仲良くできると思った人といる時は、ありのままの自分でいるようにしてるの……」


「そうだったんだ」


 俺がそう言ったのを最後にシーンと静まり返る。多分、お互い、この後、言うべきことに緊張しているから。


 しばらく、何も話さず自然の音を聞いていると古賀さんが口を開いた。


「プリン、食べる前に今朝の続き言ってもいいかな?」


 真っ直ぐとした瞳で古賀さんは俺を見る。何と言われるのだろうかと言うドキドキに聞きたくない気持ちがあったが、俺はコクりと静かに頷いた。


「私、河井くんのことが好き。これは友達としてじゃなく異性として河井くんのことが大好き」


 彼女も俺と同じことを伝えるだろうというのは間違っていなかった。


「ありがとう。俺も古賀さんのことが好きです。友達じゃない、異性として……俺と付き合って欲しい」


 彼女に思いを伝えると古賀さんは、俺に抱きついた。


「もちろん。河井くん、好き。私、嬉しすぎて多分、今週はずっと言うかも」


 古賀さんは好きと言う言葉が抑えられないだろうと事前に教えてくれる。好きと言われて嫌なわけがない。


「嬉しいから何度言ってもいいよ。俺も古賀さんのこと好きだから」


 彼女の背中に手を回して、今度は俺がぎゅっと古賀さんを抱きしめた。


「河井くん、人がいるところでのぎゅーは嫌じゃなかったっけ?」


「こ、ここは人いないし大丈夫……」


「ふふっ、面白い……じゃあ、誰かがここに来るまで私はこうしていたいな」


「うん、俺も」


 好きな人に好きって言ってもらえることが素敵と前に彼女は言っていた。


 その言葉は今ではとてもわかる。好きな人に好きって言われることがこんなにも幸せとは思わなかった。


「あっ、プリン……」


 ずっとこのまま抱きしめていたいと言ったが、彼女は、思い出したのかポツリと声を漏らした。


「あっ、忘れてたね。食べようか」

「うん、食べる……」


 彼女から離れると古賀さんは寂しいと思ったのか俺にくっついて座った。


 この日、食べたプリンはいつも食べるようなものよりとても美味しく感じた。それは多分、幸せな気持ちで食べていたからだろう。


「美味しいね」


「あれ、うんまぁ~は?」


「むむむ、私が毎回それを言うとは限らない。あれは今言うのは恥ずかしい」


 どうやら言うのはタイミング的なやつがあるらしい。


「ね、河井くんは、結婚願望ある?」


「……えっ!?」


 唐突な質問だったため一瞬聞き間違いかと思い、遅れて反応する。


「私はある……もちろん、相手は河井くん」

「話、早くない? 今さっき付き合い始めたばかりだし」

 

 結婚したいと思ってくれるのはとても嬉しいことだが、いくらなんでも早すぎる。


「話すだけだよ? いつか結婚したいのかなって聞いてみただけ」


「……そうだなぁ、あんまり考えたことないかも」


 凄く先のことだと思い込んで、結婚なんて考えたこともない。


「そっか……今日は天気がいいね……」


 雲一つない空を見上げた彼女は、今日もマイペースだ。そんな彼女を俺は好きだ。

 






 

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