第53話(最終話) これからも君の側に

 日向が、舞桜と帰っていた同時刻。沙夜は、明莉と一緒にカフェ『rate』に来ていた。


「美味しい……。ううん、美味しいだけじゃない。ふんわりとした生地にトロトロのカスタード。カスタードもいつもとはちょっと違ってこのカスタードはちょー好きな方」 


 カスタードシュークリームを一口食べ、沙夜が少し長めの感想を言っているのを聞いた明莉は、共感したのかコクコクと頷いた。


 テーブルには3種類のプチシュークリーム。左から抹茶、苺、そして今食べているカスタードだ。


 この店では3種類のプチシュークリームを選べるセットメニューが人気者だ。全て同じ味にもできるが、種類は多く、同じというのは少しつまらない気がして全て違う味にした。


「そう言えば、ストーカーさんはどうなった? あれから何もされてない?」

「ストーカー、萩原くんのこと?」

「うん……」


 ついこの前、あったが、沙夜は明莉には文化祭で萩原が明莉に犯人に仕立て上げようとしていたことは言っていない。あのことは本人が知らなくてもいいことだ。


「何もされてないよ。沙夜ちゃん、心配ありがとね。何だか、沙夜ちゃんって可愛いところもあってカッコいいよね」


「カッコいい……そうかな」


 素直に少し嬉しく沙夜は顔を赤らめて照れていた。そんな彼女に明莉は「そうだよ」と言ってティーカップの持ち手を持つ。


「私、沙夜ちゃんと河井くん見てていいなって思うの。私が持ってないものを持っていて本当に凄い……」


「持ってないもの……。明莉ちゃんには明莉ちゃんの凄さがあるよ」


「そうかな。でも、ありがとう」


 明莉は右手の拳をぎゅっと握り、胸に当ててニコッと笑った。




***




 1年はあっという間だ。沙夜と出会ってもう1年が経とうとしている。


 この1年、いろんなことがあった。だからこそ充実した1年が過ごせたと言える。


 満開に咲く桜を見ながら思い出に浸っていると隣で沙夜が小さく呟いた。


「後、みんなと一緒にいられるのも1年だね」

「……そうだな。沙夜は進路決まった?」

「私は大学進学だよ。日向はどうするの? 一緒の大学どう?」


 前に一度学校名を聞いたが沙夜が行きたい学校のレベルは高かったはず。けど、沙夜と同じ学校に行きたい気持ちはある。俺も頑張れば行けるだろうか。


「俺は、沙夜と一緒に行きたい……」

「! じゃあ、2人で受験勉強頑張ろ……2人で合格して一緒に住むの」

「うん……ん? い、一緒に?」


 2人で合格してというところまではちゃんと聞いていたが最後の一緒に住むに関してはあまり考えず頷いてしまった。


「私、一人暮らしにしては大きい家に住んでるからきっと日向も住める……」

「ん~沙夜の親が許してくれるかな」


 ニコニコしてるイメージがあるけど怖そうな沙夜の父親である颯真さん、母親である綾さん。どちらも簡単に許してくれるようには見えないが。


「大丈夫。あの人たちは私に無関心だから……それに日向は両親どちらにも認められてる」


「……無関心ではないと思うよ。心配でたまに沙夜の様子見にきてるし」


「日向はわかってない。まぁ、2人で暮らす話はまたいつかするとして今はデート楽しも?」

「……わかった」


 沙夜があまり両親の話をしたくないのなら今はしないでおこう。話すのは話したくなったときだけだ。


「ね、日向。今から初めて2人で行ったクレープ屋さんに行かない?」

「いいな。甘いもの食べたかったし行こう」

「うん!」


 桜が咲いている場所から離れ、向かった先はクレープ屋さん。あの日以来行っていなかったので久しぶりだ。


 店に近づくと沙夜は、目をキラキラとさせて急に走り出し、店の前で立ち止まりメニューが書かれた看板を見ていた。


 遅れて俺も店の前に立つと沙夜が後ろを振り返った。


「日向、種類がたくさんあって迷っちゃう……」

「前にも聞いたような……」


 デジャブを感じ、懐かしいなと思いながら苦笑いする。


 どのクレープにするのか決まったのは5分後。かなり迷っていたみたいだが、やっと決まったようだ。


「決めた……」


 沙夜は抹茶カスタードクレープ、俺はチョコマシュマロクレープにし、買うとクレープを持って公園へ移動した。


 公園には子供は少なく、ベンチが空いていたのでそこに座ってクレープを食べることに。


「いただきます……ん~うんまぁだね」


 隣で幸せそうに抹茶カスタードを食べる沙夜を見て久しぶりに「うんまぁ」を聞いたなと思った。


 抹茶とカスタードという組み合わせのスイーツを食べたことはないが美味しいのだろうか。


 気になってはいたが食べたいという表情をしたつもりはないが沙夜が自分のクレープをこちらに向けてきた。


「一口食べる?」

「いいの?」

「いいよ……」

「ありがとう。沙夜も俺のいる?」

「いる」

「即答……じゃあ、交換で」


 沙夜とクレープを交換し、一口食べ、彼女に変えそうとするとあることに気付いた。


(あれ、俺、こんなに食べたっけ……)


 戻ってきたチョコマシュマロクレープは沙夜に渡す前よりもかなり小さくなっていた。


「沙夜……さん?」

「……ごめんなさい、ペロリと食べちゃったの」

「あ~ペロリね……。それはしょうがない」


 うん、しょうがない。俺は自分の分を食べられて怒る人ではないので沙夜が美味しく食べてくれたのならそれでいい。


 沙夜は抹茶カスタードクレープをペロリと完食し、俺はその少し後に食べ終えた。


「満足……」

「それは良かった。次はどこか行きたいところある?」

「ううん、ない……日向とこうしてゆっくりしたい」


 そう言って沙夜は俺の手の甲にそっと手を添えてきた。


「じゃあ、ここでゆっくりしよっか」

「うん」


 沙夜とどこかに遊びに出掛けるのも楽しいがこうしてゆったりとした時間を過ごすのも悪くない。一緒にいられる、それだけで幸せだから。


 彼女は俺の手を優しく握り、そして体をこちらに向けた。


「日向、これからも私の側にいてね」

「お願いされなくても俺は沙夜の側にいるよ」


 公園の端だから他の人に見られることはないと思い、俺は彼女にそっと優しくキスをした。





─────3年後




 高校を卒業し、俺も沙夜も大学生になった。2人で暮らすというのは少し先となったが、彼女とは同じ大学に通っている。


 今日は、久しぶりにみんなで会おうということになり、舞桜、旭、丸山さん、椎名さん、高坂とお花見をすることになった。

 

「みんな久しぶりだね。沙夜ちゃんとはよく会ってるけど」


 久しぶりの再会に誰よりも喜んでいたのは椎名さんだ。高校では長い髪のイメージがあったが、今はバッサリ切られている。ショートカットもとても似合うと俺は思う。


「明莉ちゃん、バッサリ切ってるけど失恋したの!?」

「あはは、みんなによく言われるよ。けど、失恋してないよ。何となく切りたくなっただけだよ」


 丸山さんの言葉に椎名さんは苦笑いし、髪の毛を触る。


 みんなで久しぶりに話している中、舞桜は沙夜に話しかけていた。


「古賀さん、久しぶり」


「うん、久しぶり……大原さん」


「日向とはどう?」


「上手く行ってるよ」 


「……そう。私、古賀さんより絶対に幸せになるから」


 そう言った舞桜は拳を前に突きだした。すると沙夜は舞桜の拳にコツンと拳をぶつけた。


「頑張って……応援してる」

「ありがとう」


 舞桜と話終えると沙夜は俺のところに来て、そして隣に並んだ。


「私、自分に居場所なんてないと思ってた……家は好きじゃないし学校もそこまで好きじゃなかったから……」


 一度言葉を止めてから沙夜は俺のことを見る。そして話を続けた。


「けど、見つかった。私の今の居場所はここ」

「……見つかって良かった」

「うん……。日向、私と出会ってくれてありがとう」

「こちらこそありがとう」


 沙夜との出会いがなければ多分未来は違っていただろう。どうなっていたかなんて想像できないが、俺は今、幸せだ。







★間がかなり空いてしまいすみません!


       【あとがき】

ここまでお読みくださりありがとうございます。最初は40話の予定でしたが、気付いたらそれ以上書いてました。この作品を書いていてたくさんのカスタードスイーツを知れましまた。これは沙夜のおかげですね。近況ノートではカスタードスイーツをいろんな人から教えてもらいました。コメントくださった方、ありがとうございます。


最後に

作品フォロー、コメント、レヴューありがとうございます。新作はただいま連載中ですのでそちらもよろしくお願いします。  



『白の天使』

https://kakuyomu.jp/works/16818093077640002367

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【完結】俺のことを気に入ったマイペース美少女には気を付けること。さもないと手遅れになります 柊なのは @aoihoshi310

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