第52話 大原舞桜の独白

 どうしたらいいのだろう。好きになった人に彼女がいた場合。


 どれだけ好きでも幸せそうにしている彼と彼女の間に入り込もうとは思わない。人の幸せを邪魔したくはないから。けど、私のこの気持ちはどうなるのだろう。


 気付くのが遅かったせいなのはわかってる。早く、この想いに気付いていたら未来は変わっていたのかな……。


 1人、中庭のベンチで昼食をとっていると後ろからボソッと誰かが呟いた。


「大原さん……このままじゃ落ちるかも」

「!」


 急に声をかけられ、驚いた私の手からサンドイッチが落ちそうになったが、何とかして持ち直した。


 後ろを振り返るとそこには古賀さんが立っていた。辺りを見回したが、彼女しかおらず日向と一緒ではなかった。


「一緒にお昼いい?」

「えっ、あっ、いいけど……」

「ありがと」


 隣に座れるよう少しだけ寄ると古賀さんはゆっくりと私の隣に腰かけた。


 彼女に一緒にお昼を食べないかと言われるなんて思ってもいなかったので、少し驚いた。


(日向はどうしたんだろう。いつも一緒に食べてるのに)


 サンドイッチを一口食べると、古賀さんが持っているお弁当が気になった。


「もしかして自分で作ってるの?」

「うん、そうだよ。作った方が安く済むから」

「へぇ……料理得意なんだね」

「まあまあかな。誇れるほど上手くはない……」


 彼女はそう言うが、お弁当の中を見る限りとても美味しそうだ。


 面倒な人は冷凍食品を入れる人が多いが、彼女の場合、おそらく冷凍食品は入れていない。見ていてそれが何となくわかる。


「大原さんは料理できる方?」

「できるよ。いつもはお弁当なんだけど、今日は時間がなくて」


 食べているサンドイッチを古賀さんに見せると彼女はそうなんだと一言。


「古賀さん、もしかして一人暮らし?」

「? 私、大原さんに言ってないはず……誰かから聞いたの?」

「ううん、そうじゃないかなって思っただけだよ」

「そう……。私、一人暮らししてるよ。親に何度かお願いして認められたの」

「へぇ……親厳しいの?」

「うん、厳しい……」


 古賀さんは、気付けばお弁当をペロリと平らげていた。


(食べるのはやい……)


 お弁当を片付けると彼女は、静かに立ち上がり、そしてクルリと後ろを振り返り私のことを見た。


「一緒に食べてくれてありがと……」

「……こちらこそ。ねぇ、古賀さん、日向に告白してもいい?」


 ここで古賀さんにダメと言われたら私はここで日向のことを、この恋を諦める。これからは幼馴染みとして接していく。


 すぐには返答が返ってこず、しばらくすると古賀さんは、口を開き、ゆっくりと話し出した。


「いいよ。恋愛は自由……私は止めない……」


 これは日向を取られることはないと思っての発言なのかはわからない。私だってわかってる。告白しても断られることなんて。


「じゃあ、今日の放課後は、日向、借りてもいい?」

「どうぞ。日向がいいかはわからないけど」

「……ありがと」

「? じゃあ、またね」


 古賀さんは私に背を向けて、校舎へと入っていった。




***




 小さい頃から私の家と日向の家はよく交流があった。一緒に夕食を食べたり、お泊まりしたりしていた。


 中学生になってからも日向とは一緒に夕食を食べたりすることは続いていた。


「日向は、好きな人とかいないの?」

「急だな……」


 私は多分、心のどこかで大丈夫だと思っていたんだ。日向は他の女の子に取られることはないと。


「日向と恋愛トークしたことないからどうなのかなって……」

「好きな人はいないよ。そもそも恋愛したことないし」

「……そっか」

「舞桜はいるの?」

「私は……」


 日向のことは好き。けど、この時の私は、この好きがどういう好きなのかわからなかった。


「私もいないよ。好きな人できたら教えてね。幼馴染みとして気になるから」

「できるかな……舞桜の方が先に好きな人できて付き合ってそう。可愛いし、賢いし」

「可愛い……」


 私がボソッと呟くと日向は自分が何と言ったのか思い出し、慌て始めた。


「えっ、あっ、さっきのは……」

「嬉しい……ありがとう」


 こうやって一緒に夕食が食べられるのっていつまでなんだろう……私は、ずっと日向とこうして一緒に食べたいな。


 変わるのは怖い。日向とはいつまでもこの関係でいたい。


「日向、アイスあるよ。食べない?」

「食べる」

「はい、どうぞ」

「ありがとう」


 ソファに座りアイスを食べ始める日向を見て、私は彼の隣にゆっくりと座った。


(ずっとこのままで……)


 日向とはずっと幼馴染みとしている。それではダメだと今では思う。


「告白して断られたらきっぱり諦めよう」




***




 今日は、久しぶりに舞桜と帰ることになった。中学生振りだ。彼女から一緒に帰ろうと誘われた時は驚いたが、沙夜に話すと帰ってあげてと言われた。


 沙夜はどうやら舞桜が俺を今日帰りに誘うことを知っていたようだ。


(何か大事な話でもあるのかな……)


「お待たせ、日向」

「舞桜、そんなに待ってないよ」


 舞桜と会うと学校を一緒に出て、駅の方へと歩いていく。ここ最近、なぜか舞桜と上手く話せない。緊張するとかそういうわけではないが。


 無言で歩くこと数分、駅に到着し、改札を抜け、電車を待つ。電車から降りて改札を抜けると広場のようなところで舞桜は立ち止まり、口を開いた。


「もう前にみたいに一緒に夕食食べれないのかな……」


 小さな声だったが俺にはハッキリと聞こえた。一人言のようで、俺にも聞いてほしそうな言葉。


 沙夜といるようになってから毎日のように舞桜と夕食を食べていた日々は突然なくなった。舞桜に誘われても一緒に夕食を食べることを断ったのは決して舞桜が嫌いなったからじゃない。好きな人ができたからだ。

 

「……ごめん」

「……私、日向のこと好き。こんなこと言ったって意味ないのはわかってる。けど、私は、古賀さんより先に日向のこと好きだった」

「……うん、ありがとう」


 舞桜に好きと言われて素直に嬉しい。けど、俺は沙夜が好きだから舞桜の気持ちには答えられない。


「好きだって言ってくれて嬉しいよ。けど、ごめん」


 そう言うと目の前にいる舞桜はクルッと背を向けた。そして、しばらくしてからこちらを向いた。その時の彼女の目元は赤くて、泣いていたことはすぐにわかった。


 頬をパチンと叩いた舞桜は、一度深呼吸してから口を開いた。


「よしっ、これでもう大丈夫! ね、日向、付き合えなくてもこれからも幼馴染みっていう関係はなくならないよね?」

「えっ、まぁ、そうだね……」

「じゃあ、これからもよろしくね。幼馴染みとして」


 差し出された舞桜の手を見た俺は、彼女の顔を一度見てから手を出し、そして彼女の手を優しく握った。


「うん、よろしく」







   【第53話 あなたは私を怒らせたの(仮)】

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「『白の天使』と呼ばれている清楚系美少女は、ある日をきっかけに俺との距離を少しずつ縮めてきました。」

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