第51話 沙夜の父と一緒に夕食
季節は冬。寄り道するより早く家に帰りたいほど寒いが、今日は沙夜と前に約束していたカフェ『sakura』へ行くことに。
沙夜も寒いから今日はやめとこうかと今朝の時点で言っていたが、大好きなカスタードのことを考えると寒くてもやっぱり行きたいと言った。
カフェ『sakura』ではプチシューが食べることができ、抹茶、イチゴ、カスタード、そして期間限定で芋味がある。
お店に着く前から沙夜は何を頼もうかと悩んでいた。てっきり迷わずカスタードを選ぶかと思ったが、今日はそうではなかった。
「日向と久しぶりの放課後デート。そして久しぶりのカスタードスイーツ」
「カスタード久しぶりなんだね」
偏見だが、沙夜は毎日1つは、カスタードスイーツを食べているのかと。
「もうすぐ着くよ」
彼女は目的地に近づいたのか少しだけ歩くスピードが上がり、手を繋いでいた俺も少しだけ歩くスピードを上げた。
やはり沙夜のカスタード愛はいい意味で重くて、嫉妬してしまう。自分で言っててカスタードに嫉妬とは意味がわからないが。
駅を通過し、カフェへと向かう中、突然、後ろから誰かにポンポンと肩を叩かれた。
誰だろうと思い、振り返るとそこには沙夜の父さんである颯真さんがいた。服装はスーツでおそらく仕事の帰りか、仕事中だろう。
俺が急に立ち止まったので沙夜も立ち止まり後ろを振り返った。
「……お父様?」
「やっぱり沙夜と河井くんだった。後ろ姿に見覚えがあったからそうかと思ったんだ。2人は学校帰りかな?」
「は、はい……お父様は、仕事ですか?」
沙夜は俺の手を握ったまま少し怯えた様子で颯真さんに尋ねた。
「仕事の帰りだよ。良ければ今から3人で夕食を食べに行かないか? 河井くんとは少し話したいことがあるからね。この後、予定があるなら断ってくれても構わないが」
今からカフェ『sakura』に行く予定だ。沙夜の方をチラッと見ると彼女は俺の方を見た。
「日向、夕食どう?」
「…………いいのかな?」
沙夜、カスタードはいいのかな、あれだけ楽しみにしていたのに。それに颯真さんとあまり一緒にいたくなさそうに見えたが。
彼女の夕食どう?という問いに少し驚いたが、どうするかは彼女の自由だ。
「私はいいよ、日向と夕食食べたい」
「……じゃあ」
今日は両親の帰りが遅いし、夕食は1人で食べる予定だった。
「決まりだね。3人分の食材を買いたいからスーパーに寄ってもいいかな?」
「スーパー? あ、あの、もしかしてお父様が作ってくれるのですか?」
俺も聞きたかったことを沙夜は聞いてくれた。てっきりどこかに食べに行くかと思っていたが、さっきの言葉を聞く限り、颯真さんが作ってくれるようだ。
「そうだよ。料理は得意だからね」
「……そうでしたね、お父様の料理、楽しみです」
会ってから笑うことなく硬い表情だったが、このときの彼女の表情は、少しだけ嬉しそうだった。
スーパーへ行くことになり、買い物を終えると俺たちは沙夜の家へと向かった。
家に着くと颯真さんは、料理をし始め、俺と沙夜はというとリビングでゆっくりしていた。
(沙夜のお父さんに夕食を作ってもらう……予想していなかった展開だ)
「颯真さん、料理得意なんだね」
「はい、小さい頃はよく作ってくれました。得意料理はオムライスです。後、お父様が作る味噌汁はとても美味しいんですよ」
「沙夜、敬語になってる……」
「むむ、ほんとだ……お父様がいると自然と敬語になっちゃう……」
敬語で話すなとは言わないが、俺にまで敬語で話されると少し違和感を感じてしまう。距離を感じるというかなんというか……。
沙夜はズリズリと俺の方へ傾いてきて、肩にもたれ掛かってきた。
「日向、カスタードはまた今度ね……」
「うん、また今度食べに行こう」
夕食が出来上がるまで待っている間、沙夜と話していると颯真さんが、こちらへ来た。
「出来上がったから2人ともどうぞ」
「ありがとうございます、お父様。いい匂いです」
「ほんとだ、いい匂い。ありがとうございます、颯真さん」
テーブルは2人しか座れないため、ソファのあるセンターテーブルのところで食べることに。
颯真さんが作ってくれたのは得意だというオムライスだ。そしてセットでコーンスープ、デザートにマフィンがついていた。
「お、お父様! もしかしてこのマフィン、カスタードですか?」
「うん、そうだよ。沙夜は、カスタード好きだからね」
「はい……好きです、とっても」
沙夜のテンションが急に上がり、颯真さんは少し驚きつつも嬉しそうにニコリと笑っていた。
それにしても凄いな颯真さん。料理もできてスイーツも作れるのか。
「さて、冷めないうちに食べようか」
「「「いただきます」」」
最初はオムライスを食べることに。一口食べると自然と「美味しい」と口にしていた。
「お父様、とても美味しいです」
「それは良かった。河井くんはどうかな?」
「はい、美味しいです」
「そうか。食べながらになるけど、沙夜、河井くん、少しいいかな?」
颯真さんは、持っていたスプーンを一度置いて、目の前に座る俺と沙夜のことを見た。
俺も沙夜も大事な話な気がして持っていたスプーンを置く。すると、颯真さんは、ゆっくりと口を開いた。
「沙夜と河井くんはこのまま交際を続けるつもりかな?」
予想していなかったことを聞かれて、沙夜は口を開こうとしたが、閉じた。それを見て俺は颯真さんの質問に答えることにした。
「もちろんです。俺は沙夜の側にいると決めていますから」
「! わ、私も日向とずっといたいと思ってます」
「……そう、私も綾さんも反対はしてないから何かあれば遠慮なく私に話して欲しい。例えば結婚の相談とか」
「け、結婚? それはまだ早いかと……」
「面白いね、河井くん。これは近い将来の話だよ」
「で、ですよね……」
良かった。どんなことを言われるのかドキドキしていたが、別れろとかそういうことを言われなくて。
その後は颯真さんから学校ではどうしているのか聞かれたことに答えたりして、夕食を食べた。
「洗い物ありがとう」
「いえ……」
颯真さんは食器を洗っている沙夜に洗い物を渡した。
「カスタードマフィン、とても美味しかったです」
「それは良かった。小さい頃からよく沙夜が食べていたからまだ好きだろうと思ったよ」
一緒に夕食を食べようと言って、交際を続けるのかと聞いて、大好きなカスタードマフィンを作ってくれた。沙夜はこの颯真さんの行動を不思議に思っていた。
「沙夜、洗い物手伝うよ」
「大丈夫だよ、日向。もう終わるから」
「そっか。あっ、颯真さん、ごちそうさまです。とても美味しかったです」
ペコリと軽く一礼すると、颯真さんは、微笑んだ。
「お粗末様です。さて、私はお邪魔だと思うし帰ることにするよ。沙夜、冬休みにまた」
「はい……」
颯真さんが帰り、洗い物を沙夜が終えてから俺は彼女に尋ねた。
「冬休みに何かあるの?」
「大したことじゃないよ。いつものことだから」
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