第40話 知っておいてほしいこと

 クラスメイト7人で回ることになった夏祭り。多分、こんな人数で外で集まったりするのは2年生になってからは初めてだ


 屋台でいくつか食べ物を買い、食べられる場所を見つけそこでみんなで話しながら買ったものを食べることに。


「へぇ~、舞桜ちゃん、後期の生徒会長に立候補するんだ」


「うん、今のところ誰もいないから立候補者がいないなら多分、私が生徒会長かな。けど、困ってるのは他の役職。生徒会、後輩ばかりだから同学年で立候補してくれる人がいればいいんだけど」


 椎名さんと舞桜の会話には参加せず、聞いているだけだったが、なぜか舞桜がこちらを向いていた。


 俺が首をかしげると舞桜は、ニコッと笑い、小さくて招きしてきたので彼女の元へ行くことに。


「日向、生徒会入ってよ。中学のとき、お手伝いできてくれたでしょ?」


「えっ、あっ、そうだったけど、俺は、生徒会には入らないよ」


「……そっか。古賀さん、入る?」


 いつの間にか俺の隣にいて、わたがしを食べる沙夜も勧誘する舞桜。


「絶対いや……大原舞桜の生徒会になんて入りたくない」


 そう言って再び、わたがしを食べ始める沙夜を見て、椎名さんは、舞桜と沙夜の仲がどういうものなのか悟ったようだった。


「それは残念。けど、入りたいって言ってる人がいたら教えてね」


 生徒会の話を終えると、自然と旭と丸山さんで盛り上がっていた話に変わる。


「日向、追加で何か買う」


 話しながらでも食べるスピードは、誰よりも早い沙夜は、俺の服の裾をクイクイと引っ張ってきた。


「わかった。俺もついていくよ」


 沙夜を一人行かせるのは心配なので、そう言うと彼女は、嬉しそうにニコッと笑った。


「俺、沙夜とちょっと屋台回ってくるよ」


 何も言わずこの場を離れるのはと思い、みんなにそう言うと高坂にニヤニヤされた。


 どうやら2人で抜け出したいと思われたようだ。そういう意味で言った訳じゃないんだが。


「言ってらー、そのまま2人でいてもいいよー」


 2人、離れていくと後ろから丸山さんのそんな言葉が聞こえてくる。


「ふふっ、抜け出すと思われてるね。日向、買いまくる覚悟はできてる?」


「えっ、どれだけ買うの?」


 たこ焼き、玉せん、焼きそば、わたがし、りんご飴。どれもいつの間にか食べ終えており、これにプラスで食べるってどれだけ食べるんだ。


「夏祭りと言えば食べ歩き……知らないの?」


 何その、知らない方がおかしいよみたいな反応は。当然かのように言われましても。


「沙夜は、夏祭りに来たら何をよく食べるんだ?」


 俺は、夏祭り来ても食べることはあまりない。小さい頃は食べたりゲームで遊んだりしたが、歳を重ねるごとにそういうことはなくなり、今では来ても屋台を見て回るだけだ。


「玉せんかな。あれは、絶対食べる」


「へぇ、さっき食べてたやつだよな。俺も久しぶりに食べよっかな」


「うんうん、食べた方がいいよ。あっ、日向、ポテト食べたい」


(今日もよく食べるなぁ……あれ、あの人って)


 沙夜がポテトを買っている中、後ろで待っていると見覚えのある人を見かけた。


 1人なので声をかけてようかなと思っているとあちらもこちらに気付き手を振って近づいてきた。


「やっほー河井くん。沙夜ちゃんも……ってすっごい食べてる」


 そう言って沙夜がポテトを食べているのを見たのはカフェ『AMAOTO』の店長である千里さんだ。


 話によるとさっきまで知り合いといたようで別れたところだったらしい。


「千里さん、ポテトいる?」


「あっ、いいの? ありがとー」


 今いる場所で食べると通る人の邪魔になるので、人があまりいないところに移動してからポテトを食べることに。


「そういや、2人で来たの?」


 千里さんがそう聞いてきて沙夜が答えるかなと思っていたが、彼女は、ポテトを食べるのに夢中だった。


 ん、ちょっと待て。さっきまでポテトしか持っていなかったはずなのにまたたこ焼き買ってる。

どうやら移動するまでの間に買ったらしい。


「いえ、友達と何人かで」


「そっか。沙夜ちゃんから聞いたけど、付き合い始めたんだって? 何かお姉さんに惚気話聞かせてよ~」


「惚気話ですか?」


 あまり人に自慢したことがないので、何を話せばいいのかとわからない。


 俺が困っているとポテトをペロリと平らげた沙夜が口を開いた。


「日向とこの前、食べ歩きスポットの中華街に行ったの。いいでしょ?」


 沙夜さん、ふふんと満面の笑みで言ってるけど、それは今、千里さんが求めてるのは食べ物の惚気話じゃないんだよなぁ。


「えっ、もしかしてパンダシュー食べたの!? いいなぁ~、私も行きたい」


「うん、行くことをオススメする……全部美味しかったよね、日向」

「うん、どれも美味しかった」


「そうなんだ、今度行こうかな。そうだ、2人にいいところを教えてあげるよ。沙夜ちゃんは、絶対好きだと思う」


 そう言って千里さんは、沙夜が好きそうだというある場所を教えてくれた。


 千里さんと別れた後、沙夜とみんなの元へ戻るとみんなでゲームをしていて盛り上がっていた。


「さーちゃんもやろうよ」


 丸山さんは、沙夜に手招きして一緒にやろうと誘っていた。


 みんなで楽しんでいる中、1人いないなと思い、辺りを見回すと少し離れたところで舞桜が1人で座っていた。


(どうかしたのだろうか……)


 心配になって舞桜の元へ行くと、俺が来たことに気付いた彼女は顔を上げた。


「人混みで疲れたのか」


「! な、なんでわかるのよ……」


 舞桜は、そう言って俺から目をそらした。


「わかるよ、幼馴染みだし、舞桜との付き合いは長いから」


「……人混み苦手なのよ。けど、今日は楽しいし、夏祭り来てよかった……」


 楽しそうにお祭りを楽しむ人達を見て、彼女は、嬉しそうに話した。そして、舞桜は、何かを決心したのか真剣な表情でこちらを見た。


「ね、日向……返事は必要ないから知っておいてほしい。私が日向のこと好きだってこと」









           

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