4章

第39話 明莉と廉

 私は、恋というものが何かわからない。それなのによく恋愛相談を受けることがある。なぜ私にと問いかけるといつも「明莉ちゃんは、恋愛経験ありそうだから」と返される。


 男子から告白されることはあるけれど、恋愛経験なんてほとんどないし、アドバイスできることは何もない。


 相談を受ける前にそのことを相手に言うけれど、皆、それでもいいからと言うので、相談に乗ることにしている。


 好きな人ができて、付き合っている人は少し羨ましい。中学の時、私は、相手が告白して一度、付き合ったことがある。恋愛がどういうものか知りたかったから。


 けど、その相手が実はかなりヤバイ人で最初は気にしない程度だったけど、連絡が頻繁に何度も来るようになって、怖くなった私は、彼に別れを告げた。やっぱり付き合うのは無理だと。


 その日から怖い思いするなら恋愛しなくてもいいかなと思い始めていた。相手が好きになってくれる人がいても私には好きな人なんてできないだろう。そう思っていたけれど、私はここ最近、知らない気持ちになった。


(一緒にいるとドキドキする……この気持ちって何だろうか……)





***





 夏休みも残りわずかなその日。私は、カフェのバイトの帰りに駅前にあるいろんな店を見て回っていた。


(そう言えば、もうすぐ美琴ちゃんの誕生日だよね……誕生日プレゼント、どうしよ……)


 友達の誕生日を思い出し、ただ目的もなく歩いていたが、お店の商品をよく見ていき、プレゼントにいいものはないかと探し始めた。


 立ち止まって商品を見ていると後ろから誰かに肩を叩かれた。


「よっ、明莉。何してんの?」


 急に声をかけられたので肩をビクッとさせて、後ろを振り返った。

 

「わっ、びっくりしたよ。私は、友達の誕生日プレゼント何かいいのないかなって探してたの。高坂くんは?」


「俺は、バイト帰り。明莉は、オーラが違うから後ろ姿見てすぐにわかった」


「オーラが違うって私、普通だよ」


「いやいやいや。なっ、明莉、俺も買い物に付き合っていい? 夏休み一度も話してなかったし」


 高坂くんに言われて確かに彼とは夏休みの間、一度も会っていなかったなと思う。


 友達であるけど、そこまで連絡を取り合う中でもないので、会わないのだが。


「いいよ、久しぶりに話そ」


 誕生日プレゼントを探しながら楽しく話していたが、いいプレゼントとはなくまた今度かいに来ることにし、私達は、カフェへ移動した。


 お腹は空いていなかったので、私は紅茶を、高坂くんは、コーヒーを頼んだ。


「大人だねぇ、高坂くん」

「そうか? 砂糖とか入れらたら誰でも飲めると思うぞ」

「へぇ~、高坂くんは砂糖入れるの?」

「入れないよ。そのままが1番好きだから」

「そうなんだ。私も今度試してみよっかな」


 彼と話していると店員さんが、飲み物を持ってきてくれた。


 暑かったので、冷たい紅茶がとても美味しく感じる。


「そう言えば、会った時に思ったんだけど、明莉、髪切った?」


 昨日切ったばかりの髪に触れてくれて私は、少し嬉しくなった。


「わっ、よくわかったね。長くなったから切ったの」


「そうなんだ、似合ってる」


「ありがとう」


 たくさん話して喉が渇いたので、紅茶を飲むとこの店のオススメケーキが目に入った。


 お腹が空いていないと言ったが、このケーキ美味しそうだなぁ。バイトで疲れて甘いものが欲しくなる。


「明莉、ケーキ頼む?」


「えっ、あっ、私、ケーキ欲しそうな顔してたかな?」


 メニューをチラチラと何度か見ていたが、どうやら欲しそうな顔をしていたらしい。


「うん、メニュー表見てたから。俺も何か頼もうかな、周りから甘い匂いして、お腹空いたし」


「……な、なら私も何か頼もっかな」


 メニュー表を手に取り、私と高坂くんは、ケーキを頼むことにした。


 その後は、ケーキと共に中学での話で盛り上がったりして満喫した時間となっていた。


 ショートケーキを一口パクリと食べると高坂くんがあることを聞いてきた。


「明莉って彼氏いたっけ?」


「えっ、いないよ~。いたらこうして高坂くんとこうしていないし」


「まっ、そうだな」


「高坂くんは、モテモテだけどどうなのかな?」


 フォークを置いて、肘をテーブルについた私は、指と指を絡め、そこに顎を置いて彼に聞いた。


「俺もいないよ。そういや、今度夏祭りあるよな。一緒に行かないか?」


「一緒に? それって、2人でってこと?」


 他に誰かにいて誘われているのかもしれないと思い、聞いてみた。


「えっと……ううん、他の人も誘ってさ。何人かで」


「うん、いいと思う。知らない人っていうのはあれだから同じクラスの子誘ってみるね」


(夏祭りかぁ……誰を誘おう……)





***






 夏祭り当日。俺と沙夜は、集合場所である駅前でみんなのことを待っていた。


「浴衣似合うね」


 もう会ってから何度目かわからないが、沙夜の浴衣姿を見て言ってしまう。


「ふふっ、ありがと。みんなでお祭り楽しみすぎて昨日は寝れなかった……」


「俺も。あっ、あそこにいるの椎名さんと高坂じゃないか?」


 俺が2人のことに気付くとあちらも気付いたようでこちらへ走ってきた。


 椎名さんは浴衣姿で下駄を履いているのに走ろうとするので高坂に走ったら危ないぞと後ろから注意されていた。


「はろろ~沙夜ちゃん、河井くん! わっ、沙夜ちゃん可愛い!」

「あ、ありがと……明莉ちゃんも浴衣可愛いね」

「ふふっ、ありがとう」


 女子同士が話しているのを見ていると高坂が俺の肩に手を置いて話しかけてきた。


「誘ったけど、古河さんと2人で来る予定だったか?」


「ううん、俺も沙夜もそこまで外に出掛けるタイプじゃないから。誘ってくれてありがと」


「いえいえ、二人っきりになりたかったら俺にコソッと教えてくれ。抜け出した理由は適当に俺がみんなに言っておくから」


「ん、ありがと」


 今のところ二人っきりで抜け出すとかそういう予定はないが、沙夜が言ったらそのときはそうさせてもらおう。


「おっ待たせ~」

「あっ、結菜、久保くん。それと……大原さん」


 旭と丸山さんが、来て喜んでいた沙夜だが、後ろにいた舞桜にはなぜか睨み付けていた。


「古賀さん、怖い。私、何もしてないんだけど」


 腕組みをして明らかに喧嘩腰な舞桜。なぜこの2人は、いつもバチバチなんだよ。


 心配していると舞桜が笑顔で俺に話しかけてきた。


「日向、この浴衣どう?」


「えっ、あっ……」


 横から沙夜にじとっーとした目で見られてるし、簡単に「似合ってる」とは言えないし、逆に「似合ってない」と言って舞桜を悲しませる言葉を言うのも嫌だし。


「い……いいと思います……」


「! ふふっ、何で敬語?」


 久しぶりに見た笑顔。舞桜とはここ最近、話してなかったからそう言えば、舞桜は、そんな風に笑ってたなと思い出した。


「もっと早くに気付いていれば良かったな……」


「? 舞桜、何か言った?」


 舞桜が小さな声で何か言っていたが、聞き取れず、聞き返すと彼女は、小さく首を横に振った。


「ううん、何でもないよ」







  

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