第17話 デートの約束
古賀さんの知り合いっぽいし、おそらく目の前の男は、同い年。彼女との関係はわからないが、古賀さんがこの人と話したくないのは確定だ。
ここは俺が話し相手になり、ここからすぐに古賀さんと一緒に立ち去ろう。
「もしかして古賀の彼氏?」
相手は俺達の近くで立ち止まり、そして俺に聞いてきた。
「そうですけど……」
「へぇ~なら後悔する前に今すぐに別れた方がいいと思うぞ。古賀は、誰にでもいい顔して相手を見下すからな」
なぜ初対面の人にそんなことを言われないといけないんだ。相手は古賀さんのことをわかっていない。
初対面でも関係ない。相手は、古賀さんが傷つくようなことを言ったんだ。ここは訂正しておかなければ。
「心配してくださりありがとうございます。見た目と性格だけが古賀さんのいいところじゃない。他にもたくさんある。彼女を悪く言わないでください」
言いたいことは言った。相手がムカついて殴りかかったりしないといいんだけど。
相手の様子を伺っていると古賀さんが後ろで俺に向けて「ありがと」とボソッと呟いた。
そしてその後すぐに相手は舌打ちし、俺に向かって言ってから立ち去っていった。
「っ! 後悔してもしらないからな」
(良かった……相手が怖かったから暴力沙汰になるかと思った……)
「ありがと、河井くん。助かった……」
後ろから前に回ってきた古賀さんは、手を後ろに回してニコッと笑った。
「どうたしまして。さっきの人は同級生?」
「うん……宝生くんっていうんだけど、あんまり私が好きじゃないみたいなの。私も嫌い……というか苦手……」
「そうなんだ」
俺がそう言うと古賀さんが、服の裾をクイクイと引っ張ってきた。
「家行こっか……お腹空いた」
「うん、そうだね」
今日は寄り道してどこかで食べる予定はない。この時間なら何か食べるらしいが、今日は家に帰るまで何も食べないので古賀さんはお腹が空いて倒れる寸前だ。
「どこか寄ってく? そこにファーストフード店あるけど」
寄るつもりはなかったが、すぐそこにファーストフード店があったので、彼女に提案すると古賀さんは物凄い速さで店の前に行った。
そして、彼女は、そちらへ向かう俺に手招きした。
(あっ、これは行きたいんだな……)
さっきのことがあったからいつもの古賀さんで俺は安心した。
結局、古賀さんとファーストフード店に入ることになり、タッチパネルで注文していく。
「ケーキ、パフェ……いや、やっぱりポテトかな……むむむ、悩む」
たくさんの種類があった時によく見る光景。悩む古賀さんもまた可愛い。
「全部頼んでシェアするのはどう?」
「河井くん、それいい! 天才!」
シェアを提案して天才というのは大袈裟な気がするが、提案してみて良かった。
古賀さんは、チーズケーキ、イチゴパフェ、ポテト、ドリンクバー2人分を頼んだ。
「放課後デートみたいだね……あっ、付き合い始めたからデートだね……」
自分で訂正した古賀さんは、顔を真っ赤にしつつニコッと笑う。
「河井くん、今週の土曜日は空いてる? 一緒に……休日デートしたいなって思ってるんだけど……」
「うん、デートしよ。土曜日なら空いてるよ。古賀さんはどこか行きたいところある?」
俺はデート経験ゼロで、女子が行きたいところはあまりわからない。なので、行きたいところがないか聞くことにした。
「私はいいよ、いつも行きたいところに付き合わせちゃってるし河井くんが行きたいところに行きたい」
河井くんが行きたいところにと言われてしまったので、ここは1つ俺が彼女と行きたいと思うところを考えてみることにした。
「そうだね……古賀さんは猫好き?」
よくにゃんにゃんに会いに行くことから猫好きなのは間違いないが、確認のため聞いてみる。
「とっても好き! 犬派か猫派か聞かれたら迷わず猫と答えるぐらい好き」
「それなら良かった。猫カフェに行ってみたいんだけど、どうかな?」
俺も行きたいところであり、古賀さんも行きたいはずの場所。
飲食店に行って食べるのも考えてみたが、たまには食べること以外を彼女としてみたい。
「行きたい!」
「じゃあ、目的地は古賀さんの駅の1駅先のショッピングモールだね。その中にあるらしいから」
「猫カフェ初めてだから楽しみ」
デートの話をしていると頼んでいたものが運ばれてきて古賀さんはパフェから食べ始めた。
俺はポテトを摘まみながら彼女の幸せそうに食べる表情を見ていると古賀さんはスープンで1口すくい、それを俺の方へ向けた。
「あ~ん」
「ありがとう」
ポテトが口になくなったので、古賀さんにあ~んしてもらった。
「ん、甘くて美味しい。後は古賀さんが食べていいよ。俺はそこまで甘いものたくさん食べれないから」
「うん、わかった。ほしくなったら言ってね」
「うん、その時は」
古河さんはパフェを、俺は、ポテトを食べるのを再開する。
結局、古賀さんはポテトを少しだけ食べて、パフェ、ケーキは、ほとんど全て食べてしまった。
「幸せ……甘いものは嫌なこと全てを忘れさせてくれる」
そう言いながら彼女は、メニュー表を見てうっとり。まだ食べるのかとツッコミを入れたくなった。
彼女の言う嫌なことはおそらく先ほどの宝生と会ったことだろう。
ファーストフード店を出た頃には雨が降っていた。確か今朝ニュースでは夕方頃に雨が降ると言っていたな。
背負ってきているリュックにはいつも折り畳み傘があるので、それを取り出す。隣にいる古賀さんも折り畳み傘があるのかリュックの中を探していた。
だが、中々リュックの中から出てこないので、彼女に聞いてみる。
「傘ありそう?」
「ない……いつもなら入ってるのに今日は雨が降らないからと思って家に置いてきたみたい」
「俺もそれよくある。2人で入ろ、少し濡れちゃうかもしれないけど」
「うん……ありがとう、河井くん」
折り畳み傘を差すと古賀さんは、俺に濡れないためにくっついてきた。
店から彼女の住むマンションまで歩き、傘を閉じた。すると、古賀さんが、俺の目を見て聞いてきた。
「河井くんは……私が相手を見下すような人だと思う?」
気にしていないわけがない。宝生に言われたことを彼女は食べているときもずっと考えていただろう。
「俺は思ったことないよ。もしかしてさっき言われたこと気にしてる?」
彼女にそう尋ねると古賀さんは小さくコクリと頷いた。
「ちょっとだけ……けどいいの。私は、好きな人だけにそう言ってもらえるだけで。他の人に言われることは気にしない」
古賀さんはおそらく強がるタイプだ。弱いところを見せないよう振る舞っている。そんな彼女を見て俺は手を優しく握った。
「また何か言われたら俺は多分同じように訂正するよ」
「河井くん……ありがとう」
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