第18話 ぎゅーされたくなってきた

 翌日の昼休み。いつものメンバー(俺と古賀さん、旭、丸山さん)で教室で食べようとすると椎名さんが、お弁当を持ってやって来た。


「一緒にいいかな?」


「あっ、明莉ちゃん! もちろんいいよ」


 1番に反応し、彼女を迎え入れてたのは丸山さんだ。俺達も彼女を歓迎し、椎名さんは俺と丸山さんの間に座る。


「ごめんね、急に。いつも食べてる友達が今日は一緒に食べれないみたいで」


 椎名さんがそう言うと俺の隣でお弁当を食べていた古賀さんが口を開いた。


「大丈夫だよ、椎名さん……たくさんの人と食べる方が美味しいし」


「古賀さん、ありがとう」


 椎名さんは、遅れてお弁当箱の蓋を開けて食べ始めると古賀さんが隣でキラキラした目をしていた。


(食べたいのかな……確かに椎名さんのお弁当、凄い美味しそうだ)

 

 チラッとお弁当を見ていると椎名さんと目が合った。


「河井くん、どうしたの? 何か食べたいものでもある?」


 欲しそうにしているのは俺ではなく、お隣の古賀さんなので、首を横に振る。


「ううん、美味しそうだなと思って。椎名さんのお弁当は手作り?」


「うん、手作りだよ。古賀さんも手作りだよね? とっても美味しそう」


 椎名さんは古賀さんから視線が来ていることに気付き、にっこりと微笑む。


「ありがと……。椎名さん、それ可愛い……」


 古賀さんが可愛いと言っているのはおそらくタコさんウインナーだろう。


「あっ、このタコさん? 食べる?」

「うん、食べる」


 遠慮する選択肢はおそらく古賀さんにはないらしく椎名さんにあ~んしてもらっていた。


「お返しに」

「ありがとう!」


 今度は古賀さんが椎名さんに卵焼きをあ~んしていた。


 座っている位置がこうなのでしょうがないが、目の前で食べさせ合いをするので、真ん中の俺は非常に気まずかった。これは席移動すべきだったな。


「そういや、付き合ってるのに2人では食べないの?」


 丸山さんは、付き合い始めてからも自分達と一緒に食べるので不思議に思ったようだ。


 古賀さんは、俺の方を見てから彼女の問いに答えた。


「友達との時間も大切だから……私は、お昼、みんなで食べたい」


 彼女と同意見だ。恋人としての時間も大切だが、俺も友達といる時間を大切にしたい。


「さーちゃん、好き、可愛すぎ!」


 丸山さんが、古賀さんに抱きつこうとするが、距離が遠く、旭に止められた。



***

 



 放課後。今日は、俺の家で夕食を食べることになり古賀さんを家に招いた。


 既にメッセージで彼女が来ることはお母さんには伝えてある。母さんは、今日は仕事で帰りが遅く古賀さんに会えないことをとても残念そうにしていた。


 お母さんの帰りが遅いということで今日はスーパーに寄って自分で作ることになる。


 電車から降りると近くにはスーパーがあるのでそこに立ち寄ることにした。


「古賀さん、スーパーに寄ってもいい? 夕食で必要なもの買いたいからさ」


「いいよ。今日は何を作るの?」


「ポテトサラダと後は家にあるもので適当に作ろうかと。だから買うのはじゃがいもだけかな」

 

「ポテトサラダ好き。私も作るの手伝う……」


「ありがとう」


 スーパーに入り、じゃがいもだけを買って、家へ向かう。


 歩いている時、古賀さんが俺にくっついていることはよくあることだが、今日は何かが違う。気のせいかもしれないが、チラチラと俺の手を見ている気がする。


 彼女の考えていることはおそらくあれだろう。けど、間違っていたら恥ずかしい。よしっ、間違ってたらその時だ。


 ドキドキしながら俺はそっと彼女の手を取り、優しく握った。


「古賀さん。家に着くまでこうしててもいい?」


 そう問いかけると古賀さんは、嬉しそうな表情をし、そして俺にあることを聞いてきた。


「か、河井くんは私の心が読めるの?」

「読めないよ?」

「ならなんで私が、河井くんと手を繋ぎたいことがわかったの?」

「わかりやすい表情してたから」

「はうっ」

「古賀さん!?」


 急に俺の方へふらっと寄ってきたので、大丈夫かと心配になった。


 よく見ると彼女の顔と耳は真っ赤で、恥ずかしいのか下を向いていた。しばらくその状態でいたが、彼女は、ゆっくりと顔を上げて上目遣いで、お願いしてきた。


「恋人繋ぎはダメ?」


 綺麗な瞳で見つめられ、ドキッとして体が熱くなった。


(上目遣いは反則技すぎるだろ……)


「いいよ」


 そう言って指を絡め、ぎゅっと握った。恋人繋ぎは古賀さんで初めてだ。普通に手を繋ぐとはまた違うんだな。


「河井くんの手、温かいね。私より大きい手……ぎゅーされたくなってきた……あっ」


 最後の言葉は口に出すつもりはなかったが、気付けば口に出していたので、彼女は顔を真っ赤にさせた。


「い、今のは忘れて!」


「忘れていいの?」


「むむむ、やっぱり忘れたらダメ。河井くんとぎゅーしたい……」


「いいよ、ここではあれだから家についてからだけど」


「うん、今は我慢する!」


 古賀さんは拳をぎゅっと握り、そして俺に我慢するアピールをしてきた。


 時々あるこの謎アピール、可愛いんだよな。どや顔もいいけど。





***





「お、お邪魔します……」


 ガチガチに緊張しながら古賀さんは、家の中へと入っていく。


 彼女は、洗面所を借りると言って、行ってしまい、その間、俺は、キッチンへじゃがいもを置きに行った。


 その後、ポテトサラダの他に何を作ろうかと悩みながら冷蔵庫の中に何があるかチェックする。


(しょうが照り焼きチキンを───!)


 しょうが照り焼きチキンでも作ろうかと思い、冷蔵庫を閉めたその時、後ろから古賀さんにぎゅっと抱きしめられた。


「ビックリした……」


 古賀さんはたまに気配を消して後ろから来るときがある。驚かされない日は来るだろうか。


「我慢しなくていいよね?」


「! そ、そうだね……誰もいないし」


 ここ最近思ったことがある。古賀さんとの距離は前から近いとは思っていたが、付き合い始めてからはもっと近くなった。そして遠慮がなくなった。


「キッチンは狭いし、リビング行こっ」


 古賀さんは、小さな声でそう言い俺から一度離れ、手を取って俺をリビングへ連れていく。


 彼女とぎゅーするだけなのに物凄くドキドキする。


 リビングへ移動し、ソファに座ると彼女は、両手を広げて俺に抱きついた。


「ね、河井くん……河井くんも私みたいにしたいことがあったら何でも言ってね」 


 したいこと、何でもという男に言ったら危険そうな言葉を古賀さんは口にしたので、俺は変なことを想像してしまった。


(ダメだダメだ、付き合い始めてすぐにそれはダメだろ)


 変な想像は頭から消して俺はずっと思っていたことを思い出した。


「あっ、付き合い始めたしこうしたいって言うのはあるかも」







     

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