第22話 私、重いと思う?

「えっ、沙夜?」


 することができたと言って萩原を追いかけた沙夜の行動に何をする気なのかと疑問に思った俺と椎名さんは顔を見合わせた。


 もし、危ないことをしようとしているなら彼女の元へ行った方がいいだろう。


 そこにいてと言われたが、椎名さんも俺と同じことを思ったようで急いで沙夜が向かった方へ行くことに。


「椎名さん、もしかしてだけど萩原に何かされた?」


「えっ、あっ、うん……最近、萩原くんに後をつけられてて……まさか休日までつけられてるとは思わなかったよ」


(それってストーカーじゃ……)


 俺と会うまで怖かっただろう。誰かにつけられて気分がいい人なんていない。


 あれ、もしかして、沙夜はそれに気付いて、萩原に注意しに行ったのか? 友達が困ってるからストーカーするなと。


「えっと、確かこの辺に……!」


 沙夜を探していると近くにあったバックヤードの前にいるのを見つけた。


 端へと追いやられていた萩原はなぜか座り込んで泣きそうな顔をしていた。そして萩原の目の前には仁王立ちした沙夜がいた。


(これは一体、何があったんだ……)


「あっ、日向と椎名さん。やること終わったから行こ? お腹空いた……」


 いつも通りの様子の沙夜はそう言って萩原を放置してこちらへ来る。


 いろいろ聞きたいことがあるが、場所を変えた方がいい気がしてフードコートへ向かった。


 フードコートに着くと皆、それぞれ食べたいものを買ってきて、空いているところに座った。


「あの……2人はデート中だよね? 私がいてもいいのかな?」


「大丈夫……今の椎名さんを1人になんかできない。ね、日向?」


「うん」


 確か、椎名さんは、スイーツバイキングの時に萩原と来ていたよな。その日から何かあってストーカーされるようになったのだろうか。


「ありがとう……古賀さん、河井くん」


「私、さっき萩原くんに説教してたの……これ以上、椎名さんの後をつけるのはやめてって……」


 優しい言い方をしている沙夜だが、おそらく違う。本気で説教してなければ萩原は座り込んではいないしあんな表情はしていないだろう。


「もうこれで大丈夫。萩原くんが椎名さんに何かすることはもうないと思う。あったとしても椎名さんは、私が守るね」


「椎名さん……本当にありがとう」


(沙夜、カッコよ……)


「そう言えば、古賀さんは知ってたの? 私が萩原くんにつきまとわれてるの」


 それは俺も気になっていた。椎名さんが何に困っているかわからなければ沙夜は、萩原に怒ったりしなかっただろう。


「学校とかで萩原くんが怪しげな行動をしていたのたまに見かけていたから……休日までストーカーしてるとか怖すぎ……あっ、これ美味しい!」


 怒ったような表情をしていたが、オムライスを食べて幸せな表情に変わった。沙夜のこういうコロコロと表情が変わるところはとても可愛らしい。


「古賀さんって美味しそうに食べるよね。こっちまで幸せになるというか……」

「沙夜でいいよ。椎名さんのことは明莉ちゃんって呼んでもいい?」

「もちろんだよ、沙夜ちゃん。下の名前呼びの方が堅苦しくなくていいし」


 2人が仲良くなっている様子を俺は近くで微笑ましく見ていた。





***





 フードコートで3人でまったりとした後は、椎名さんとは別れて、俺と沙夜は、どこに行こうかとフロアマップを見ていた。


 だが、午前中いろんな店に寄ったりし、お昼から2時間は俺と椎名さんと喋りっぱなしだったので沙夜は疲れているようだった。


「沙夜、夕飯だけど食べに来る?」


 じっとフロアマップを見る彼女にそう尋ねると沙夜は、パッと明るい表情で振り向いた。


「行く! 家に両親は?」


「お母さんがいるけど、母さんが沙夜に来て欲しいって……」


「そうなのね、行ってもいいなら行きたい」


「うん、わかった」


 お母さんにメッセージで「沙夜と帰る」と送るとすぐに返信が返ってきた。


『お持ち帰り成功ね。家で待ってるわ!』


(お持ち帰りって……)


 スマホの画面を見ていると沙夜が俺の服の袖をクイクイと引っ張ってきた。スマホをカバンに入れて、彼女を見ると沙夜はニコニコと笑っていた。


「日向、行きたいところができたの。一緒に行ってくれる?」




***




「わぁ~涼しいね……。ここ私のお気に入りスポットなんだよ」


 ショッピングモールを出て辿り着いたところは彼女が俺と行きたかったらしい自然のある公園だった。


 公園には偶然、誰もおらず俺と沙夜の2人だけだった。


「へぇ、いいね。こういうところ好き」

「私もとっても好き」

「そうだ、さっき、椎名さんといる時、じぇ……なんだっけ? 何か言ってたよね?」

「あれは日向と明莉ちゃんが一緒にいてちょっと嫉妬しただけ……」

「そっか」


(あの殺気、ちょっとじゃなかったような)


 沙夜とならどこかで何かをするのも楽しいがこうして静かなところで話す時間は退屈だとは思わない。


 自然と手と手を重ねてぎゅっと手を繋ぎ、自然を感じていた。


「日向……私がいいよって言うまで目閉じて?」


「目? うん、いいけど……」


 言われた通り目を閉じると額に柔らかいものが当てられた。柔らかいものが何かを考えていると沙夜が俺の耳元で囁いた。


「日向、好きだよ」

「!」


「ふふっ、目開けていいよ?」


 目を開けてもいいよと言われたので目をゆっくりと開けると目の前にはこちらを見ていると沙夜がいた。


 綺麗な瞳に見つめられ、彼女に触れたいと思った俺はお返しに彼女の頬にキスをした。


「お、お返し……」


 照れながらそう言うと沙夜は驚いたような表情をし、それから俺の腕に抱きついた。


「日向は、私から離れたらダメだよ。日向は、私が幸せにするから」


「……うん、ありがとう。沙夜から離れないよ。俺も沙夜を幸せにするから」


「うん……。ね、日向……私、重いと思う?」


 重い? あぁ、自分の発言が、愛が重い人みたいになっていないのか気になっているのか。


「ううん、重くない」


「そ、そうだよね……私、普通だよね?」


 沙夜は、ほっとして嬉しそうな表情をした。そしていつの間に買ったのかわからないどら焼きをカバンから取り出した。


「見て、カスタードどら焼き……」


「えっ、まだ食べるの?」


 先ほど、ショッピングモールでたい焼き、オムライス、クレープを食べたというのにまだ食べるのか。


「お腹空いちゃった……日向も食べる?」


「ううん、大丈夫」


「そう……ならいただきます(見た感じ重そうじゃないなら大丈夫だよね、体重の心配は。ダイエットは明日からしよ……)」







       

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る