第21話 猫カフェ

「あっ、カスタードついてる……」

「!」


 沙夜は人差し指で俺の口元についていたカスタードを取り、それをパクっと食べた。


「うん、やっぱり美味しいね、カスタード」


「そ、そうだね……」


 この距離では食べにくいので、少し沙夜には離れてもらい、たい焼きを食べる。


 食べ終えた後、今度こそ猫カフェへと思ったが、気になるものを見つけ雑貨屋へ入った。


 猫の置物やコップなど、猫コーナーがあり、キラキラした目で彼女はいろんなものを見ていた。


「そうだ、日向の誕生日っていつ?」


「8月1日だよ。沙夜は?」


「私は10月23日。絶対にお祝いするね、もうビックリするぐらい盛大に」


「うん、楽しみにしてる。沙夜の誕生日も盛大にお祝いするよ」


「ありがと、楽しみにしとく」


 天使のような笑顔でニコッと笑った彼女にドキッとした。可愛すぎて抱きしめたくなったが何とか抑える。危ない、危ない。


 深呼吸して平常心を保とうとしたが、笑顔に続き、沙夜は猫耳カチューシャを手に取り、頭に付けてそれを見せてきた。


「見て、猫耳カチューシャ」


「っ!」


(平常心なんて無理だ……)


「これ付けたら猫さん寄ってくるかも……」


 沙夜はそう言ってその猫耳カチューシャを買いそうな感じがしたが、元の場所へ戻す。そして、何か思い出したのかハッとした。


「そうだ、猫カフェ行くんだった……」





***




 本来の目的地を思い出すが、猫カフェに行くまで何件か店に立ち寄り、そしてやっと辿り着いた。


 猫カフェは、落ち着いた空間で、20匹以上の猫がいた。


 時間は30分で追加料金を払えばプラスで10分いることができるが、取り敢えず、30分だけいることにした。


 ワンドリンクオーダー制なので、俺と沙夜は、カフェラテを頼んだ。


 座るところがあるのでそこに座ってカフェラテを飲むことに。店内にいる好きな猫のお顔をラテアートにしてもらえるそうで、好きな猫の顔をしてもらったのだが、とても可愛かった。


「猫さん! 可愛すぎる!」


 沙夜は、ラテアートにテンションが上がり、スマホで写真を撮っていた。


「凄いなラテアート」


 ラテアートは初めて頼んだので凄さに感動し俺も写真を撮ることにした。


 たまに来る猫と遊びながらカフェラテを飲み、飲んだ後は、沙夜が猫におやつをあげたいそうでゼリーを購入していた。


「おいで~」


 彼女は、座りながらゼリーが入った小さな瓶を下にいる猫にアピールする。


 すると、猫が何匹か寄ってきて気付けば沙夜の周りには5匹もいた。


「癒し……ずっとここにいれる」


 幸せそうに猫にゼリーを与えていた沙夜はそう呟き、猫を優しく撫でた。


「写真撮ろっか?」


「あっ、ありがとう。猫さんとの写真お願い」


 彼女は自分のスマホを取り出せなさそうなので俺のスマホで猫と一緒のところを何枚か撮ることに。


 すると、ゼリーは持っていないが、俺のところにも猫が2匹来た。


(かっ、可愛い……)


「あっ、日向のところにも猫さん! 今度は私が撮るよ」


 たくさんの猫がいたが、ゼリーがなくなり沙夜の周りには3匹だけになっていたので、スマホを取り出し撮ってくれた。


「にゃんにゃんには勝てないけど、どの猫も可愛い~。ラテ、ショコラ、カスタード」


 隣で彼女の言葉を聞いていた俺は最後の言葉に「ん?」となった。


 店員さんに猫の名前は教えてもらったが、ラテ、ショコラ、カスタードなんて猫はここにはいなかったはず。いや、俺が忘れた可能性もあるけど。


「その猫ってそんな名前だっけ?」


「ううん、私が勝手に付けた。名前何だっけ?」


 やっぱり勝手に付けたんだ……。俺は覚えていたので、猫の名前を彼女に教えてあげた。


「なるほど、覚えた……。そだ、おもちゃあるんだった」


 沙夜はイスから立ち上がり、数分後、小さなボールとねこじゃらしを持って戻ってきた。


「日向、どっちがいい?」


「ねこじゃらし使ってみたい」


「いいよ、後で交代しよ」


 沙夜からねこじゃらしを受け取り、猫がいる方へ持っていくと近寄ってきた。


 隣ではボールで沙夜と猫が遊んでおり、それが可愛らしかったので俺は写真を撮った。それに気づいた沙夜は後ろを振り返り、俺に聞いてきた。


「どんな写真撮れた?」


(こっそり撮ったつもりがバレてた……)


 撮った写真を彼女に見せると後で送ってほしいと頼まれた。


 猫カフェで堪能すること30分。帰る時は猫と別れるのが嫌で沙夜はうるっとした目で猫を見ていた。


「猫カフェどうだった?」


「とっても良かった。また行きたい」


 誘って良かったな。猫カフェを気に入ってくれたみたいだから。


 猫カフェを出て、そろそろお昼にしようと思い、フードコートへ向かう。すると、彼女は、繋いでいた手を離した。


「ちょっとお手洗い言ってきてもいい?」


「うん、いいよ。ここで待ってる」


 彼女が戻ってくるまで、近くにあったフロアマップを何となく見ることにした。


 このショッピングモールは俺が言ったことがある中では1番大きなところだ。


 何度も来たことがあるので迷うことはないが、初めて来た人は迷うだろう。


(小さい頃はよくここを迷路って───!?)


「河井くん!」


 沙夜じゃない……聞き覚えのある声がして後ろを振り返ると走ってくる椎名さんを見つけた。


「椎名さん?」


 彼女は俺のところまで走ってきて、そして後ろに隠れた。


「ご、ごめん……追いかけられてるというか何というか隠れたいの。ちょっとだけここにいさせて」


「えっ、あっ、うん?」


 何がなんだかわからないが、椎名さんは誰かに追われているのだろうか。


 わけのわからないまま暫くこうしているとこの前、スイーツバイキングで椎名さんと一緒にいた男子が前から歩いてきた。その人は、キョロキョロと辺りを見回し誰かを探しているようだった。


(同じクラスになったことはないけど、確か名前は萩原だっけ?)


 萩原は、俺たちの方へ来そうな感じがしたが、曲がって違う方向へ歩いていった。


 それを椎名さんは確認し、そっーと俺の後ろから前に回ってきた。


「あ、ありがとう、河井くん」


「俺は別に何も……それより何が───」


 萩原と何があったのか聞こうとしたが、後ろから殺気を感じ、後ろを振り向くとそこには沙夜がいた。


 彼女がいない間に他の女子と話していた。これを見たら彼女は怒るんじゃないかと思い、俺は慌てて彼女に言う。


「沙夜、これは───」

「じぇら……。2人は、ちょっとそこにいて。私、することできたから」


 そう言って沙夜は、1人で萩原が行った方向へ向かっていった。









 

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