第20話 彼女からの壁ドン

 猫カフェデート当日。集合時間は10時で、待ち合わせ場所は、駅前だ。朝からどの服を着るのか悩みまくり、鏡の前に立って髪の毛、身だしなみを整えていた。


 昨夜、寝る前に俺は、デートでしてはいけないこと、デートの基本といろいろとネットで学んでいた。


 デートなんて今までしたことがないため経験がない。初デートでやらかしたら思い出したくない思い出となってしまう。それだけは避けたい。


 鏡の前でのチェックを終えると、お母さんがキッチンから出てきて話しかけてきた。


「どうしたの? デートでも行くの?」


 俺が男子友達とどこかに行きそうな格好をしていなかったので、一緒に遊びに行く相手が女子だとすぐにバレてしまった。まぁ、隠すつもりは全くなかったのだが。


「古賀さんと猫カフェに行くんだ」


「あら、青春ね。可能であれば帰りは連れて帰ってらっしゃい。一緒に夕食を食べたいわ」


「うん、わかった。聞いてみるよ」


 まだ本人に聞いていないが、夕食に誘ったら彼女は「うん」と笑顔で頷いてくれるだろう。


「日向、デート頑張りなさいね。お持ち帰りは絶対に忘れないでね」


(お持ち帰りって……)


 彼女と一緒に夕食を食べることになったその時は、お母さんに付き合っていることを言おう。


 デート終わりに彼女を夕食に誘うことを忘れないようし、そろそろ家を出ることにした。


 天気は晴れ。デート場所は施設内なので雨が降っても大丈夫だが、やはり天気がいい方がいいだろう。


 集合時間30分前に駅に到着すると、先に沙夜が待っていた。


 俺は集合時間を間違えたのかと焦り、彼女の元へ走った。


「ごめん、もしかして待たせた?」


 一旦深呼吸して落ち着いてから謝罪すると沙夜は、頭を横に振った。


「ううん、私が早かっただけ。日向、おはよ」


「おはよう、沙夜」


 遅れたのかと思ったが、大丈夫だったみたいでホッとした。


 挨拶を済ませた後、俺は、彼女の可愛い服装を見た。


 リボンが胸に付いた黒の長袖ワンピース、その上には肌色のカーディガンを羽織っていた。


(かわいい……)


 じっと見ていると沙夜は、ふふっと小さく笑い、そして周りには人がいるが抱きついてきた。


「日向、カッコいい……ちょー好き」


「! あっ、ありがとう……。あの……ここは……ちょっと……」


「あっ、ごめん……周りが見えなくなってた」


 沙夜は、慌てて俺から離れた。


「沙夜は可愛ね。服、とっても似合ってる」


「かっ、かわわわっ!」


 ストレートに言ってしまい俺は後から恥ずかしくなっていく。そんな中、沙夜は顔を真っ赤にしていた。


 会って数分でこんな感じだけど、帰る頃まで持つかな……。


「日向、初デート記念に写真撮ろっ!」


「いいね、写真。撮ろっか」


 今気付いたが、沙夜とは写真を撮ったことがない。なので、写真は1枚もない。


「じゃ、こっち向いて。撮るね、3、2、1」


 自撮りで何枚か写真を撮り、その後は撮れた写真を確認した。


 写真慣れしていないので、表情がぎこちなくなっているだろうなと思い、確認してみたがいい笑顔だ。


(俺の隣に天使が写ってる……)


「写真、日向に送っておくね」


「ありがとう」


「じゃ、行こっか。電車で2駅先のショッピングモールへ」


 猫カフェがあるショッピングモールは、沙夜の最寄り駅から1駅先。そして今いる場所は俺の最寄り駅。同じ電車に乗ればいい話だが、沙夜は今いる駅まで来てくれた。


 なぜ駅まで来てくれたのか本人に聞いたところ「この区間なら定期券があってタダだし、日向といる時間が増えるからいいの」と嬉しいことを言ってくれた。


 電車に乗っている間ははぐれないようぎゅっと手を繋ぎ、目的の駅に到着する。そしてそこから3分ほど歩いてショッピングモールへ着いた。


「猫に会えるね。昨日は楽しみすぎて寝れなかったんだっ」

「それは大丈夫なのかな……?」


 沙夜は、十分な質の睡眠を取っていないと眠くなってしまうことがあるらしい。ワクワクして眠れなかったのは俺もそうなんだけど、心配だ。


 館内に入り、猫カフェがある3階へ向かうことに。だが、沙夜といたら中々進めないのだった。


「いい匂い……これはカスタード!」


 たい焼きが売っているのに気付いた沙夜は、キラキラした目をして店の前まで近づくが、ハッとして、俺のところへ戻ってくる。


「食べなくていいの? 凄い美味しそうだけど」


 お昼前だが、お腹が空いているのであれば食べた方がいいだろう。


「が、我慢も大事……私は、ダイエ……むむむ、やっぱり食べようかな……」


 んー、前も気になったが、ダイエってなんだろう。そう言う言葉があるのかな。


「沙夜、半分こしようよ。どう?」


「それナイス! 味はカスタード、あんこ、チョコがあるみたいだけど、どーする?」


 自分が全て食べるなら沙夜は迷わずカスタードを選ぶだろう。だが、俺も食べるものなのでどの味がいいか聞いてきた。


「カスタードにしよっか」


「チョコはいいの?」


「うん、今日はカスタードの気分なんだ」

「ふふふっ、私もカスタードの気分」


 俺と沙夜は顔を見合わせてニコニコと笑う。暫く微笑みあっていると、近くから聞こえていくる声が気になった。



「あの子天使じゃね、可愛すぎだろ」

「ほんとだ、可愛い。けど、彼氏いるみたいだし声かけれないな」


「ちょっとどこ見てんのよ。他の女見てんじゃないわよ」

「えっ、いや、み、見てないよ……」



 周囲のざわつきに沙夜も気付いたらしくが、なぜか自分の服装を気にしだしていた。


「わ、私、変な格好してるかな?」


「えっ、あっ、いや、違うと思う」


(多分、沙夜が可愛すぎるからだと思う)


 彼女をじろじとと見られるのはあんまりいい気分ではない。


 独占したいと思う気持ちが強くなり、俺は、彼女の手を取り、たい焼きを買いに行くことに。


 割り勘し、たい焼きを買うと半分に分けて、2人で1つのものを食べる。


「はむっ、むむむ、美味しいっ!」

 

 幸せそうに食べる沙夜は、物凄い早さで半分食べ終える。


 ゆっくりと食べていると沙夜は何かに気付き、壁にもたれ掛かる俺の目の前に立ち、片手を壁につけた。


「さっ、沙夜さん!?」


 全く予想していなかった彼女の行動に俺は、たい焼きを持ったまま固まった。


(これ、壁ドンってやつだよな?)


「視線を感じたから日向を守ってる……日向、カッコ良すぎるからみんな見てるんだよ」


(いや……みんなが見てるのは俺ではなく沙夜だと思うけど……)


「日向は、気にせずたい焼き食べてね」


 いや、沙夜と距離が近すぎて食べれないですけど……。








 

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