第46話 犯人は2人?
「えっ、何で……?」
俺は昨日、旭と帰った。それに文化祭の準備期間中、この美術室に入るのは今日が初めてだ。
「沙夜……」
「大丈夫だよ、日向。私は、日向が犯人だなんて思ってないから」
やっていないと言おうとすると沙夜は、俺の手を優しくぎゅっと握った。
「日向の名前を使うなんて犯人は最低ね……。これは注意だけじゃ済まされない。日向、筆と絵の具を借りたら職員室に寄ってもいい?」
「職員室? いいけど……」
沙夜は犯人がわかっているからか絵の具などを借りた人が書かれた紙に俺の名前があっても犯人だと思っている様子は一切なかった。
「ありがとう。あっ、私の名前書いておくね」
沙夜は、絵の具を借りるため紙に借りた時刻と名前を書き、そして河井日向と書かれた名前を消ゴムで消して、『萩原亮太』と書いた。
「萩原……?」
「うん、萩原くん。ここには本当に借りた人の名前を書かないとね」
彼女はそう言ってボールペンを置いて、先生に筆と絵の具を借りに行った。
そんな中、俺は、沙夜の言葉を少し遅れて理解した。なるほど、萩原が絵の具を借りたのか。いや、けど、待てよ……なぜ萩原が俺達のクラスの看板をあんな風にしたんだ?
犯人は、萩原だと沙夜は言うが、そう思う根拠が彼女にはあるのだろうか。
「「失礼しました」」
筆と絵の具を借りて、美術室を出て、沙夜が行きたいと言う職員室へ向かう。
ここの階は人の気配はあまりなく静かだ。聞くなら今かなと思い、俺は口を開く。
「沙夜は、犯人が萩原だと思ってるの?」
「うん、1人はね」
「1人はってことはまだいるの?」
「うん、いるよ。犯人は2人だと思ってる。けど、もう1人は犯人かわからないから後1人は今から確かめに行くつもり」
どうやらその後1人は職員室へ行けば犯人かどうかわかるらしい。
「けど、どうして萩原はあんなことを……」
「さぁ、何でだろう……。もう1人と協力して……いや、協力してもらった可能性もあるけど、何かしたかったんだろうね……」
協力して看板をあんな風にした。なぜ? 何のために? いろんな疑問が出てくるがわかっていることがなさすぎて何もわからない。
階段を降りて、職員室へ着くと沙夜は、入り口前の机に持っている絵の具を置いてから中に入っていった。
職員室の外で待つこと数分、沙夜が、出てきた。
「ビンゴよ、日向」
「ビンゴ……?」
「うん、当たり。看板をあんな風にしたのは萩原くん。後はどう関わったのかまだわからないけど、高坂くん」
沙夜はそう言って嬉しそうに両手を合わせて微笑んだ。
「じゃあ、昨日、怪しい人を見かけたって言ってたけど、それは……」
「怪しい動きをしてたのは萩原くんだけ。高坂くんは、鍵を借りただけだと思ってる」
沙夜は話しながら机に置いていた筆と絵の具を持ち、歩き始めたので俺も後をついていく。
教室に着くと俺と沙夜は、看板チームの指示に従いに色を塗っていく。
そして何とか看板はみんなの協力により午前中に完成させることができた。
お昼になり、一旦休憩となったので、沙夜と一緒に食べようとしたが、教室に彼女の姿はなかった。
***
「古賀さん、どうした?」
昼休み。沙夜は、高坂を人気のないところに呼び出していた。
「ごめんね、高坂くん。看板のことなんだけど、高坂くんは、明莉ちゃんがやったと思う?」
「思うわけないだろ。明莉はそういうことをする人じゃない。もしかして、古賀は───」
「私も思ってない。あれをやった犯人は明莉ちゃんじゃないの」
ハッキリと明莉ちゃんではないと断言するので、高坂は、沙夜が犯人を知っているのではないかと思い始める。
「みんなの前で言ったけど、昨日、私は明莉ちゃんと帰る約束をしていて教室の鍵を閉めるとき、職員室に鍵を返すときもずっと明莉ちゃんと一緒にいた。これが明莉ちゃんじゃないと言える証明」
沙夜は、2つの可能性を考えながら高坂の様子を観察する。
「ね、高坂くん。昨日の放課後、萩原くんに会わなかった?」
「萩原? あぁ、会ったよ。昨日、文化祭準備が終わった後、部活の集まりがあってさ、その帰りに廊下で。確か、下校時間の10分前かな」
昨日、沙夜と椎名さんが戸締まりをしたのは下校時間の20分前。となると自分達が帰った後に何かあったと予想できた。
「で、萩原くんには何か言われた?」
「段ボールが必要って言ってたから2組は余ってるから渡すことにしたんだ」
「鍵は誰が借りたの?」
「俺だな。鍵閉まってたから俺が職員室に借りにいった」
「その後は? 高坂くんは、萩原くんと一緒に2組に行ったの?」
「段ボールがどこにあるか教えに行ったよ。鍵返すのは俺がやっておくと萩原が言ったから俺は最後まで萩原とはいなかったな」
「そう……ほんと諦めの悪い人」
沙夜からの質問の多さに驚く高坂だが、質問の内容から何かわかったのかハッとした。
「もしかして、看板をあんな風にしたのは萩原ということか?」
「うん、私はそう思う……。高坂くん、ちょっと協力頼めないかな?」
***
「あっ、沙夜」
「あっ、日向……」
教室に沙夜が戻ってきたので駆け寄ると周りにはクラスメイトが何人かいるというのに抱きつかれた。
すると、昼食を食べていたクラスメイト数名が俺と沙夜のことを見て、話している会話が聞こえてきた。
「やっぱり2人は付き合ってたんだね。怪しいと思ったんだよ」
「だな、俺は4月辺りから怪しいと思ってたぜ」
「お似合いだね。甘えてる沙夜ちゃん、可愛すぎ」
「わかる。私がやったらあれだけど、沙夜ちゃんなら可愛いしかない」
周りの人達の声を聞いて沙夜は、嬉しそうに笑った。
「ふふっ、広まったことだしこれからは学校でもイチャイチャしよっかな……」
「できればあまり人のいないところで」
【第47話 ご馳走さまです、ありがとうございます】
★次回、食べ物の回というわけではありません。
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