第47話 ご馳走さまです、ありがとうございます
文化祭当日。前日に看板を作り直しという大変なことがあったが、なんとかいい状態で文化祭を迎えることができた。
文化祭が行われるのは2日間。土曜日と日曜日に行われる。
1日目。俺達、メニューを考える係は、メイド喫茶の当番に当たっていた。
男子は、クラスティーシャツを着て、女子はメイド服を着ることになっている。
文化祭が始まる数分前。沙夜がメイド服を見せたいそうで俺は更衣室から離れたところの階段で待っていた。
ドキドキしながら彼女を待つこと数分。後ろから誰かに耳元で囁かれた。
「日向」
「!」
急に声をかけられたので驚いた俺は、後ろを振り返る。すると、そこにはメイド服を着た沙夜がいた。
メイド服にはあまりお金は使えないとか聞いていたが、クオリティ高すぎるだろ。
メイド喫茶には行ったことがないだろうが、こんな可愛い人がいたら間違いなく人気者になるだろう。
「ご馳走さまです、ありがとうございます」
「何で敬語? ふふっ、けど、喜んでもらえたみたいでよかった。日向は、私以外のメイド姿、見るの禁止だからね……?」
「大丈夫、沙夜しか見ないよ。あっ、写真撮ってもいいかな? 一緒に……」
せっかくの文化祭。思い出に写真の1枚ぐらい撮っておきたい。
「もちろん、いいよ……。日向、隣来て」
「うん」
沙夜の隣に並ぶと遠いと感じたのか俺の腕をぎゅっと抱きしめ自分の方へ寄せた。
「撮るね?」
写真を撮り終えると、沙夜は、俺の手をぎゅっと握ってきた。
「もうバレてるからいいよね?」
「う、うん……」
学校で手を繋ぐのって何だか不思議な気持ちになる。まるでやってはいけないことをしているような感じだ。
「2日目は、何もないし一緒に回ろう。文化祭デートね?」
「うん」
***
彼氏としては少し嫌な気もするが、俺達のクラスのメイド喫茶は、沙夜と椎名さん目当てで来るお客さんがたくさんいた。
(1年生の頃から沙夜がモテてるのは知っていたが……)
注文を受けた女子から頼まれたものを用意していくだけの男子は、裏にずっといる。ここからたまに沙夜が変な奴に絡まれていないか心配で確認している。
(カメラ向けた瞬間、すぐに守りに行こう)
そう決意していると椎名さんが、裏へやって来て俺に頼んだ。
「河井くん、シューアイスチョコお願いします」
「チョコ……はい、どうぞ」
「ありがとう、河井くん」
シューアイスチョコを椎名さんに渡すと今度は、丸山さんが来た。
「河井くん、ちょっといい?」
「丸山さん? どうしたの?」
よくわからないが来てほしいとのことで俺は、近くにいる男子に少しだけ教室を出ることを伝えてから丸山さんと廊下に出た。
廊下に出るとそこには沙夜もいて、俺にスマホの画面を見せてきた。
「今日、中学の時の友達が来てるんだけど、その子からこんなメッセージが来たの」
沙夜に送られてきたメッセージを読んでいると隣で丸山さんが腕を組んで大きなため息をつく。
「もうストーカーだよ。宝生、絶対さーちゃんに会いに来てる」
「宝生くん、私のこと嫌いなのに何で会いに来るんだろう……」
そう、メッセージで送られてきたのは学校に宝生に来ているという報告メッセージだった。
「とにかくもし話しかけてきたら無視だよ? さーちゃん、すぐに暴走するから」
「暴走? 私は、なにもしてないけど……」
「まっ、とにかく、河井くん、さーちゃんを守るんだよ?」
「うん、わかった」
「守らなくても私は大丈夫だよ。私、か弱くないし……」
沙夜はそう言って、スマホをポケットにしまってから教室へ戻っていった。
「宝生くん、さーちゃんの高校知らないはずなのになぁ……」
「……制服でわかったんじゃないかな? 前に一度学校帰りに会ったし」
「あーなるほどね。って、やっぱりやってることストーカーじゃん。制服見てそれで学校に来るとか普通にヤバイよ。ってことで、河井くん、よろしく~」
手をヒラヒラさせて丸山さんも教室へ入って行ったので、俺も当番に戻る。
宝生は一体何がしたいのだろうか。嫌いだから沙夜に嫌がらせして……いや、嫌いなら学校まで普通来るか?
矛盾していることに気付き、なぜ宝生が来たのか考えてみる。
沙夜に会うために来たと決まったわけじゃない。この学校に友達がいて、その人に会いに来た可能性はなくはない。
「日向……ね、日向」
考え事をしていると名前を呼ばれていることに気付き、ハッとすると目の前には舞桜がいた。
「舞桜?」
「ぼーっとしてたみたいだけど大丈夫?」
「大丈夫。どうかしたの?」
「午後から木村くん達のチームがいけるみたいだから当番は休んでもらっていいわよ。久保くんと高坂くんにも伝えてあるから」
「伝えてくれてありがとう」
お礼を言って、用件を伝え終えたら帰ると思ったが、舞桜はこの場から離れないので、声をかけることにした。
「舞桜、どうした?」
「……3年生のところで射的やってるらしいの」
「射的?」
「うん……少し時間あるなら久しぶりに日向と勝負したいんだけど、ダメかな?」
小さい頃、夏祭りで舞桜と射的などいろんなゲームで勝負したことがある。
明日は沙夜と回る予定があるが、今日の午後は当番がなくなり時間はある。それなら……
返答をしようとすると後ろから誰かに抱きつかれた。
「ダメ。行くなら私も行く」
「古賀さん……日向、3人でならいい?」
「それなら……」
「やったっ。古賀さんも射的勝負しようね?」
「うん……大原舞桜には絶対負けない」
(仲良く……なってないか……)
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