俺のことを気に入ったマイペース美少女には気を付けること。さもないと手遅れになります

柊なのは

1章

第1話 気に入られた

 この学校には成績優秀、スポーツ万能な清楚系美少女がいる。


 名前は古賀沙夜こがさよ。長くて綺麗なブロンドの髪を持ち、すらっとしたスタイルの彼女は男女共に人気だ。


 高校1年生から彼女のことは知っていたが、クラスが違っていたので話したことはない。


 そんな彼女と高校2年生のクラス替えで同じクラスになった。


 俺、河井日向かわいひなたは、彼女に少し興味があった。皆が美少女というのだからどんな子だろうかと。


 今日はクラス発表があり、新しい教室に入ると去年同じクラスだった人もいれば顔も名前も知らない人もいた。


 仲のいい友達と同じクラスになれてに孤立することはないだろうが、やはり新しいクラスは緊張する。


 黒板に座席表がマグネットで貼られていたので確認してから俺は自分の席に向かった。


(廊下側の1番後ろで……ん?)


 自分の席に着き、隣の席の人を見ると机に突っ伏して気持ちよさそうに寝ていた。


 新学期早々、お疲れなのだろうか。名前を見忘れていたので隣の席の人の名前がわからない。


 起こさないよう音を立てずゆっくりと椅子に座る。そして気になって、隣を見ると寝ていたはずの彼女と目が合った。


 彼女の綺麗な瞳を見ていると吸い込まれそうになった。すると彼女は、ゆっくりと口を開いた。


「お隣さん?」


(喋った……いや、人形じゃないから喋るのは当然だけど)


 少し悲しいやつだが、思ったことに対して、心の中でセルフ突っ込みした。


「うん、隣の席だよ。よろしく」


「うん、よろしく……先生来たら教えて……」


「うん───って、えっ、なんで?」


 いいよと普通に引き受けようとしていたが、なぜ俺が初対面の彼女を起こす役割を担わないといけないんだ。


 自分で起きてと言おうとしたが、彼女は、再び眠りについていた。


 そんな彼女の寝顔を見ていると俺はどこかで彼女のことを見たことがあるような気がした。


(もしかして、この子が噂の古賀沙夜……いや、待て)


 俺が噂で聞いて想像していた彼女と今、目の前にいる彼女が違いすぎて驚いている。


 結局、誰なんだろうと思っていると彼女の友達らしき人が隣の席のところへ来た。


「おっはよー、さーちゃん!」


「…………」


 かなり大きな声だったはずだが、隣の方は、起きない。


 凄いなと謎に感心していると彼女のお友達さんが俺に話しかけてきた。


「あれ、起きない。ねぇ、さーちゃん……じゃなくて、古賀沙夜、さっきまで起きてた?」


「古賀沙夜……うん、ついさっきまでは。すぐにまた寝たけど」


 お友達さんのおかげでやっとわかった。やっぱりお隣の彼女の名前は古賀沙夜だった。


「そっか、なら起きないね。あっ、自己紹介せず急に話しかけたから驚いたよね。私、丸山結菜まるやまゆいな。君は?」


「俺は────」

「古賀沙夜……よろしくね」


 丸山さんが自己紹介し、次は俺が名前を名乗る流れだったが、自己紹介したのは寝ていた古賀さんだった。


「あっ、起きた。おはよ、さーちゃん」


 古賀さんはゆっくりと顔を上げて背伸びをした後、俺の方に体を向けた。


「おはよ……で、あなたの名前は?」


河井日向かわいひなた


「日向……いい名前ね」


(まさかの初対面で名前呼び!)


 古賀さんの可愛さと急な下の名前呼びに俺は驚いた。


「さーちゃん、初対面で名前呼びとは中々やるなぁ~」


「えっ、呼んだらダメなのね……じゃあ、河井くんでいいかな?」


「う、うん、好きな呼び方でいいよ」


「じゃあ、河井くん」


 そう言ってニコッと笑う古賀さんの笑顔はまさに天使のようだった。


 噂で聞いていたがこの笑顔は、心打たれるものだわ。




***




 俺が思っていた古賀さんとは違ったが、彼女は思ったより親しみやすい人だった。

 

 彼女が起きているときは周りには常に人がいて古賀さんは楽しそうに話していて、誰もいないときは静かに寝ていた。


(寝るのが好きなのかな……?)


 まだ彼女のことは知らないことばかりだ。これから少しでも知れたらいいな。


 入学式後。皆が教室から出ていく中、仲のいい友人は部活があるから先に帰ると俺に声をかけてすぐに教室を出ていってしまった。


 1人で帰ることになり、ゆっくりと帰る準備をしていると古賀さんが、小さな声で俺の名前を呼んだ。


「河井くん、河井くん……」


 呼ばれたことに気付き、隣を見るとそこには俺の服の袖を持って名前を呼ぶ古賀の姿があった。


「どうした?」 


「一緒に帰ろ」

 

「えっ?」


 初対面だし、そこまで親しくないので誘われるなんて想定してなかった。


「まっ、丸山さんは? ほら、友達だし、彼女と一緒に帰らないの?」


 放課後になってから丸山さんは一度も彼女のところに来ていなかったが、一緒に帰るのではないかと思った。


「結菜は、用があるから先に帰った……だから私、帰る人いないの。河井くんのこと知りたいから一緒に帰ろ?」


(!)


 ニコッと微笑む彼女にまたもや俺は、ドキッとした。


 今日は何度この天使の笑みにやられたことだろうか。破壊力凄すぎだろ。


「家、どこなんだ?」


「1番ホームに来る電車に乗って2駅先」


 いらない情報だと思うが、ホームまで教えてくれてありがとう。なら、俺と同じ方向の電車で自分が先に降りる感じか。


「わかった。なら途中まで一緒に帰ろう」


「うん!」


 また天使のような笑顔で頷き、俺の心臓はもう持たない気がした。


 そう言えばあんまり考えてなかったけど、人気者の彼女と一緒に帰ったら俺と古賀さんの変な噂が立たないだろうか。


「念のため一緒に帰る前に聞いておくけど、古賀さんは彼氏いる?」


「彼氏はいないよ、フリーだよ。だから周りから誤解されても全然オッケー」


「えっ、いいの? 俺と付き合ってるみたいな噂が立つかもしれないよ?」


 俺だったら根も葉もない噂を広げられるのは気分が悪い。大したことのない噂なら構わないが。


「私はいいよ。けど、河井くんが私と変に噂されるのが嫌なら一緒に帰るのは……」


 そう言って彼女は、机に突っ伏して顔だけをこちらに向ける。


 噂が立つかもしれない。けど、そんなことを気にしていたら話したい人と話せないし、仲良くなりたい人となれない。


「嫌じゃないよ」


 俺がそう答えると彼女の表情がパッと明るくなり、起き上がった。


「ふふっ、河井くん、気に入った」


「気に……ん?」


(気に入ったって何!?)


 一人、古賀さんに言われたことに混乱していると彼女が腕をぎゅっと抱きしめてきた。


「早く帰ろ?」








 

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