第37話 中華街

 中学の頃、私は、大好きなカスタードスイーツに関して怒ったことがある。


 その日、クラスのみんなで公園に集まってバレンタイン交換会が行われていた。女子も男子もいて、私は主に女子の友達と交換していた。


 手作りのカスタードマフィンを作ってきて、交換したみんなは美味しそうと言って自分のチョコと交換してくれた。


 けれど、その時、よくちょっかいをかけてくる男子である宝生くんが私の交換する分のマフィンが入った袋を取り上げ、それをゴミ箱に捨てた。


「カスタードスイーツとかマズイだろ。ゴミ同然だ」


 そう言ってゴミ箱に捨てたのは宝生くんだ。それを見ていた私の友達は、宝生くんに向かって怒り始める。


「ちょっと、宝生! 何してるのよ!」

「ほんと、さいって~。先生に言うから」

「どれだけ沙夜ちゃんが頑張ったかわかってるの? 宝生、謝って!」


 みんなが怒ってくれている中、私は、ゴミ箱に入れられたカスタードが入った袋を見た。


 悲しいのにカスタードのことを悪く言われた方がショックで泣けなかった。


「許せない……」


 私は今も許していない。親と一緒に直接来て初めて彼は謝ってきたけど、あれは親が謝りなさいと言ったから謝っただけだろう。


 宝生が私にちょっかいばかりかけてくるのには理由がある。それは嫉妬だ。


 彼は、私のことを妬ましいと思っている。いつも周りに人がいて人気者な私のことが。


 いつまでも宝生の考え方は、子供っぽい。人気者の私に何かしてもあなたが人気者になれるわけがないのに。





***




 8月中旬。夏休みの課題は、パパっと終わらせ、暇していると紗夜からデートに誘われた。


 行き先は、ある中華街。そこは、日本三大中華街の1つである場所だ。


 行ったことはないが、調べてみると、小籠包やビーフコロッケが食べられると書いていた。


 沙夜は、一度行ったことがあるらしく、どこの店が美味しいか詳しく知っているらしい。


 長時間、電車に乗るので彼女と初めての日帰り旅行となるだろう。


 電車に乗って、目的地へ到着すると彼女は、パァーと顔を輝かせた。


「着いた。日向、朝食、あんまり食べてきてないよね?」


「うん、沙夜が、オススメの食べ物をたくさん教えてくれるって言ってたから」


 何も食べていないのはさすがにお腹が空くのでおにぎりは食べたが、お腹はあけてきた。


「それならよし。まずは、小さい小籠湯包食べよ。いろんなもの食べるためにも6個入りを半分ね」


「わかった。俺が買ってくるよ」


「ありがと。なら、私は、焼きビーフン買ってくる」


 並んでいる人が多いので、それぞれ同じタイミングで別の店に並んで買うことに。


 沙夜が並びに行った焼きビーフンが何かわからないが、多分、焼いた何かなんだろう。


 小籠包、6つ入りを買って、沙夜と待ち合わせと決めた場所で座って待つことにした。彼女が買いに行った方が混んでいたので遅くなることはわかっている。


 今食べたら熱いだろうなと思いながら小籠包を見ていると足音が聞こえた。


「日向、お待たせ。あつあつの時が美味しいから早く食べよ」


 焼きビーフンというものを買ってきてくれたが、先に買った小籠包を食べることになった。


「先食べたけど、熱くないから大丈夫だよ。はい、どうぞ」


 彼女は、口を開けて待っていたので、俺は食べさせてあげる。


「んんっ、美味しい! 私も日向にあ~んしようか?」


「えっと……うん、お願いしようかな」


 一度周囲を確認してから俺も彼女に食べさせてもらった。


 一口サイズでとても食べやすく、とても美味しい。食べたことはあったが、久しぶりだ。


 食べさせあい、小籠包を完食させると次は、焼きビーフンだ。


 見た目からして麺っぽいが果たしてどんな味がするのだろうか。


 これは、さすがに食べさせてもらうのは難しいので、交代で食べることに。


 沙夜が最初に食べて、渡されると俺もビーフンを食べる。


(んっ、もちもちしてる……)


 麺と野菜、肉がたくさん入っていてとても美味しい。


「幸せ……日向といるからもっと幸せかも」


 食べ終えて休憩していると沙夜は、幸せそうな表情で俺の肩にもたれ掛かる。


「まだ食べれそう?」


「うん、まだまだいけるよ。日向は、お腹いっぱい?」


「ううん、まだ食べれそう」


 やっぱり沙夜ってかなり食べる方だよな。たくさん食べるのを見るのは好きだ。


「なら、次は、ビーフコロッケ食べよっか。その後はお団子ね」


 彼女の頭の中にはもう次食べたいものがあるようだ。俺は、ここにどんな食べ物があるか詳しくないので沙夜が食べたいものが食べてみたい。


「食べてばっかりもいいけど、日向と行きたいところがあるの。後で行こうね」


「うん、行こう」


 沙夜となら多分、何をしても楽しめると思う。一緒にいられるだけでも幸せを感じられるのだから。





***





「むむむっ、何これ、最高すぎる!」 


 ビーフコロッケ、ゴマ団子と彼女は、1つをペロリと食べてしまう。多分、俺より食べてる。


(可愛い……)


 食べている姿に見とれていると沙夜が、俺の持っているビーフコロッケを見ていることに気付いた。

 

 もしかして、まだビーフコロッケを食べたいのだろうか。


「沙夜、食べる?」


「……たっ、食べない。私、それ以上食べたらダイエ……抑えてるのに我慢できなくなっちゃう」


 また不思議な言葉、ダイエ。本当にどういう意味なんだろう。


 後、我慢できなくなっちゃうなんて聞いてしまったからかこの前、沙夜が言っていた「ダメ……キスしたら我慢できなくなる」を思い出した。


(……今は関係ないだろ)


「いらないか……ほんとに?」


 食べないと言うが、沙夜はずっとこちらを見ているので、ほんとは食べたいのではないだろうか。


「う、うん。ここ離れてまた食べたいものがあった時、食べられないから」


「わかった(あれ、まだ食べるんだ……)」


 俺は、もうこのビーフコロッケとゴマ団子でお腹一杯だし、食べられないけど、沙夜はまだ食べられるのか。


 沙夜はもう食べ終えているので、少しスピードを上げて俺も完食する。すぐに動くことは無理なので、座って休憩した。


「さて、食べる前に行こ? 私のお気に入りスポット。日向も絶対好きだと思う」


 バッと立ち上がり、クルッと振り返った沙夜は、俺の目の前に手を差し出した。その手を俺は優しく握る。


「それは楽しみ」








    

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