第36話 特別な日
古河家から沙夜の家へ移動し、到着すると俺は、沙夜にリビングへ案内された。
俺にしたいことがある、特別な日だからと言っていたが、今から何が行われるんだろうか。
ソファに座ってしばらく待っていると沙夜が何かを持って俺の隣に座った。そしてこちらを向いて手を大きく広げた。
「お待たせ。まずは、家に帰ってきたのぎゅーでもする?」
「聞く前に抱き付いてるけど……」
「最近、日向不足だったからいいよね?」
「日向不足って……いいよ、けど、沙夜がそうするなら俺もする」
「ふふっ、日向も沙夜不足なんだね」
沙夜不足という言葉に少しツボってしまい、笑ってしまう。
彼女をそっと優しく抱きしめる。小さな体なので、強く抱きしめたら壊れてしまいそうだ。
温もりを感じ、幸せに浸っていると沙夜は、俺から少し離れて、顔をぐいっと近づけてきた。
「日向……キスしよ?」
「……うん」
彼女は俺からしてほしいらしく沙夜は目をゆっくりと閉じた。
キスはまだなれないが、この前したのを思い出して彼女にキスをした。
「ふふっ、幸せ……」
「俺も……そう言えば、何か持ってきたみたいだけどそれは?」
ここに座る前、沙夜は、何かを持ってきていた。それが何か少し気になっていたので聞いてみることに。
すると、沙夜は、ふふっと小さく笑い、その持ってきたものを俺に渡した。
「プレゼントだよ。誕生日おめでとう、日向」
「……そっか、誕生日か」
おめでとうと言われて初めて気付いた。今日、8月1日が、自分の誕生日であることを。
「ありがとう、沙夜。開けてもいい?」
受け取ったものの中に何が入っているのか気になるのでそう尋ねると沙夜は、コクりと頷いた。
許可をもらったので、受け取った紙袋の中を見る。中には、マグカップと鍵ケースが入っていた。
マグカップと鍵ケースを中から取り出すと沙夜は、説明してくれた。
「マグカップは私とペアなんだよ?」
「ほんとだ、お揃いだね。凄い嬉しい……。ありがとう、沙夜」
「ふふっ、喜んでくれて私も嬉しいな」
沙夜とお揃いのマグカップ。そして、鍵ケース。ケースの中には俺の家の鍵と似た鍵が入っていた。
「この鍵って……」
「うん、私の家の鍵。いつでも来ていいよ」
「……本当にもらっていいの?」
「もらってほしいから渡したの。日向のこと信じてるから」
「……わかった、もらっておく。ありがとう」
鍵が入ったケースは、無くさないような場所に置き、マグカップはこの後すぐに使うことになった。
「次は、ケーキタイムだね。ケーキの準備するから日向は待ってて。お揃いのマグカップに紅茶入れたいから使ってもいい?」
「あっ、紅茶なら俺が淹れるよ、というか淹れたい。沙夜は、ケーキお願いできる?」
何もかも任せるのは落ち着かないなと思い、彼女にそう言うと沙夜はニコッと笑った。
「じゃあ、紅茶は日向にお任せしようかな」
2人キッチンに並び、ケーキと紅茶を準備をする。
「みてみて、ケーキ」
「美味しそう。俺、ケーキの中で1番チーズケーキ好きって言ったっけ?」
ケーキの中で俺は、チーズケーキが1番好きだ。沙夜にその話はしたことがないが。
「ううん、日向ならこれかなと。けど、当たってたみたいだね」
ケーキと紅茶ができたところで、テーブルへ運び、向かい合って座った。
「むむむ、ローソク1本しか立たない……。17は難しい……」
ワンホール作って4分の1カットしてしまったので、ローソクを立てることができなかった。
「1本でいいよ」
「ううっ、ごめんね……」
「大丈夫だよ。火つけよっか」
「うん」
ローソクに火をつけると、沙夜は、俺のことを見て微笑んだ。
「17歳の誕生日おめでとう、日向」
「ありがとう、沙夜。今日は、沙夜の言う通り特別な日だよ」
灯った綺麗な火をふっと息で消す。
家族、友達、今まで誕生日はいろんな人に祝ってもらったけれど、今年は特別だ。
「ケーキ食べよっか」
「うん、食べよ。その前に日向が淹れてくれた紅茶飲もっかな」
沙夜は、そう言って俺がさっきもらったのとお揃いのマグカップで冷たい紅茶を飲む。
「んっ、美味しい」
「……良かった。このマグカップ、ここに置いててもいいかな?」
「いいよ、私の家に日向の物がある方がいい」
「ありがとう」
***
沙夜の家で誕生日会をし、ゆっくりと過ごした後、家に帰ろうとすると沙夜が送ると言った。
手を繋いで、駅に向かって歩いていると、また嫌な遭遇をしてしまった。会ったのは沙夜が苦手な宝生だ。
「さいあく……」
沙夜は俺の後ろに隠れて目の前にいる相手に向かって言った。
「まだ付き合ってんのかよ。よく古河といれるよな」
「っ! 沙夜のこと───」
「宝生くんは、私に嫉妬してるんだよね……」
宝生がまた沙夜のことを悪く言っているような気がして言い返そうとしたが、後ろにいる沙夜が言葉を遮ってきた。
「はっ、はぁ!? し、してねぇーし」
「小学生みたいな反応……。私と宝生くんは、もう別の学校なんだし、私に嫉妬しても意味はないよ? 人気者になりたいならなったら?」
沙夜がそう言うと宝生は、気に触ったのか宝生は、彼女に手を出そうとしていた。
「なっ、そういうところムカつ───!?」
「日向……」
手を出される前に俺は、宝生の腕を掴み、何とか抑えた。
「あなたは沙夜に何がしたいんですか?」
「……べ、別に何も……ただ気に入らないだけで」
「気に入らなかったら傷つけるようなこと言っていいんですか?」
「っ!」
「日向、ありがと……宝生くんと話したいから二人っきりにしてくれる?」
「えっ、でも……」
こんな暴力を振るう宝生と沙夜を二人っきりになんて出来ない。
「大丈夫。話すだけだから」
「……わかった」
そう言って沙夜をこの場に残し、そしてそのまま帰るわけにもいかず俺は、近くで彼女を見守ることにした。
(心配だし、話が終わるまでここにいよう)
────数分後。
沙夜は俺が近くにいたことに気付き、手を振ってこちらへ来た。すっごい満面の笑みで。
「待っててくれたの? ありがとう」
「えっ、大丈夫だったの?」
笑顔の理由がわからなさすぎて凄く心配なんだけど……。
「大丈夫だよ、あっちは大丈夫じゃなさそうだけど。とっても怖かったけど、宝生くんは私の好きなものを侮辱したもの。あれぐらいしないとね」
そう言って彼女は後ろを振り向く。彼女の目線の先には隅で座り込む宝生の姿があった。
(ほんと何があったんだよ……)
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