第30話 スイーツ巡りの提案

 待ち合わせ時間に全員集合し、向かう場所は一駅先にある室内プール。


 男女別れて水着に着替えると旭と一緒に更衣室を出た。


「いや~、なんかこの時間ドキドキするな」


「そ、そうだな……」


 プールという場でこんな気持ちになったことはないが、水着を着る沙夜が来るのにドキドキしながら待つ。


 着替える前に沙夜から「水着、期待してて」と言われ、いろんな水着を着た彼女を想像してしまう。


 5分ほど旭と雑談し、待っていると更衣室から出てきた沙夜がこちらに来た。


 一緒に着替えていたはずの丸山さんと椎名さんはいなかった。


「久保くん、ちょっとだけ日向借りてもいい?」


「どうぞどうぞ。結菜と椎名さんには言っておくから好きなだけ2人でいるといいよ」


 旭は手をヒラヒラと振りながら俺の方を見てニヤニヤとしていた。


「日向、行こっ」


「行こってどこに行くの?」


 行き先のわからないまま沙夜に手を繋がれ、どこかへ連れていかれる。


 スタスタと歩いていくのでこけないか心配しつつ、彼女の後ろ姿を見た。


 長い髪は今日は1つにまとまっておりポニテだ。上にラッシュガードを着ているので水着は見えないが、綺麗な足が見える。


 いつもは黒のタイツを履いているので大丈夫だが、生足は危険だな。


 しばらく歩いていくと沙夜は足を止めて、くるっと後ろを振り返った。


「ここなら人いない。日向、水着見てくれる?」


「えっ、あっ、うん、見たい」


 正直すぎたかと思ったが、彼女は、ニコッと天使のように微笑んだ。


「ならこの上、日向が脱がしてくれる?」


「上を……脱がす……?」


 聞き間違いかと思い、沙夜の言葉をゆっくりと口にする。


「ここを下ろすだけだよ。脱がせてほしいな」


「……わ、わかった」


 沙夜の上目遣いのお願いに断れなかった俺は、ファスナーを下ろすことを決めた。


 プルプルと手を震えながら手を伸ばすと沙夜に手首を掴まれ、そして胸に押し当てられた。


「さ、沙夜!?」


「あっ、ごめん。緊張してるみたいだったからここ触ったら緊張解れるかと思って……」

  

 いやいやいや、緊張が解れるどころかいろいろとヤバい状態になった気がするんだけど。


 心臓はドキドキしててうるさいし、顔も耳も真っ赤になって、体が熱くなったし、ちゃんとファスナーが下ろせる気がしない。


「あ、ありがとう沙夜」


 ここはもう一気にファスナーを下げよう。時間をかけてやっていたら俺の心が持たない。


 ゆっくりとファスナーを下げると沙夜は嬉しそうに微笑み、後は自分で脱ぐと言った。


「日向、どうですか?」


「っ!」


 彼女は俺の目の前でクルッと周り、水着の感想を聞いてきた。


 沙夜の水着は白と黒のビキニだ。彼女にとっても似合っている。


「かっ、可愛い……とっても……」


「! ふふっ、嬉しい……日向が可愛いって言ってくれるような水着を選んだの」


 ふわっと髪が靡き、彼女は、俺にぎゅっと抱きついた。


 声にはしていないが、心の中ではうわぁ~と叫びたくなった。


「うん、可愛いよ。沙夜にとっても似合ってる」


 可愛い彼女の頭を優しく撫でる。周りにはあまり人がいない。だから好きなだけ撫でさせてもらおう。


 沙夜の髪って綺麗でふわふわなんだよな。いつまでも触っていられる。


「日向、頭撫でるの好きなの?」


「うん、好きみたい……」


「ふふっ、たくさん触っていいよ。日向にならどこでも」


 どこでもなんて男に言ったら危ないぞと注意したくなるが、沙夜は俺だけにしか言わないだろう。


「日向の頭も触りたいな」


「俺は沙夜みたいに触り心地よくないけど……」


 そう言うと彼女は、背伸びをして俺の頭を優しく撫でた。


「もふもふ……もう2人でいよ。私達は2人で来た、結菜も明莉ちゃんも久保くんもこのプールには来ていないってことにしたらいいの」

 

「えっ……」


 それはそれでいいかもと思っていると沙夜はクスッと小悪魔のような笑みで笑った。そして、脱いだラッシュガードを着直した。


「じょーだんだよ。そろそろ戻ろ?」


 手をぎゅっと握られたので、俺は、彼女の小さな手を優しく握り返した。


 手を繋いだまま旭のところへ戻ってくると、丸山さんと椎名さんも来ていた。


「あっ、帰ってきた! あらあらあら、隠さないでイチャイチャしちゃってるじゃないの」


 謎のお母さんのような口調をした丸山さんは、ニヤニヤしながらこちらを見てきた。


 沙夜は、丸山さんの言葉に疑問を感じたのか首をかしげた。


「これはイチャイチャなの……?」

「さ、さぁ……」


 少し話した後、丸山さんの提案によりスライダーに行こうということになった。


「2人乗りできるらしいね。河井くんと沙夜は一緒に乗りなよ。私と明莉ちゃんが一緒で。旭は1人で大丈夫そ?」


 丸山さんが、そう聞くと旭の様子がいつもと違うような気がした。


「えっ、あぁ、うん、いいと思う」


 俺だけではなく丸山さんもその違和感に気付いたようで、小さく微笑んだ。


「旭、後で私とも乗ろうね?」


「! あ、あぁ……乗ろう」


(丸山さん相手だと旭の見たことがない表情が見れそうな気がするな)


 旭と丸山さんは片思いっぽいし、上手くいってほしいと思っている。


「沙夜ちゃん、髪サラサラだねぇ~」 


「ふふふ、いいシャンプー使ってるの」


 スライダーに並んでいる間、沙夜は椎名さんと楽しそうに話していた。


 すると、沙夜は何か思い出したのか俺と椎名さんに向けてある提案をした。


「そうだ、明莉ちゃん、日向。この夏休み、一緒にカスタードスイーツ巡りしない? カスタード同好会のみんなで巡りたいの」


「「カスタード同好会?」」


 いつの間にそんなものが作られて加入させられていたんだと俺も椎名さんも思ったのか声を揃える。


「この3人はカスタード好きだから。あっ、カスタード仲間って名前の方が良かった?」


 名前のこだわりは何もないので、俺は、カスタード巡りについて聞くことにした。


「カスタード巡りってカスタードスイーツだけを食べに行くってこと?」


「うん……どうかな?」


「俺はそのカスタード巡り?したいな。椎名さんはどうする?」


「私も仲間に入れてくれるなら是非行きたいな。沙夜ちゃん、いっぱいカスタードスイーツ知ってそうだし」


「じゃあ、決まりね。楽しみ」


 両手を合わせてニコッと微笑む笑顔を見ているとこちらまで笑顔になる。


 沙夜はたまに暗い顔をして何かに悩んでいる時がある。やっぱり、彼女には笑顔がよく似合う。







         

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