第9話 カスタードの匂いがする!

 翌日の休日。集合場所は、学校の最寄り駅にし、集合時間はおやつの時間に合わせて2時半にした。


 女子とこうして休日に会うのは高校生になってからは初めてだ。


 デートではないが、昨夜寝る前に『デートする時の基本』と調べてみた。そしていろいろと調べた結果、1時間前に着くと早すぎた。


 彼女が来るまでスマホでたい焼きを食べたときに教えてもらった古賀さんのオススメのチェスのゲームで時間を潰すことにした。


 初心者のためルールを覚えてからやっていくことに。


 意外に楽しいなと思いながら没頭してやっていると後ろから声がした。


「チェック……」

「うおっ! こっ、古賀さん!!」


 後ろを振り返るとそこには白のカーディガンに黒のロングスカートという私服で来た古賀さんが立っていた。


 この前、家に行った時に彼女の私服を見たが、今日は一段と気合いが入っていてとても可愛かった。


 前に回ってきた彼女は俺のスマホを覗き込み、呟いた。


「チェックは将棋で言うと王手……。私のオススメのゲームやってくれるなんて嬉しいな」


 好きなものは共有したいと言っていた彼女は、オススメしたゲームを俺がやっていることにとても嬉しそうにしていた。


「古賀さんが面白いって言ってたからやってみたけど、楽しいね。ハマったかも」


「でしょでしょ。いつか私と勝負してみよ」


「うん、楽しそう」


 今日初めてでまだルールも覚えきれていないので、まだ誰かとやるのは無理だろう。けど、いつかやってみたい気持ちはある。


 チェスの話を少ししてから古賀さんは、お腹が空いたのか俺の手を引いてきた。


「そろそろ行かない? お腹空いて倒れ……」

「えっ、大丈夫!?」


 ふらっとして古賀さんは、そのまま俺にもたれ掛かってきたので心配になった。


 すぐに熱がないか額に手を当てて確認したが、熱はなさそうでどうやら本当にお腹が空いているだけのようだ。


「シュークリーム……食べ、たい……」


「いっ、行こうか食べに。歩ける?」


 そう聞くと彼女は、俺の腕にぎゅっと抱きついてきた。


「こうしたら歩けるかも……」

「!」


(や、柔らかいものが当たってるんですけど……)


 歩きづらい気もするが、ふらふらしながら彼女が歩いているのを想像してみたが、危なっかしい。彼女がこれで歩けるというのならこれでいいか。


「早く行こ、河井くん」


「う、うん……」


 ここからすぐそこだし、柔らかいものが当たっていることに関しては気にしないようにしよう。


 まるでカップルみたいだなと思いながら彼女と歩き、店に近づくと古賀さんが、俺から離れ、全速力で店の前に走っていった。


(うおっ、速っ!)


「カスタードの匂いがする!」


 店の前から古賀さんは、俺に向かってピョンピョンと可愛らしく跳ねて早く中に入ろうアピールをしていた。


 軽く走って彼女に追いつくと古賀さんは、俺の手を引いて、メニュー表のある看板を見に行く。


 ここはイートインもできるが、今日は、お持ち帰りにして先程の駅前のベンチで食べることにした。


「か、カスタードが2種類も! むむむ、河井くん、これは悩むね……」


 カスタードシュークリームと抹茶カスタードシュークリームがあることに気付いた彼女は、どちらにしようかと悩んでいた。


「河井くんは、どれにするか決まった?」


「俺は、濃厚ショコラシュークリームかな」


「濃厚……それも美味しそう……」


 俺が決めたものを言ったことによりどうやら彼女の選択肢は増えたようだ。


 先に頼み、その後に古賀さんは、注文していた。


「よしっ、決めた……すみません、これとこれで」


(あっ、うん……わかってた)


 彼女がどれにしようかと悩んでいた時点で全て頼むだろうなとは思っていた。


 シュークリームを2つ受け取ると彼女は両手にそれを持ってニコニコと幸せそうな表情でいた。


 駅のベンチまで歩き、座ると古賀さんは、シュークリームをキラキラした目で見ていた。


「いい匂い……早く食べよ」


「そうだね」


 濃厚ショコラシュークリームを1口食べると口の中に甘い香りが広がる。


 美味しいねと隣に座る古賀さんに言おうとしたが、彼女の幸せそうな表情に目を奪われた。


「はむっ……幸せ」


 本当に美味しそうに食べるなぁと思っていると彼女が見られていることに気付き、食べている抹茶カスタードシュークリームをこちらに向けた。


「食べる?」


「いいの?」


「いいよ。あ~ん」


「じゃあ、1口だけ」


 抹茶カスタードシュークリームは少し気になっていたので1口もらい食べた。


「甘くて美味しい。古賀さんもこっち食べる?」


 お礼にと思い、自分が食べている濃厚ショコラを彼女に向けるとコクりと小さく頷いた。


「じゃあ、どうぞ」


「いただきます……はむっ、美味しい……」


 彼女の食べる姿を見て俺はニッコリと微笑む。幸せに食べるのを見てると俺まで幸せになる。


 気付いたら彼女は自分のシュークリームを1つ完食し、カスタードシュークリームを食べ始めた。


「抹茶もいいけど、カスタードオンリーの方が好きかも」


 1口食べてから俺にそう感想を述べた彼女の口元にはクリームがついていた。


「ここにクリームついてるよ」


 ついていることを教えてあげると彼女は人差し指でクリームを取り、それをパクっと食べた。


「んんん、ほんとだ、教えてくれてありがと。早食いしたらまた口元につくかもしれないからゆっくり食べる……」


 そう言って彼女は黙々とカスタードシュークリームを味わって食べていた。


(リスみたいで可愛い……)


 食べ終えると彼女はシュークリームが入っていた袋をまとめながら俺に話しかけてきた。


「この後、予定ある?」


「予定? ううん、ないよ」


「じゃあ、会いに行こうよ、にゃんにゃんに。癒されに行こ」


 猫カフェかなと思いながら俺は彼女に連れられあるところへ着いた。


 そこは『AMAOTO』というカフェで、猫カフェではないようだ。


 猫カフェではないのに猫に会いに行くとはどういうことなのか疑問に思いながらも店内に入る。


 すると、店員さんが古賀さんに気付き、こちらへ来た。


「あら、沙夜ちゃん、1週間振りね。もしかして、隣にいる人は彼氏?」

 

 1週間振りということは古賀さんは、ここによく来ているのだろうか。


「ううん、友達。一緒ににゃんにゃん見に来た」


「沙夜ちゃんのお友達さん。あっ、私は、ここの店の店長の千里ちさとです。沙夜ちゃんとは親戚同士でよくうちで飼ってる猫を見に来てくれるの」


「は、初めまして、古賀さんの友達の河井日向です」


「河井くんね。さっ、どうぞ」


 そう言って千里さんに案内されたのはカフェの奥にある部屋だった。


 その部屋に入ると古賀さんは、目をキラキラさせて猫に飛び付いた。


「にゃんにゃん~、今日もモフモフだぁ~」


(猫と触れ合う古賀さん……これ、凄い癒されるわ)






          

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