第8話 愛が重いこと、それは悪いことではない
「河井くん、私……好き」
「……えっ?」
聞き間違いではないだろう。俺にはハッキリと聞こた。好きだと言う言葉が。
話の流れからして夕食の話はもう終わってた。となるとこの好きはもしかして……というか告白なのでは?
突然の好き発言に驚いていると古賀さんは、顔を赤くして両手で頬を触っていた。
「あ、あれ……私、今……」
どうやら勢いで好きと言ってしまったようで、古賀さんは、口をパクパクさせて俺に何か言わないとと思いながらも何と言えばいいのかわからなくなっていた。
「こ、古賀さん、一旦落ち着───」
「ち、違うの! さっきのは河井くんのことじゃなくて、カスタードがやっぱり好きだなってことでそれで───」
彼女は顔も耳も真っ赤にして俺に抱きついてきて、必死に何かを伝えようとしていた。
いつもゆっくり話す彼女だが、今はとても早口で無意識に告白してしまったことに焦っていた。
「お、落ち着いて、古賀さん。いっ、一旦、座って落ち着こう。話はちゃんと聞くから」
今の状態で話しても彼女は上手く話したいことが話せないだろうと思い、俺は、古賀さんを近くのベンチに座らせた。
彼女の隣に俺もゆっくりと腰掛け、暫くして落ち着いた彼女は口を開いた。
「ご、ごめん……河井くん。取り乱しちゃった……」
「ううん、大丈夫だよ」
あんなに早口で喋る古賀さんは初めて見たから驚いたけど、俺だって焦っていたらあんな風になるだろう。
こちらから話を切り出すべきなのか悩んだが、口を開いた。
「あの、さっきの好きは……」
小さな声で彼女に聞くと、古賀さんは、俺の目を見て話した。
「か、カスタードじゃなくて……河井くんのこと。私、河井くんのことが好き……けど、この好きがどういう好きかまだわからない。お友達としてか異性としてか。だから返事とかそういうのは必要ないよ」
「……うん、わかった」
「覚えていて欲しいのは私が河井くんを好きだってこと……大好きだよ、河井くん」
「! ありがとう。俺も友達として古賀さんのこと好きだよ」
俺も多分、古賀さんと同じだ。恋愛を知らないからこの好きがどういう好きなのかまだわからない。けど、彼女のことは嫌いじゃない。
「好きな人に好きって言われるの嬉しいね……」
「だね……」
目と目が合い、俺と古賀さんは、照れて、顔を赤くし、これ以上見ているのは耐えられないと思い、前を向いた。
暫く、何も話さず、座っていると俺は昨日、考えたことを思い出した。
実は昨夜、古賀さんに『次は河井くんのオススメの場所に連れていって』と言われていたので、自分のオススメの場所を探していた。
「古賀さん、シュークリームは好き?」
「シュークリーム! 凄い好き!」
古賀さんなら好きというと思っていた。シュークリームには彼女の好きなカスタードがある。
「ここから少し歩いたところにシュークリームの店があるんだけど、そこに今度一緒に行かない?」
「行く!」
誘ってから即答した古賀さんは、目をキラキラさそて俺の手を取った。
「もちろんカスタードあるよね?」
「うん、あるよ」
カスタードの話になるとテンションが高くなる古賀さん。カスタードが好きなのがとても伝わってくる。
「なら絶対行く! もしかして、そのシュークリーム屋さんは、河井くんのオススメするところ?」
「うん、そうだよ。小さい頃、お婆ちゃんに連れていってもらった思い出のある場所」
「それは楽しみ。明日は……明日は学校がお休みだから行くなら来週……?」
始業式からのこの1週間はとても早かった気がする。古賀さんと出会い、一緒にクレープを食べて、そして今日は、たい焼きを食べた。振り返ってみるとかなり充実していた。
来週また放課後に食べに行くこともできる。けれど、彼女さえ予定が空いていれば、休みの日でもいいのではないかと思った。
「放課後じゃなくて、明日、行く?」
「明日、いいね。となると休日デート……なんちゃって。デートはお付き合いしてる2人がすることだもんね?」
(本日の可愛い発言は、なんちゃってだな)
デートとは何か古賀さんが聞いてくるが、俺にもわからない。お付き合い経験があれば答えられるんだろうけど。
「ちょっと調べてみる……ふむふむなるほど」
彼女はどうやらスマホでデートの定義を調べたようで理解したのかコクコクと頷いていた。
そして知らない俺にも彼女は教えてくれるようでスマホの画面をこちらに向けた。
「恋愛的な展開を期待していて、日時や場所を決めて会うことだって……」
「なるほど」
「恋愛的な展開って何だろう……この後、告白されるかもとかそういうことかな? むむむっ、難しい……」
告白される……か。今さっきのはあれは告白なのかな? それなら今のこの状況が恋愛的な展開だと言える気がする。
「古賀さん、可愛いから誰かと付き合ったりしてるのかと思ってた」
「か、かわっ……。私、告白はされても恋愛がよくわからないから断ってきた……」
顔を赤くしてうつむきながら彼女は、ゆっくりと話した。
「後は、私が好きなものに対して多分他の人より愛が重いからかな……。お試し付き合いとかしてもしその人を本当に好きになったら多分、私は相手を困らせちゃう」
例えば彼女の好きなカスタードは、どれだけ好きでも人ではないので重いとかそんなことを言われることはない。
けれど、人の場合、愛が重すぎると思う人はいるだろう。好かれていても重すぎると引いてしまう人が。
「俺は、愛が重い人でも好きだよ。愛が重いってことはそれだけそれを好きでいるってことだと思う。俺は周りが見えなくなるくらいに好きなものがあるのは素敵だと思うよ」
「素敵……じゃあ、河井くんのこと異性として好きになってもいい?」
好きになったとして俺がそれを迷惑だと思うのか気になったのか彼女はそんなことを聞く。
「……うん、いいよ」
好きになってもいいよと言うのは何だか恥ずかしい。
彼女が何を好きになるかは俺が決めることではないのでそう答えると古賀さんが俺の胸に頭をグリグリと押し付けてきた。
「河井くん、ラブ。大好きだよ」
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