第7話 私……好き

 古賀さんの作った夕食美味しかったなと思いながら家に帰って来るとキッチンからお母さんが顔を出した。


 帰りが遅くなると言っていたが、どうやら早く終わって帰ってきたようだ。


「お帰り、日向。夕食作るけどもしかして何か買ってきた?」


「ただいま。友達の家で食べてきた」


「友達?」


 お母さんはたまに舞桜の家で食べに行ってるのは知っている。もしそうなら俺は『舞桜の家で』と言うだろう。しかし、今日は『友達の家で』と言ったので誰だろうかと気になっていた。


「うん、友達。古賀さんって言うんだけど、最近仲良くなった」


 友達と言っていいのかわからないが、仲良くなったのは嘘ではないだろう。


 ソファの近くにカバンを置いてから手洗いをしに洗面所に行くと母さんがキッチンから物凄い速さでやって来た。


「も、もしかして、女の子!?」


「うん、女の子だよ」


「お、女の子……夕食、ご馳走になったの?」


「う、うん……古賀さんが作りたいって……」


「そうなのね。日向、その古賀さんを今度家に連れてきなさい!」


「えっ、なんで?」


 どういう流れから彼女の家に呼ばなければならなくなったのかわからず俺は困惑した。


「そりゃ、会いたいからよ。家庭的な女子は早めに家族とも仲良くなっておかないと逃げられちゃうかもしれないじゃない」


 もうお母さんが何を言っているのかわからない。早めに仲良くなってとか、逃げられるとか意味わからん。


「家に呼ぶのはいつでもオッケーよ。なんなら一緒に夕食もいいわね」


(一緒に……)


 寂しくなかったと言った時の彼女の笑顔を思い出し、俺は頷いた。


「うん、誘ってみるよ」




***




 翌日。いつもの時間の電車に乗るとそこには、古賀さんがいた。  


 彼女はいつも俺より先に学校に着いているので乗る電車が違う。


(今日は、いつも乗るやつに乗り遅れたのかな?)


 彼女もこちらに気付き、手を振って俺の方に移動してきた。


「おはよ、河井くん。だね」


「おはよ、古賀さん。電車乗り遅れたの?」


「うん、そう……いつも起きてる時間に起きれなくて……。朝からバタバタして最悪かと思ったけど、河井くんと会えたから今日はいい日かも」

 

 彼女が言うように確かに古賀さんと同じ電車に乗れて朝からいいことがあったような気がした。


「河井くんは、いつも一人で行ってるの?」

 

「うん、そうだね」


 近くに住んでいる旭だが、一緒に行くことはあまりない。たまに一緒に行くが、旭は遅刻ギリギリの電車に乗るため別々に登校している。


「古賀さんは丸山さんとは行ってないの?」


 彼女が誰と仲がいいかとか、誰と一緒に学校に来ているかは知らないので聞いてみることに。


「私は一人だよ。結菜とは乗る駅が違うから。たまに駅でバッタリあったら行くけど……河井くんさえ良ければ、一緒に学校行かない?」


 電車で偶然出会って駅に着いたら別々に行くというのも少しあれだ。それに一人より彼女とお喋りしながらの登校の方が楽しいだろう。


「いいよ、一緒に行こ」


 そう返答すると古賀さんの表情がパッと明るくなった。


 朝から元気が出るような天使の笑顔、ありがとうございます。

 

 電車から降りると人が多くいるホームを通過し、そして改札を通った。


 人が多い駅から解放されると古賀さんは、うんと背伸びをしていた。


「朝、人多いよね……疲れちゃう」


「朝はいろんな人が乗ってるからね」


 彼女の発言に俺はもしかして今朝、いつも机に突っ伏しているのは電車の人の多さに疲れたからではないかと思った。


 そして学校へ着くといつも通り古賀さんは、机に突っ伏していた。


 目は閉じてるが、寝てる感じはしないし、古賀さんの友達はまだいない。


(今、誘ってみようかな……)


 後になるほど後でいいやとなりそうなので、勇気を出して夕食のことを誘ってみることにした。


「古賀さん、起きてる?」


 彼女に声をかけると古賀さんは、ゆっくりと顔を上げた。


「起きてるよ……どうかしたの?」


「今日の夕食なんだけど、俺の家に食べに来ない? お母さんに古賀さんのこと言ったら是非来て欲しいって言ってて……」


「河井くんのお母様が……行って迷惑じゃないのなら食べに行きたい」 





***





「はい、あ~む」

「ん~うんまぁ~」


(古賀さんが餌付けされてる……)

 

 学校帰り、家に帰らずそのまま古賀さんは、俺の家を来た。


 メッセージで今から古賀さんを連れていくと今日仕事が休みの母さんに伝えると喜んでいるクマのスタンプが送られてきた。


 家に着くと母さんはとても古賀さんを歓迎しており、そして今に至る。


 彼女がカスタード好きだと知った途端、家にあったカスタードワッフルを持ってきて食べさせていた。


 最初、断り続けていた古賀さんだが、母さんがカスタードワッフルの良さを語りだし、それを聞いた彼女は誘惑に負けてしまった。


「母さん、夕食前なんだから今たくさん食べさせたら古賀さんが食べれなくなるよ」


「あら確かにそうね。古賀さん、良ければ残りの分家に持って帰って」


「あ、ありがとうございます……」


 まだ食べられる喜びに、顔がふにゃ~となった古賀さん。どうやらカスタードワッフルを気に入ったらしい。


 夕食の準備をすると行って母さんがキッチンへ向かうと古賀さんも手伝いますと行って、彼女も行ってしまった。


 取り残された俺もキッチンへ行ったらおそらく邪魔になるので、リビングで大人しく待つことにした。


 暫くすると古賀さんが夕食をテーブルに運んでいたので俺も手伝うことに。


 俺と古賀さんが横同士に座り、目の前にはお母さんが座った。


 今日の夕食は生姜焼で古賀さんは、食べた瞬間、とても幸せそうな表情をした。


「お母様、美味しいです」


「あら、お母様だなんて、香織かおりでいいわよ、古賀さん」


「では、香織さん。生姜焼、とても美味しいです」


「それは良かったわ」


 いつの間にかお母さんと古賀さんが仲良くなっていた。おそらく一緒に夕食を作った時に話したりしたからだろう。


 古賀さんが幸せそうに食べる表情やお母さんと俺との食事を楽しんでいる姿を見ると誘って良かったなと思えた。





***





 夕食を食べ終えると外ももう暗かったので俺が駅まで送ることにした。


「やっぱり誰かと食べる食事は一人より倍美味しくなるね」


 暗くてよく顔が見えないが、声のトーンから嬉しそうなのはわかった。


「私、夕食はいつも基本一人で、誰かと食べることってあまりなかったの……」


 両親は共働きでご飯はいつもお手伝いさんに作ってもらいそれを一人で古賀さんは食べていたらしい。


 俺の家での当たり前が彼女にとっては当たり前ではなく憧れ。


「今日はありがとう」


 駅前に着き、明るいところに立ったので彼女の笑う表情がハッキリと見えた。


 綺麗なブロンドが風で靡き、明るい場所で立つ彼女はとても綺麗だった。そんな彼女に見とれていると古賀さんが俺のことを真っ直ぐと見てきた。


「河井くん、私……好き」



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