第10話 や、離れない
古賀さんが猫を撫でてモフモフしているところに癒されていると彼女は、猫を俺の膝に乗せた。
「にゃんにゃん、モフモフしてみて」
彼女そう言って小さく微笑んだ。膝に乗せられた猫を優しく撫でてみると毛がふわふわしていて触りだしたら止まらなくなった。
「この子の名前は?」
「名前? にゃんにゃんだよ」
「えっ、それ名前だったんだ」
てっきり古賀さんが可愛らしく猫のことをにゃんにゃんと呼んでいるのかと思っていた。
「さっき千里さんが言ってたけど、古賀さんは、こうしてよく猫を触りに来るの?」
猫を撫でながら彼女に尋ねると古賀さんは、コクりと頷いた。
「うん……癒しは必要だから……。河井くんも会いに来たくなったら言ってね。その時は私も行くから……」
「うん、わかった……あっ、返すね」
先程から彼女が、こちらをうるっとした目で見てくるので、どうしたんだろうと思っていた。
おそらく私ももっと撫でたいと思っているのだろうと思い、猫を古賀さんの膝に乗せた。
すると、どうやらその予想は当たっていたようで彼女は幸せそうな表情をして猫を撫でていた。
暫く2人で猫と遊んでいると千里さんが、紅茶とケーキを持ってきてくれた。
「沙夜ちゃん、河井くん、お茶とケーキあるけど食べる?」
用意してもらって食べませんとは断りにくいので、俺と古賀さんは、顔を見合わせてから同じタイミングで頷いた。
「食べる……河井くんも食べるって」
「じゃあ、テーブルに置いておくわね。紅茶とショートケーキよ」
「ありがと、千里さん」
「ありがとうございます、千里さん」
センターテーブルに置いていくと千里さんは仕事に戻っていき、ドアを閉めていった。
「食べよっか、河井くん」
「うん」
「にゃんにゃん、食べるからちょっとあっちに移動しようね」
古賀さんは、猫を隣の部屋に移動させるため一度この部屋から出て、数分後に戻ってきた。
「お待たせ。食べよっか」
そう言って彼女は、テーブルの前に座り、フォークを持って、ケーキを食べ始める。
続いて俺もケーキを1口食べる。すると、口の中にはイチゴの甘さとクリームの甘さが広がった。
シュークリームを食べた後だったが、お昼はあまり食べていなかったので、食べることができた。
古賀さんもシュークリーム、それも俺より1つ多くシュークリーム食べたが、まだ食べられるのだろうか。
(いや、普通に食べてる……)
目の前に座る彼女を見ると古賀さんは、幸せそうに食べていた。
「古賀さんって結構食べれる方?」
「んーそうかも。甘いものはいくらでもいける。けど、最近、困り事が……」
「困り事?」
古賀さんが下を向いたので、何だろうかと気になったが、恥ずかしいらしく教えてはくれなかった。
あっという間に完食した彼女の後に俺も食べ終えて、紅茶を飲んでいると古賀さんが、「あっ」と声を漏らした。
「河井くん、私ね、あれから友達としての好きと異性としての好きの違いを考えてたの……」
そう言って彼女は、目の前から俺の隣に移動してきて顔を近づけてきた。
「へぇ……って、古賀さん、近くない?」
近さに驚くが、彼女は、四つん這いになって、グイグイと距離を詰めてきた。
「ドキドキしたり、この人と特別な関係になりたいと思ったり、この人を独占したいって思うのが恋愛として好きってことらしいの……」
「ど、独占……」
「河井くんは、今……はうっ」
バランスを崩した彼女はそのまま俺の方へ倒れ混んできた。
「だ、大丈夫?」
「恥ずかしい……」
彼女は顔も耳も真っ赤になったので、見られたくないのか隠すために俺に抱きついてきた。
「……み、見てないよー」
「むむむ、それは無理がある……顔真っ赤だと思うからしばらくこのままでもいい?」
「……す、少しだけならいいよ」
「ありがと……」
こんなに近いと心臓の音が伝わってしまうんじゃないかと思う。
(伝わってたら凄い恥ずい……)
少しだけいいよと言ったが、少しとはどれくらいなんだろうかと自分で思っているとコンコンのノックされ、ドアが開いた。
「食べ終わっ……あっ、えっと、お邪魔しちゃった?」
ドアを開けて、俺と古賀さんを見た千里さんが、すうっーとドアを閉めようとするので俺は慌てて誤解を解く。
「千里さん! 誤解です!」
「誤解?」
誤解を解こうとするが、古賀さんが、俺から全く離れない。
「こっ、古賀さん、付き合ってるって千里さんに誤解されるから離れ───」
「や、離れない……」
(やっ、って言われましても……)
「沙夜ちゃんに好かれてるんだね、河井くんは。あっ、そうだ、2人にいいものをあげよう」
そう言って千里さんが、俺と古賀さんにあるチケットを渡した。
いいものと聞いて古賀さんは、俺から離れて受け取ったチケットを見た。
「これって、スイーツバイキングのチケットですか?」
「そうよ。今、カスタードフェアをやっ───」
「カスタード!! 行く!!」
千里さんがカスタードと口にした瞬間、言葉を遮り、凄い勢いで古賀さんは立ち上がった。
カスタードのことになるとやはり目がキラキラしている。可愛いしかない。
「本当にいいんですか? こんな凄そうなチケット……」
「いいのよ、私は甘いの苦手だし、二人に行ってほしいわ」
「行こっ、河井くん!」
キラキラした目で古賀さんは俺を見てきた。もう頭の中はカスタードのことでいっぱいだろう。
「うん、俺で良ければ」
「やったっ、千里さん、ありがと。河井くん、いつ行く?」
スイーツバイキングは毎日やっているが、このカスタードフェアは来週の日曜まで。
「来週の土曜日はどう?」
「うん、いいよ。また来週も河井くんと一緒にいられる……」
ポッと顔を赤くした古賀さんにつられて俺まで顔が赤くなってしまった。
「あっ、沙夜ちゃん。普通にチケット渡しちゃったけど、ダイエ────」
「ち、千里さん、そろそろ仕事に戻らないと」
古賀さんは、千里さんの言葉を遮り、背中を押して部屋から出そうとしていた。
「千里さん、恥ずかしいから河井くんの前では言わないで」
「あっ、ごめんごめん」
何やらコソコソ話しているが、俺には聞こえず、千里さんは仕事に戻っていった。
ドアを閉めると古賀さんは、顔を真っ赤にさせて俺のところに静かに来て、服の袖をぎゅっと握ってきた。
「さっきの千里さんの話、聞いてないよね?」
「う、うん……ダイエまでは聞こえたんだけど、何の話をしてたの?」
俺に言えないことかもしれないが、気になっていたので試しに聞いてみる。だが、彼女は、人差し指を口元に当てた。
「秘密……。来週、楽しみだね」
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