第5話 付き合って欲しいところ

 放課後になり、一緒に帰る約束をしていた古賀さんに話しかけようとしたが、彼女は、いつも通り机に突っ伏して寝ていた。


(寝不足かな?)


 起こすのも悪い気がしたがいつ起きるかもわからないので彼女の名前を呼んでみた。


「古賀さん」


「ん……?」


 凄い勢いで顔を上げて、古賀さんは、さっきまで寝てませんでしたよ感を出していた。


 まぁ、そんな雰囲気を纏っていても話し方がゆったりしすぎてまだ半分寝かけてる感じがするけど。


「まだ寝る? 寝るなら一緒に残るけど……」


 この後、予定があるわけではないので彼女が寝るのに付き合おうかなと考えていた。


「ううん、寝ない……河井くんと行きたいところあるから。帰ろっか」


 そう言って古賀さんはゆっくりと椅子から立ち上がり、カバンを持った。


 教室に残っていた男子が何人かこちらを見ていた気がしたが、俺は目を閉じて気のせい気のせいと心の中で呟いた。


 彼女の隣に俺がいていいのかとか、いたらああいう視線が来るのはわかっているが、いちいち気にしていたら古賀さんとはいられない。


 一緒に帰りたいと思ったんだ。今は彼女と過ごすこの放課後の時間を楽しもう。


 学校を出て俺は彼女に連れられ、駅の近くにある商店街に来ていた。


 この商店街には昔ながらのお店から新しいお店までありとても栄えている。


 俺はここの地元ではないので一度しか来たことがない。なぜ一度しか来ていないかという理由は特にないが、学校帰りは近くを通りかかるだけでそのまま駅に向っているからだ。


 商店街を暫く歩いているとどこからかいい匂いがしてきた。


 学校終わりで少しお腹が空いていたので、この匂いは何かと気になってしまった。


 キョロキョロと周りを見渡していると古賀さんがクイクイと俺の服の袖をぎゅっと握って引っ張ってきた。


「河井くん、本日の寄り道はここです!」


「ここ……たい焼き専門店?」

 

 彼女にお店を紹介してもらい、持ち帰りも出来たが、店内に入って食べることにした。いい匂いの正体はどうやらたい焼きだったらしい。


 店内はオシャレなカフェみたいな感じで落ち着いた静かな場所だった。


「こんなお店が商店街にあったんだね。知らなかったよ」


 おそらく古賀さんが連れてきてくれなかったら知らないままだっただろう。たい焼きは好きなのでこういう店があると知れてとても嬉しい。


「ふふっ、河井くんにカスタードの良さをもっと知って欲しくて……」


 そう言って笑った古賀さんはメニュー表を見て、この前のクレープの時のように悩み始めた。

  

 たい焼きは何種類かあり、カスタードが入っているやつでも3種類あった。


「カスタード、キャラメルカスタード、イチゴカスタード……迷っちゃう……」


 彼女が迷ってる中、自分もメニュー表を見て、どれにしようかと悩む。


 古賀さんがカスタードの良さをもっと知って欲しいと言っていたのでいろんな種類があるが、カスタードが入っている3種類の中にから選ぶことにした。


「キャラメルカスタードにしようかな。古賀さん、決まった?」


「むむむ……うん、決まったよ」


 長い時間悩んでいたが、何にするか決めたらしく、彼女は、手をピシッと綺麗に挙げた。


 すると、すぐに店員さんが来てくれた。何も言っていないのに気付くとは凄いな……。


「ご注文は?」


「俺はキャラメルカスタードで」


 古賀さんは先にいいよと言ってくれたので、メニュー表を見ながら俺は注文した。そして次に古賀さんが注文する。


「私は……ここの3つ全部で」


(えっ!?)


 まさかのキャラメルが入ったたい焼き3種類を全て頼むので俺は驚いた。


 注文し終えると、古賀さんが、どや顔でこちらを見てきた。


(なぜどや顔……)


「他のやつ食べたかったらあ~んしてあげるね」


「う、うん……」


 注文したものが来るまで俺と古賀さんは、お互いの好きなことを話していた。


 カスタードが好きなこと、チェスが好きなこと、読書が好きなこと。知らなかったことを知ることができた。


「お待たせしました」


「カスタード!」


 注文したものが来ると古賀さんの目はキラキラしていて、あの眠たそうに机に突っ伏す彼女の目はパッチリと覚めていた。


(ギャップが凄すぎて可愛すぎる……)


 好きなものが目の前にあるときのキラキラした目をする彼女を見て俺が小さく笑うと古賀さんが顔を赤くした。


「はしゃぎすぎたかもしれない。ごめん……」


「気にしなくていいよ。古賀さんは、カスタードが本当に好きなんだね」


「うん、好き」


「っ!」


 好きと言った彼女は、俺のことを真っ直ぐと見つめてきたので、ドキッとしてしまった。


(俺ではなくカスタード、俺ではなくカスタードだ)


「さっそく食べよ?」


「そ、そうだね……」


 古賀さんはたい焼きをはむっと食べた瞬間、幸せそうな表情をするので、俺はそれに見とれてしまった。


「古賀さんって美味しそうに食べるよね」


「そう……かな? けど、好きなものを食べてるときは幸せだからそんな顔してるかも」


 彼女が食べているのを見ていると俺も食べようと思い、自分で頼んだものを食べることにした。


(んっ、甘くていい!)


 カスタードとキャラメルがとても合うことを今日、初めて知った。


「美味しー?」


「うん、甘くて美味しいよ。ありがとう、古賀さん。連れてきてくれて」


「どういたしまして……今度は河井くんのオススメ場所に私を連れていってほしいな」


 好きなものは共有したいという言葉を思い出し、俺はコクりと頷いた。


 そうだ、今度は俺が古賀さんに好きなものを知って欲しい。


「考えておくよ。またこうして放課後に食べに行こっか」


「うん、いこいこ」


 嬉しそうに笑う古賀さんの笑顔は本当に天使だ。女子と話すことは今まであったが、彼女と話しているとドキドキする。


(それにしても……)


「こっちも美味しいし、こっちもいける……やっぱり3つ頼んで正解かも……」


 あっという間に3種類のたい焼きを食べた古賀さんに俺は驚いた。


 知らなかった。古賀さんって結構食べる人なんだな。


 彼女のことをじっと見ているとそれに気付いた古賀さんはニコッと微笑み、話しかけてきた。


「ねっ、河井くん。今日の夕食は、どうするの?」


「夕食?」


 なぜ夕食はどうするのかが気になるのか不思議に思ったが、俺は答えた。


「夕食は、家で自分で作って食べようかな……と。両親は、帰りが遅いから」


 今日は舞桜と食べる約束はしていないので、家で一人で食べることになるだろう。そう思っていると彼女が口を開いた。


「なら、私の家に来て、一緒に食べない?」








     

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