第4話 私の料理の虜

 遅れて教室に着くと古賀さんは、机に突っ伏していた。


 だが、俺が来たことに気付き、顔を上げて、机の横にかけていた紙袋を取って俺に渡した。


「これは?」


「この前のお礼。家まで送ってくれて看病してくれてありがとう。これいらない?」


「お礼なんていいのに……けど、ありがとう」


 何が入っているかわからないが、彼女から紙袋を受け取り、中を見てみると可愛くラッピングされたクッキーとお菓子がたくさん入っていた。


「それ、カスタードクッキー。手作りだよ」


「カスタード」


 カスタードクッキーなんて食べたことがないのでどんな味か非常に気になる。


「帰ったら食べるね」


「うん……食べたら感想聞かせて?」


 お礼の品を渡して、やるべきことはやったみたいな表情をして古賀さんは、また机に突っ伏そうとしていたが、誰かがこちらに来たのでムスッと頬を膨らませた。


「日向、おはよ」


「あっ、おはよ、舞桜」


「古賀さんもおはよ」


「……おはよ」


 舞桜のことが嫌いというわけでは無さそうだが、古賀さんは彼女を敵対視しているように見えた。


「もう大丈夫なの? 新学期早々、休んでたけど」


 古賀さんが休んでいたことに舞桜も心配していたようで彼女に聞いた。


「大丈夫……河井くんに看病してもらったから」


「えっ?」


 看病したといっても家に送った後、熱さまシート貼ったり、食べられそうなものや飲み物を近くに置いたりしただけだ。これは看病したといってもいいものなのか。


「看病って、弱ってる古賀さんにあんなことやこんなことしたの!?」


 舞桜は変なことを想像したのか俺は良くわからないが、頭を横に振った。


 てか、あんなことやこんなことって何だろうか。


 俺が彼女にしたことを言おうとしたが、それよりも先に古賀さんに口を開いて誤解を与えそうなことを言い出した。


「ふふっ、してもらったよ。あーんなことやこーんなこと。ふふっ」


「なっ! 初対面なのよね!? ダメよそんなの!」


 古賀さん、俺と一緒であんなことやこんなことが何かわかってないけど、舞桜をからかってるな。小悪魔な顔してるし。


「舞桜、俺は、古賀さんを家まで送っただけだから」


「えっ、そうなの? それならそうと言ってよ」


 舞桜が古賀さんに向けてそう言うと彼女は、ニコッと笑った。


「大原さんは、何を想像したの?」

 

「なっ、何も想像してない!」


 そう言って舞桜は顔を赤くしたのだった。





***




 高校2年生になり数日経った。クラスではグループが作られ、お昼になるとそのメンバーで食べている。


 女子はグループで固まって食べるが、男子は日によって食べるメンバーが変わっている人もいる。


 俺は、親しい男子友達は、久保旭くぼあさひと2人で食べている。


 旭とは中学から仲が良く、同じ部活に入っていた。


 今日も2人で食べるつもりでいたが、古賀さんが

丸山さんを連れてお弁当を持ってこっちに来た。


「河井くん、一緒に食べよ?」


「えっと、俺は構わないけど……」


 俺は構わないが、旭もいるので、一緒にいいか確認をしようとすると旭と丸山さんが「あっ」と声を漏らした。


「旭!」

「結菜じゃん!」


「いや~何か見たことあるなって思ってたけど、久しぶり」

「幼稚園一緒だったから10年振りだな」


 どうやら旭と丸山さんは幼稚園が一緒だったらしく久しぶりに互いに顔を会わせると思い出していた。


 旭に聞くまでもなく丸山さんが、イスをこちらに持ってきて近くに座るのでその流れで古賀さんもイスを持ってきた。


「お邪魔します、河井くん。結菜と久保くんが知り合いとは驚きだね……」


「うん、知らなかったよ」


 俺達が会話している中、旭と丸山さんは久しぶりだからかたくさん話すことがあるようで楽しそうにお喋りしていた。


 お弁当をカバンから取り出し、蓋を開けていると古賀さんが先程より近くに来ている気がした。


「ね、河井くん……今日も一緒に帰らない?」


「いいよ」


 彼女と一緒に寄り道したあの日はとても楽しかった。今日は寄り道するのかわからないが、彼女と一緒に帰りたかったので即答する。


 すると、古賀さんは、音を鳴らさずに両手を合わせて嬉しそうな表情をした。

 

「やった。ちょっと付き合って欲しいところがあるの」


「付き合って欲しいところ?」


 彼女にそう尋ねて、手を合わせてから箸で掴み、卵焼きを口の中に入れる。


 すると古賀さんはキラキラした目で俺のお弁当を見ていた。


(餌が欲しいアピールをしてくる小動物みたい)


「いる?」


 卵焼きを箸で掴み、彼女の方へ向けるとコクコクと頷いていた。


 食べたそうにする彼女のお弁当箱に入れてあげようとしたが、俺はあることに気付き箸を止めた。


 なぜ箸を止めたのかというと目の前にいる古賀さんが、口を小さく開けて待っていたからだ。


(これはあ~んというやつだろうか……)


 俺は旭と丸山さんがこちらを見ていないことを確認してから彼女に1口で食べれるサイズの卵焼き食べさせてあげた。


 あ~んした後、心拍数が上がりずっとドキドキしていた。


(食べさせるのってこんなにもドキドキするんだな……)


「美味しかった……。河井くんも何かいる?」


「えっ、いいの?」


 そう聞くと古賀さんが首を縦に振ってニコニコと笑顔でお弁当箱に見せてくれた。


「じゃあ、卵焼きをもらおうかな」


 断ろうともしたが、古賀さんがもらって欲しそうな顔をしていたので同じく卵焼きを選んだ。


「わかった……ん、どうぞ……」


 そうなるだろうとは予測していた。古賀さんは俺がしたように卵焼きを摘まんだお箸をこちらに向けていた。


「あ、ありがとう……」


 先程と同じように周りを気にしてから、俺は口を開け、卵焼きを食べさせてもらった。


(んっ、美味しい……味付けが俺とは違う)


「美味しいよ」


「ふふっ、それは良かった……これで、河井くんは私の料理の虜……」


「ん?」


「ん……?」


 聞き間違いな気がして、「ん?」となってるとそれに古賀さんが真似してきた。


(ん~聞き間違いか……)






***





 昼食を食べた後、クッキーを食べたので手を洗いに私一人で洗面所へ向かった。


(ふふっ、今日も河井くんカッコいい……)

 

 話せたことの嬉しさが顔に出てニマニマしそうだったので頬を触って何とか抑える。


(それにしても邪魔だったな……せっかく二人きりだったのに……)


 今朝のことを思い出しながら濡れた手をハンカチで拭く。


 彼女は河井くんのことが好きみたいだけど、河井くんは何とも思ってなさそう。だから私にもチャンスはある。


 手洗いをしながらふと私は、夕食を一緒に食べていると彼女が言っていたことを思い出した。


(そっか……羨ましいと思うならその時間を私も作ればいいんだ……)


 明日、彼を誘うことを決意し、私はうっすらと微笑んだ。


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