第3話 美味しいものは共有したい

 クレープを持ち帰りにして公園に移動してベンチに座って食べることにした。


 俺が頼んだのはチョコ&ホイップで、古賀さんが頼んだのはイチゴキャラメル&カスタードだ。


「はむっ……むむむ!」


 クレープを食べた瞬間、彼女は、口の中がパンパンでリスみたいになっている状態でこちらを見て、何かを訴えてきていた。


 クレープを持っていない手でパタパタと何かしているが、俺に何を伝えたいのかわからない。


(美味しいって伝えたいのかな……?)


 結局、わからずにいると口の中になくなったのか古賀さんは、俺に味の感想を教えてくれた。


「カスタード、甘くていい! 美味しいよ、河井くん!」


 そう言った彼女を見ていると机に突っ伏しているときの古賀さんと今目の前にいる古賀さんは、同一人物かと疑ってしまった。


 甘いものが好きなのか知らないが、食べたときのテンションが、学校の時の彼女からは想像できない。


「良かったね。カスタード好きなの?」


「うん、好きっ」


「!」


 カスタードを好きか聞いているのだからもちろん、今の好きはカスタードのことだ。


 決して俺のことじゃないとわかっているが、天使のようなスマイルで好きと俺が好きと言われているような気がした。


「たい焼きで、あんこ、カスタード、どっちかってなったら迷わずカスタードを選ぶぐらい好き」


「そうなんだ」


 彼女の笑顔からカスタードが好きということはよくわかる。


 頼んだチョコ&ホイップを食べていると古賀さんが、キラキラした目でこちらを見ていた。


(もしかして……欲しいのかな?)


「食べる?」


「いいのっ!?」


「うん、いいよ」


 クレープを彼女に渡そうとしたが、古賀さんは、小声でいただきますと言ってからパクっとチョコ&ホイップを食べた。


 幸せそうに食べ、クリームが口元についていて、可愛らしい。


「うまうま……河井くんのチョコ&ホイップ、美味しい」


「それは良かった。口にクリームついてるよ」


「えっ、どこどこ?」


 古賀さんは、俺に近づき、舌でクリームを取ろうとするが、届かず苦戦していた。


「ここだよ」


 人差し指でクリームを取ってあげると古賀さんの顔が真っ赤になった。


「あ、ありがと……ティッシュ使って」


 スカートのポケットから出したティッシュを古賀さんは俺に渡した。


「ありがと」


 口元についていたクリームを取り、それを食べるわけにはいかないのでティッシュを1枚かりて指についたクリームをティッシュで取った。


 すると、古賀さんが自分のイチゴキャラメル&カスタードを俺の方に差し出した。


「お返しどうぞ」


「もらっていいの?」


「うん……美味しいものは共有したいから」


 美味しいものを共有したい気持ちは俺にも共感できる。好きなものを好きと言ってくれる人が増えるのは嬉しいからな。


「じゃあ、1口もらおうかな」


「ん、食べて……」


 彼女から1口イチゴキャラメル&カスタードクレープをもらった。


「甘くて美味しい」


「でしょでしょ」


 テンションの高い古賀さんが、俺にグイッと顔を近づけてきた。ふわっと髪が靡いた時、甘い香りが彼女からした。


「これで河井くんもカスタード仲間……。ん、ごちそうさまでした、とっても満足……」


「食べるのはやっ!」


 俺はまだ半分ほどしか食べていないのに彼女はもう食べ終えていた。


 彼女を待たせるのも悪いので食べるペースをあげ、食べ終えると古賀さんが膝にポスッと寝転がってきた。


「古賀さん?」


 食べて眠たくなったのだろうかと思ったが、今朝のことと寄り道する前のことを思い出し、彼女のことが心配になった。


「ちょっと触るよ……」


 一応、言ってから俺は古賀さんの額に手を当てた。


(熱い……やっぱり熱があるんだな)


「冷たくて気持ちいい……」


「熱あるから早く帰った方がいいよ。しんどいなら家まで送るけど帰れそう?」


「……うん、帰れる……私、熱あったんだ、気付かなかった……ぼっーとするなとは思ってたけど」


(気付かなかったんだ……)


 古賀さんは、熱が上がってきたのかふらふらと起き上がり、ベンチから立ち上がった。


 1人で帰れると彼女は言っていたが、見ていて危なっかしい。


「じゃあ、河井くん今日はありが……」

「いや、危ない! 1人で帰らせたら危ないわ!」


 ふらりと倒れそうになっていたので、俺は慌てて彼女の体を支えた。


「家まで送るよ」


「ありがと……お願いします」


 彼女は俺の腕にぎゅっと抱きつき、もたれ掛かってきた。


 彼女の家を俺は当然知らないので場所は教えてもらいながら古賀さんを背負って家まで届けることにした。


 電車に乗るときはさすがに背中から下ろしたが、歩いているときは背負っていた。


 古賀さんは一人暮らしをしているらしく家には誰もいないそうだ。しんどそうで動けない感じがしたので彼女から鍵をかりて家の中まで届けることになった。


「お邪魔します」


「どうぞ……ベッドそっち」


「わかった」


 指を指した方向にある部屋に入ると彼女を背中から降ろしてベッドに寝かせた。


「コンビニで必要なもの買ってくるから休んで待ってて」


「ん……」


 布団をかけてあげた後、俺は急いで近くのコンビニで熱さまシート、スポーツドリンクと熱が出た時に必要なものを買いに行った。


 帰ってくると古賀さんは寝ていて、俺は熱さまシートを貼ったり、食べれそうなものを置いた。


 帰り際、彼女は起きたので声をかけておいた。


「お大事に。鍵かけてね」


「ありがと、河井くん……」




***





 彼女は始業式のあった日から2日間ほど学校を休んでいた。連絡先の交換をしていないので心配でも連絡を取れない。


 友達の丸山さんやクラスメイトも彼女が休んでいることに心配していた。


(今日は来るかな……)


 一緒に行く友達が今日は先に行ってしまったので1人で登校し、学校に着くと門の前で古賀さんが誰かを待っていた。


 友達を待っているのだろうと思いながら俺は心配だったので彼女に声をかけに行こうとすると向こうもこちらに気付き、そして抱きついてきた。


「こっ、古賀さん!?」


「会いたかったよ、河井くん……」


「えっと……校門前でこういうのはちょっと」


 近くを通る人から視線を感じ、誤解されると困っていると古賀さんは離れた。


「あっ、ごめん……河井くんに会えたのが嬉しくてつい……。おはよ」


「! うん、おはよ、古賀さん」


 始業式ぶりに見る天使の笑顔にドキッとさせられた。


 彼女の笑顔に見とれていると後ろから何人かの女子が駆け寄ってきた。


「あっ、古賀ちゃん! 大丈夫だった?」

「おはよ、沙夜ちゃん、心配したんだよ~」


「おはようございます。心配してくださりありがとうございます。私は、大丈夫です」


 いつものほわほわした感じのない古賀さんは、クラスメイトと話しながらそのまま校舎へと入っていった。








   

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