第32話 ダメ……キスしたら我慢できなくなる
心配だ。沙夜と別れて、家に帰ってきてから俺は、ずっと彼女のことが心配だった。
『ううん、1人で大丈夫』と彼女は言ったが、大丈夫には見えなかった。前に見た作られたような笑顔をしてたし。
今日は夕食を一緒に食べる約束をしていない。いつもなら今日はどうするかとメッセージで話したりするのだが、彼女からの連絡はなし。
「家に行ってみるか?」
そっとしておく、家に行って話を聞くかの2択で悩んでいると『今からAMAOTOに来れる?』と沙夜からメッセージがあった。
用があると言っていたが、沙夜は、にゃんにゃんに会いに行ったのだろうか。いや、それなら俺に隠さず普通に言うはずだ。
わかったと返信してから外に出れる格好であったのですぐに家を出ることにした。
走ってカフェ『AMAOTO』へ行くと接客をして、キッチンへ向かう千里さんに気付かれた。
「あっ、河井くん。沙夜ちゃんなら奥の部屋にいるよ」
「ありがとうございます」
千里さんに教えてもらい、カフェの奥にある部屋に行き、ドアを開け中に入ると沙夜は猫とベッドに上に寝転がっていた。
(猫と寝てる……可愛すぎる)
カバンからスマホを取り、カシャッと沙夜と猫を撮った。手が勝手に動いたんだ。許可なしに撮るのは悪いが、しょうがない。
来てと言われて来たが、寝てる場合、俺はどうしたらいいんだろう。
そっーと彼女に近寄り優しく頭を撫でると、沙夜の手がピクッとが動いた。
「ん~日向、来てくれてありがと……さっきまで起きてたんだけど、眠気に負けちゃった。ごめん」
「大丈夫だよ。おはよ、沙夜。来てってあったから来たけど何かあった?」
イスが近くにあったのでそこに座ると沙夜はゆっくりと起き上がり、背伸びをした。
「何もないけど、日向に会いたくなった」
「……会いたくなっただけ?」
「……そうだよ、会いたくなっただけ」
変な間があったような気がしたが、無理に彼女から話を聞くのは悪い。ここは話してくれるまで待とう。
「そっか、俺も紗夜に会いたかった。夜ご飯はもう食べた?」
「ううん、これから。今日はこのカフェでハンバーグ食べようかなって」
「へぇ~ここってスイーツ以外にもあるんだ」
『AMAOTO』には何回か来ているが、食べに来たことはないのでどんなメニューがあるか知らない。
「洋食があるよ。日向は、どうする?」
「そうだな……適当に何か買って食べる予定だったけど、俺も沙夜と一緒にここで食べようかな」
今日も両親の帰りが遅いので『AMAOTO』で食べることを決めると沙夜は俺に抱きついた。
「ありがとう、日向」
カフェ『AMAOTO』で俺と沙夜は、ハンバーグ定食を食べた。
その後は、少しにゃんにゃんと遊んでから店を出て駅へ向かうことに。
寂しいのか沙夜は、俺の方へ寄ってきて手をぎゅっと握ってきた。
強く握ったら折れそうで怖い小さな手を俺は優しく握り返し、指を絡めた。
隣をチラリと見ると沙夜と目が合い、微笑み合う。駅に着けば離れなければならない。まだこのまま彼女の側にいたいなと思っていると沙夜は口を開いた。
「日向。今日、泊まりに来る?」
***
「お邪魔します」
「どーぞ」
今日は沙夜の家に泊まることにして、一度俺は泊まる準備をしに家に戻った。
両親からの許可はもらっているので、大丈夫だ。お母さんからは『やるならよく考えてやるのよ』と不思議なメッセージがあったが。
お泊まりのために持ってきた荷物を沙夜に置いていいよと言われたところに置き、中を確認していると後ろからぎゅっと抱きしめられた。
「日向が来るまでにお風呂溜めておいたよ。前は無理だったけど今度こそ一緒に入ろ?」
「いっ、一緒に!? それはちょっと……嫌じゃないんだけど、その……俺達には早いかと。俺は後でいいしゆっくり入ってきたら?」
「早い……そう、早いのね。じゃあ、お言葉に甘えて先に入ってくる」
胸が背中に当たって危ないところだったが、沙夜はお風呂に入るため俺から離れて、浴室へ行ってしまった。
(あっ、危なかった……)
俺の家に泊まりに来た時にわかっていたはすだ。彼女と同じ場所で寝るのは危険ということは。
沙夜、俺、の順にお風呂に入り、出てくると彼女はリビングのソファで何かを読んでいた。
邪魔しないようゆっくりと彼女の隣に座ると沙夜は顔を上げた。
「あっ、日向お帰り。お湯の温度大丈夫だった?」
「うん、大丈夫だったよ。ちょうどよかった」
入る前にも見たが、お風呂上がりの沙夜が可愛すぎる。モコモコのルームウェアを着ているので、抱きしめてモフモフしたい。
「何読んでたの?」
何を読んでいたのか気になり聞いてみると沙夜はノートの表紙を俺に見せてくれた。
「これは藤村さんから教えてもらった料理のレシピが書かれてるの」
藤村さんって確か、家政婦さんだっけ。料理が上手いと聞いた。
「見てもいい?」
「もちろん、一緒に見よ。私がよく作る料理は、全部藤村さんに教えてもらったものなの」
「そうなんだ」
沙夜に見せてもらったが、全て手書きで藤村さんに教えてもらった料理のレシピが書かれていた。
(沙夜は努力家だな……俺も見習わなきゃ)
「私、とっても嬉しいの。日向が私と一緒に夕食を食べてくれて。今まで私と食べてくれる人はいなかったから……。ありがとう、日向」
こちらを向いて俺のことを真っ直ぐと見る彼女の瞳から目がそらせない。
「こちらこそありがとう」
ノートは閉じて、いつの間にか彼女は俺の手を握っていた。温もりを感じたい、そう思い俺は指を絡めて握り返した。
ここで邪魔する者はいない。2人だけしかいない空間。
俺が彼女の顔へ近づけると沙夜は驚くがすぐに目を閉じた。
正しいやり方なんてわからない。だから思うように俺は唇を重ねた。
唇を離すと沙夜は、ほわんとした表情で口元に手を当てていた。
(柔らかかった……)
キスをした。それを思い出すと体が暑くなってきた。
触れたいと思う気持ちが溢れだしそうで我慢していると沙夜は、握った手をぎゅっと優しく握ってきた。
「何だか不思議な感じがする……日向、もう1回しよ?」
今度は沙夜から顔を近づけ、キスをしてきた。先ほどより長めのキスをして唇を離すと銀色の糸が引いていた。
呼吸が乱れたので整えていると、沙夜が足をソファに上げて近寄ってきた。
「ダメ……キスしたら我慢できなくなる。どうしよう、日向……」
「えっ、どうしようって……えっ?」
どうしようと聞かれても困る。ここは、我慢しなくていいよと言うのが正解なんだろうか。
返事に困っていると沙夜が俺の頬を触れて、小さく呟いた。
「ふふっ、日向が困ってるの可愛い」
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