第8話 もう1人のレイプ被害者

女子大に入って心の底から良かったと思っている。空気が良いのだ。空気が。男子がいない方がこんなにも活き活きと学べるとは思わなかった。


まず学生間同士の争いが生まれずらい。

1人でいても誰も白い目で見ない。むしろ1人行動をしている人の方が多い気がする。


なんで共学だと1人行動し辛いんだろう。異性の目から見て「ぼっち」って思われたくなかったのかな。なんとなく、そんな気がする。


私はすれ違った友達に挨拶をして、大学の就職支援センターに入った。


今回の就職支援員はイケメンで噂の林さんだった。20代後半、物腰が低いのが好感を持てる。ちなみに就職支援センターは郵便局のように窓口で対応してくれる。


「え、Xテレビですか?」林さんは眼鏡をぐいっと上げながら言った。イケメン。


「はい。秋季インターンシップに行きたいのでESの添削をお願いします。」


「Xテレビか〜。あそこか〜…。」

林さんの歯切れがどこか悪かった。


「春季にインターンシップ行かれた学生さんがいるんですか?」


「そうだね。あぁ…そう。いるんだけど。あーいや辞めた方がいいよ。」


「え、インターンシップをですか?」


「そう。あんまり良い話を聞かなかったな。その学生さんから。」


「その学生さんの学科と名前を教えてください」


「いや、それは個人情報漏洩になるからダメです」


何を言っているんだ林さん。ウチの大学はインターンシップに行った学生は体験記を書いてアーカイブ化する。そしてウチの学生限定でネットから閲覧できるじゃないか。


ということは春にインターンに行った子は体験記を書いていない。何かあったんだな。


私がXテレビのインターンに行く目的は、柊木アナウンサーの髪の毛の採取と冤罪で逮捕させること。


藤田が柊木アナからレイプされたことがどうしても頭によぎる。


まさか…?


林さんにお礼を言って就職支援センターを後にした。まぁ別に支援員のアドバイスがなくてもESは多分通ると思う。一応ここ日本で1番頭の良い女子大だし。


それは置いといて春にインターンシップに行った子から話を聞きたいな。


しかしどう探そうか。Twitterを本名でやってて、色々と日常のこと呟いていたら楽なんだけど絶対にないな。


私達の年代ってインスタに鍵かけるし、ちゃんとプライバシー保護しているんだよな。


うん…林さん…ちょろそうだったな。さっきも、適当に誤魔化せばよかったのに、下手に喋りかけていたし。私はUターンをして再び就職支援センターに戻った。


「林さん…」


「あ、えーと冬梅さん。どうされました。」


「私本当は知ってるんですよ。Xテレビのこと。」


「えっ!」と林さんは大きな声を上げて反応した。窓口の後ろにいる他の職員が一斉にこちらを見た。目が泳いでいる。この人チョロいぞ。


「もう学生の中で噂になってますよ。大丈夫なんですかね。そちらの企業もマスコミとか?」


「えぇ高瀬さん話してたんですか?」


「え、私高瀬さんからは聞いてないですよ」


ちょろいぞ林。


「あっ」林さんは口を押さえた。

「ご、ごめんなさい、あのあの。このことは内密にしてください」


「もちろんです」


私は満面の笑みで就職支援センターを後にして、一つ上の階にある大学の食堂に行った。


これはラッキー。高瀬さんは恐らく私と同じ学科の”高瀬ゆうな”だな。アナウンス演習の授業で一緒だった。期末のグループ発表が同じだったから連絡先もある。きたコレ。


高瀬ユウナならXテレビのインターンに行っててもおかしくない。


というか、アレ?高瀬さん最近見てない。最後に学校で見たのいつだ?


私はLIMEを開いて、高瀬さんに連絡した。



ーやほ( ^ω^ )!

私、Xテレビの秋季インターン受けるんだけど、高瀬さん春受けたんだって?

どんな感じだったか教えて欲しいなっていうのと、久しぶりにお茶しない?ー



よし送信。


返信は想像の100倍早かった。私が食堂でカレーを注文して取りに帰ったらもう来ていた。



ーいいよ。でも私の家がいい。

大島駅待ち合わせで、いつでも良いよ。



話が早い。助かる。


ー今から行っても良い?( ^ω^ )ー


ーうん


カレー食ったら行くねと返信して、会話を終わらせた。高瀬さん今日はフリーだったのかな。



私はカレーを早々に食べ、大島駅に向かった。


高瀬さんはアナウンサー志望だった。確かにアナウンサーを目指していると言ったら誰もが納得する美貌の持ち主だった。そして知的でリーダーシップがある。女子大にいる強い女タイプの人だ。


着いたよーと高瀬さんに連絡をした。

高瀬さんからすぐに返信が来た。


目の前だよ。と返信が来て、慌ててスマホから目を離して前を見た。


「え、高瀬さん?」


高瀬さんはげっそりと痩せて頬がこけそうになっていた。髪の毛も薄くなっている。以前までの高瀬さんは輝かしい生命力を感じさせる人だった。


「家に行こう。そこで全部教えてあげるから」

と高瀬さんは疲れたように笑って、家に案内してくれた。


もう話の展開は読めている。


Xテレビの柊木は何人もの女をレイプしている。藤田も、そして高瀬さんも。 



この感情は友人の尊厳を奪ったレイプ犯への怒りなのか、それとも柊木を叩きのめしたいという興奮なのか、やり場のない感情が私を支配した。

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