第51話 【ちょいグロ】最終決戦⑤ーかぶりつくー




 銃を持っていた右手に生暖かい液が降りかかる。そしてドサっと肉の塊が床に倒れ込む音がした。


「チェックメイト…意外と楽しめたよ。ありがとう桜ちゃん」僕はそっと言った。


 想像したよりもコイツ血が多く出たな。暗闇でよく見えない。僕は手探りで目の前にあるベッドシーツで手を拭いた。


 

 「冬梅桜ね…」と数十秒前に殺した女の名前を呟いた。


 

 この女、本当に殺すべきだったか。


 まぁ大丈夫か。いつもと同じように刑事部長に頼んでおけば自殺で処理してもらえる。アイツには前に女を斡旋してる。そのネタで揺さぶって、お礼に新しい女を斡旋してあげよう。



 本当に…お偉いさん方の弱味に漬け込むって簡単だ。若い時、勉強ばっかしてきたせいで女遊び出来なかったんだろうなぁ。可哀想に。


 お偉いさん方には道端で偶然を装って話しかける「可愛い子に興味ない?」「レイプされてる女の動画に興味ない?」って。


 良識のある奴は無視するけど、大抵のやつは興味を持つ。それで女を1人斡旋すればすぐに落ちる。そして1人引っかかれば口コミで30人は釣れる。本当にちょろい世の中だ。


 

 女は一生売り物で、男は一生カモだ。



「まぁ…そんな僕の価値観に一矢報おうとしたのは君が初めてだったね。藤田。」と僕はノートパソコンに向かって言った。画面を確認すると、僕の売り物はそろそろ壊れそうになっていた。



 さて流石に暗闇だと動きづらいな。


 僕はベッドについているスタンドライトをつけた。


 今まで暗闇で動き回っていたからスタンドライトの明かりさえ眩しかった。あたりから黒い粒々がたくさん見えて何も見えない。飛蚊症だ。


 目をゴシゴシと手で擦ってようやく視界が開かれた。そして俺は辺りを見回した瞬間、全身の身の毛がよだった。


冬梅がいない。


「どこ…」と言った瞬間、顔に強い衝撃が走った。そして気づくと壁に叩き付けられていた。


何故だ。


俺は間違いなく冬梅桜を撃った。


何故、戦える。


いや違う。何故生きてる。


「物事って見えてないと本当に油断するよね」

目を開けると、僕の目の前には冬梅桜が立っていた。


「間違いなく僕は君を撃った。」


「撃ったって言っても手だけどね」と言って、冬梅は両腕を挙げた。


あっー


冬梅の両手の中心にはぽっかりと丸い穴が空いていた。


「僕は手のひらに撃っていたのかっ!!!」


「ピンポーン。いやぁ暗闇にして良かったぁ」


 やられた。この女、頭を殴られた直後の土壇場でよくそんなことが。


いや、でもだ…。


「ははは。それでも僕の方が有利な状況じゃないか。君はもう両腕が使えない。」


「どうだろうね。試してみる?」

と目の前の女は笑った。その顔を見て胸がズクンと痛くなった。自分の心拍数が異常なまでに早くなっていることがわかる。


 この女なんなんだよ。父親にレイプされまくってた肉便器だろ。なんで僕と対等になろうとしてるんだよ。この手でめちゃめちゃにして殺してやる。僕は初めて煮えたぎる殺意を覚えた。


 冬梅がこちらに1歩、2歩と近づいてきた。冬梅の手はもう使えない。


となると足だ。この女は蹴りしか使えない。


あいつの蹴りは相当深い。それなら、こちらは冬梅の足を封じ込める。僕は前屈みにタックルをする姿勢になった。


 足からしか来ないと分かってる以上、僕の方が有利だ。蹴り足とは逆の軸脚を突っ込めば確実に勝てる。


 よしっ近づいてき…


 えっー


 なんでだー

 

 お前は蹴りしか使えないだろ


 なんで両足でジャンプしたんだ。


 僕は高く飛んだ冬梅に呆気を取られて動けなかった。重心を下にし過ぎたせいで咄嗟に対応できなかった。


 空中で冬梅は大きく口を開けた。冬梅のヨダレがぽたりと頬に落ちた。


 それはまるで獣のようだった。僕は自分よりも一回りも二回りも小さな人間に食われると思った。


食われる…?


しまっ


ガチュリという今まで聞いたことのない音が聞こえた。


食われた。


コイツ、この女


食った


僕の顔を。


「ぎゃあああああああああ!!!!!」


顔面が熱くなった。痛いなんてものじゃない。

食われたのは右下の頬だ。


こんなに痛いのか。


僕は驚きのあまり尻餅をついてしまった。


「あははは。痛い?前にさ親知らず4本抜いた時にね下の方が痛かったの。なんでかなって思って調べたら下顎の方は神経が沢山あるんだって!」


この女やばい。


やばい。


真っ白な肌に赤いペンキをぐっちゃぐっちゃに塗りたくったような顔で


ブラリと意思を持たない手で


来る。この女が。  


「なんだよ。お前。なんなんだよ。」


「左の頬が残っているね。」


「やめてください…それだけは、やめ…」


「急に弱気になってどうしたの?あ、これも得意の心理ゲーム??」と冬梅サクラは満面の笑みで言った。


この女、コイツ、化け物だ。


「た…」と言いかけたところで僕の意識は途絶えた。



ーーーーーーーーーーーーーーー


「あんた殺してないでしょうね?」


「殺してないですよ」


「あの冬梅さん、俺の見間違いじゃなかったらナベシマの頬に歯型付いているんですけど…た、食べた?」


「見間違いですよ」


「なんでそんな嘘つくんですか」


「日高検事と黒瀬さんの2人で来たんですか?」


「あ、ええ。あ、佐々木刑事が後から来ます。」


「そうですか」


「…」


「…」


「…」



どれくらい意識を失っていた?。いやまだそんなに経ってないな。


目を開けても真っ暗だった。目隠しをされているのか。


 それに身体を動かそうとしてもグッと力が入って、そのまま思い通りに動かすことが出来なかった。


 そこでようやく今自分に立たされている状況が、椅子に座らされ手足を縛られ、完全に拘束されていると分かった。


「お、起きたねナベシマぁ」と声が聞こえた。


それは聞きたくもない冬梅桜の声だった。

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