第19話 被害者にとって1番嬉しい加害者の殺され方
「この男はもう殺すべきなんじゃないかな。」
と先に言い出したのはイイダさんの方だった。
私が柊木と人事部長の丸井からレイプされた次の日、私はイイダさんの家に行った。
「丸井の方ですよね。私もそう思います。」
丸井は数え切れないほど、少女をレイプしてきた。自分の欲を満たすために。もう日本の法律じゃ満足に丸井を裁けないだろう。
「ただな〜…。あいつが世間からレイプ犯って認知されずに殺されるのは癪なんだよな〜」と言いながら、イイダさんはヒソカのオムツを替えていた。
「うおおおお!ヒソカ!凄いうんこ出したな!偉いぞ!」とイイダさんはヒソカを何度も褒めた。
ヒソカもどこか誇らしそうに、えへんという顔をしている。良いなヒソカ。うんこ出してそんな誇らしい顔ができるのか。てか、ずっと思っていたけどイイダさん子育てするの手慣れてるよな。
私はそんな2人を横目に見つつ「丸井がレイプ犯と世間で認知された後に殺す方法ですか…?」と大学のレポートを書きながら聞いた。
「あぁ…それも、ただその辺の人に殺されたとか自殺とかじゃあ意味がないんだよな…。」
「どういう意味ですかイイダさん」と私はレポートから目を離しイイダさんの方を見た。
「よく考えろ冬梅。」
イイダさんは、私の座るソファの隣にどかっと座り足を組んだ。狭い狭い。足長いんだから足組むなよと私はイライラした。
「“自分をレイプした加害者が殺された”って聞いた時、どういう理由で殺されたと聞くのが被害者にとって1番嬉しいと思う?」
「どういう理由…」
「ふっ…後は自分で考えろ。」と言ってイイダさんはこれ以上は教えてくれなかった。
「被害者にとって1番嬉しい加害者の殺され方…」。すぐに分かるわけながない。頭がだんだん痛くなってきた。目の前のレポートがいかに簡単な課題か思い知らされる。
急に思い出したようにイイダさんは「あ、ちなみに今回殺すのは真白ちゃんだ。中国の仕事終えて明日に帰ってくるぞ」と言った。
「真白ちゃんですか…私が殺らなくて良いってことですか…?」
イイダさんはニヤリと笑って言った。
「直接的にはな」
イイダさんのこの顔を見て、私はイイダさんの考えていることを全て理解した。
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柊木リョウゴの逮捕は世間を大きく賑わした。
『人気アナウンサー第1位の柊木リョウゴが準強制性交の疑いで逮捕。共犯と見られる人事部長は行方不明』
柊木リョウゴが所属するXテレビを除き、全ての民法が大々的にこの事件を取り上げた。ニュース番組では弁護士や心理カウンセラーといった、ゲストが招かれ専門家がこの事件を詳しく解説するほどだ。
もちろんインターネット上でも、“柊木ショック”という名の下で終始盛り上がった。「ヒイさまが…」「あいつ最初から怪しかった」「前にこんな発言している…」「女のハニトラだろw」と様々な声が溢れた。
このまま、柊木リョウゴの逮捕で世間が賑わうだろうと誰もが思った次の日、事態は急展開を迎える。
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『準強制性交容疑、Xテレビ人事部長、死体で発見。ー犯人は事前にSNSで犯行予告かー』
丸井は人事部長としてホテルで行われる合同就職説明会に参加する予定だった。しかし、ホテルのエレベーターに乗ったところ何者かに首を切られて殺された。現在、警察は防犯カメラの映像を公開していない。
これは昨日のニュースを遥かに上回る勢いで注目を集めた。何故なら犯人と思われる人物が、丸井を殺害する直前に暴露系ユーチューバーに犯行予告のメールをしていたからだ。
それを暴露系ユーチューバーが取り上げ、インターネット上は大いに沸いた。テレビもそのYou tubeを引用し紹介した。
『丸井を殺す。復讐するんだ。私の処女を返してもらう。』
それは、柊木と丸井から性被害を受けた少女と思われる人物が書いた犯行予告だった。
ネットを超え世間では少女に同情する者が多くいた。またSNSでは女性を中心に自分の過去の性被害を告白する動きも多く見られた。
そして同情を超え少女を崇拝する人物も多く現れた。
それは丸井にレイプされた高瀬ユウナもその1人だった。彼女は丸井が殺害されたニュースを見て喜び泣き叫んだ。
「被害者にとって1番嬉しい加害者の殺され方…」
それは自分と同じレイプされた境遇を抱えたものが加害者を殺すこと。何故なら自分自身の成功体験として感じるからだ。私達だって復讐する力はあるんだと。反撃できる力はあるんだと。
だが高瀬ユウナは知らない。警察に被害を訴え柊木を逮捕させ、丸井を殺させた人物が同じ大学の友人であることを。
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