第11話 睡眠薬に対抗する方法①
復讐を決行する1週間前ー
「睡眠薬と酒の組み合わせは最強だ。ぐっすり眠る。夜に飲まされたら次起きるのは夕方だ」イイダさんはカップにお湯を注ぎながら言った。
高瀬さんから柊木によるレイプ被害の話を聞いた後、すぐにイイダさんの所(藤田の家)に行ってそのことを報告した。今回イイダさんはココアを入れてくれた。ヒソカはベビーベットで眠っている。昼間シッターさんと遊び続けて疲れたようだ。
「まぁ柊木に薬を飲まされた後にトイレ行って吐き出せば問題ないじゃないですか」と私はココアをふーふーしながら言った。
「いつもならそれで良いんだが。それだと警察を欺けないだろう」とイイダさんはマグカップをコツンとデコピンしながら言った。あまりの音の大きさに私は自分のおでこを思わず押さえてしまった。
少し沈黙ができた。そして、ふーふーと息をかけなくてもココアが飲めるようになった頃、イイダさんは何か思いついたように私に質問をした。
「冬梅、お前体重と身長は?」
「158センチ42キロです。」
「ほっせぇ!!」とイイダさんは声を荒げた。
「初音ミクと同じ体型ですよ」
「あら分かりやすいとはならねーよ」
「ふむ。」と言ってイイダさんは腕を組んで再び黙り込んだ。私はその間にココアを飲み干した。
「よし冬梅。お前は睡眠薬の入った酒を飲み干せ」
「は…?それだと爆睡しちゃうじゃないですか?証拠はどうするんですか?」
イイダさんはニヤリと笑った。睡眠薬の入った酒なんて飲んだら意識を完全に無くしてしまう。何をされるか本当に分からない。盗聴器やカメラがバレたら計画は失敗だ。なんならこっちが捕まってしまう。
「安心しろ策はある。」とイイダさんは再びニヤリと笑った。
柊木が案内してくれたお店は高瀬さんと同様、土佐料理の店だった。お店に入ると大きな水槽があった。そして自然を基調とした細い通路を抜けて私たちは個室に案内された。個室は掘りごたつで、戸はふすまだった。少し穴は空いているが気にならない。
「うわぁ。こんなお店初めて」と私は思わず言った。これは本音。1人じゃこんな店まず行かない。イイダさんがご飯を奢ってくれたとしても、すき家の鶏そぼろ丼と山岡家のラーメンくらいだ。
「ふふふ。そういう反応をしてくれると僕も嬉しいな。でもここ2人で食べても1万5000円くらいで食べれるんだよ」と柊木は言ってコートをハンガーにかけた。
「へーそうなんですね」としか私は言えなかった。1人当たり7500円だろ高いわバカ。
メニューは柊木が一通り注文してくれた。私は鯖寿司が美味しそうだなと思い少し他のメニューより見る時間が長くなった。それに気づいた柊木は鯖寿司を注文してくれた。実際に会うと柊木の魅力は一層増す。テレビというフィルターがかかることで魅力が減ってしまうと言っても過言ではないほどだった。
「お酒は何を飲みますか?」と言って柊木は私の
方にドリンクメニューを向けてくれた。
高瀬さんは2件目のバーに行ってパナマを飲んで意識を失った。ということはここは楽しく土佐料理を満喫して終わりだな。
私は可愛らしくカルーアミルクを注文した。そして柊木は日本酒を注文した。
料理はカツオのタタキ、うつぼの柳川鍋、私が食べたかった鯖寿司、しらすのサラダ、芋けんぴが運ばれてきた。
店員さんから「カツオのタタキは塩で食べてください」と言われた時は反抗して醤油をだっぷりつけて食べたいと思った。仕方なく1切れ目は塩で食べてみるかと、塩をつけて食べた。塩っ辛いのが好きな私はカツオの全面に塩をつけた。めちゃめちゃ美味しかった。塩をつけすぎたことを後悔した。
「本当に美味しいカツオのタタキは塩なんですね…」と私が言ったら、柊木は顔をじっくり見て優しく微笑んだ。「そうみたいだね」と柊木は言った。
胸が一瞬温かくなった自分がいた。酒が回った。カルーアで?違う。
今まで散々レイプしてきたゴミ野郎共を見てきたが、この人は違うんじゃないかと初めて思ってしまった自分がいた。
こいつは高瀬さんをレイプして、藤田に子供を孕ませたゲス野郎。
あれ…そういえば、藤田と柊木さんはどういう接点があるんだろう。
「冬梅さん?」
「あ、すみません。ボーとしてました。」
「良かった。冬梅さんはどうしてアナウンサーになりたいと思ったんですか?」
「あ、それはですね。私北海道出身で、高校生の時、胆振東部地震にあったんですよ。その時札幌に住んでいて、私の家は液状化して住めなくなっちゃたんですよ。んでその時にあるアナウンサーに会ったんです。その人が『この事実を伝えましょう』と言ってくれて…」
私はツラツラ嘘を言った。柊木さんは何度も頷いて真剣に私の話を聞いてくれた。どこか胸が痛くなる自分がいた。
柊木は「そうなんですか。それで冬梅さんはアナウンサーを目指したんですね。でもどうなんだろう。うちの局は結構幹部が古い人だから、冬梅さんがもしウチに入っても働き辛くなるかもしれないね」と真剣にアドバイスをしてくれた。
「Xテレビはね、本当に…あのテレビ局は…」と柊木は何かを言いかけてやめた。
変な間ができたので話を振ろうと「柊木さんはどうしてアナウンサーに…」と言いかけた瞬間、尿意が襲った。どうして酒を飲んだ時はこんなにも尿意が近くなるのか?
「すみません。お手洗いに。」と言って私はお手洗いに向かった。
胸が暖かい。ボーとする。柊木さん待たせたな。ん、柊木“さん”?
トイレで用を足し、柊木さんのいる個室に戻った頃には私はフラフラになっていた。
「大丈夫ですか?冬梅さん」と私の肩を支えた。
「えぇお酒は一杯しか飲んでないですし。おかしいな。」
そしてようやく私は気づいた。高瀬さんの時と違って、1件目で睡眠薬が盛られたことを。
しまったー
どのタイミングかわからない。いつ薬を盛った?
柊木は「店を出ましょうか」と言った。
柊木の肩を借りて私はお店の外に出てタクシーに乗せられた。私はお店の廊下を歩いている時何度も「自分で歩けます。」「家に帰ります」と言った。
柊木は「大丈夫ですから」と何度も言った。
タクシーに乗り「こちらの場所に」と柊木は運転手に言った。
私は窓にもたれかかった。
ほら見ろ。男はクズなんだよ。一瞬でも柊木が良いやつだと思った自分を恥じた。
20分くらい過ぎて車が停まった。
柊木は私の頭を撫でながら
「本当にごめんなさい」と言った。
その後、柊木は誰かに電話をし「着きました…はい…はい…分かりました。」と言って電話を切った。
どうやら一筋縄では行かなさそうだと薄れる意識の中、私は次の作戦を考えた。
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