第12話 【胸糞注意】睡眠薬に対抗する方法②

パンッパンッという音で意識を少し取り戻した。


「おい、お前これ演技じゃねぇよな」


 という声が聞こえた。だんだん自分の頬が熱くなってきたところで完全に意識が覚醒した。この音…何度も頬を叩かれていたのか。


 どれくらい落ちた?20分くらい?ふかふかしたベッドの上だ。服も着てる。よし上出来。でもまだ意識はボーとするな。まぁこれくらいが丁度いい。意識を失ったフリをしよう。


「グラス1杯しっかり飲んでたから大丈夫です。よく眠っています」と柊木の声が遠くから聞こえた。


 飲み物に薬を入れられていたのか。てかあれ?柊木の声、奥の方から聞こえたな。ということは私を平手打ちしている男は誰だ?


「ちっこの女、顔認証登録してねぇ。下手なことスマホで言ってないといいけど。」と男は言った。


「大丈夫です。彼女そういう人じゃないから。それにカバンの中身を漁ったけど何も怪しいものは無かったです。」


「へー。人気アナウンサーは女を見る目もありますってか?」


「そんなことはないですよ。」


「おいお前服脱がすの手伝え」


「…はい」


 この男の声どこか聞き覚えがある。といっても私が交流のある男なんて片手で数えられる程度だぞ。柊木とも私とも交流がある男。


 あ、人事部長ー。


 薄目で目を開けて男の顔を確認する。間違いない。


 そうか人事なら自分の好みの学生を選考し放題だし品定めし放題だ。デブでハゲの人事部長が声をかけるより、柊木リョウゴが声をかけた方が女の子も飲みに行こうと思うだろう。


 「まて柊木、下着は脱がすな。はーこれなんだよ。やっぱ処女はいいよな。下着が控えめで」


 自分の欲望を満たすために、他者の尊厳を踏み躙るまさに底辺のゴミ。


 どれくらいかかるんだろう。ダルイから眠ってしまいたいけど2人から情報を取りたい気持ちもある。



「これ半年前の女越すんじゃないか?同じ大学同士、穴姉妹だな。」


 ブハハハと人事部長は下品な笑いをしながら、欲望を私の中に吐き出した。


 その後3時間くらい人事部長による同意のない性行為は続いた。柊木はこの間、一切私に手を出さなかった。


 行為が終わって「お前、今回も良いのか?」と人事部長はタバコを吸いながら柊木に聞いた。


 柊木は「はい。僕不全なんで。」と静かに言った。


“今回も?”


 柊木は手を出していない…あいつは女を騙してホテルに連れ込んでいただけなのか。これも立派な犯罪で許すには値しないが。


本当の敵は…人事部長だったのか。


 コイツ、仮に女の子が警察やマスコミに訴えても柊木に罪を押し付けるだろう。


柊木お前も可哀想なやつだな。


「じゃあ俺は先に行くから、お前も少ししたら出ろ。チェックアウトは10時だから。まぁそれまでにはコイツも起きるだろう」と言って人事部長は部屋を後にした。


 チェックアウト。ここは高瀬さんの時と同様にホテルなんだな。ラブホテルというよりは普通のお高いホテルのような気がする。


 少し間が空いてから水が流れる音がした。

続けてパシャパシャという音が聞こえた。柊木はおそらく顔を洗っているのだろう。


 カチャと戸が空く音がし、足音がこちらに向かっている。


ぎしっという音と共に私の身体が少しベットに沈んだ。柊木が私の隣に座った。


 そこからテレビの音が聞こえた。チャンネルが切り替えられ、バラエティ番組が流れた。おそらく再放送だろう。しかしすぐにテレビは消され、ガチャンとプラスチックの物体が割れる音がした。おそらくリモコンを投げつけたろだろう。


そして柊木は息をふーと吐き


「冬梅さん、貴方最初から起きていますよね」と優しい口調で私に呼びかけた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る