第52話 最終決戦⑥ー佐々木刑事のしたり顔ー
私はナベシマにつけたタオルに手をかけて
「あ、もうこれ目隠し解いて良いですか?」
と言った。
「まぁ目は別にいらないんじゃない」と日高検事は腕を組んで目を細めながら言った。ナベシマを完全に汚物として見ている。
この人こんな性格だったんだ。検事調べのときの2回しか会ってないから当然と言えば当然か。
「あの、どうして日高検事がそちらに…」
「丁度、黒瀬君と佐々木刑事とお茶してたのよ。」
「あぁ。なるほど。」
黒瀬さんの方を見ると、どこか気まずい顔をしている。コイツ喋ったな。まぁ喋ったから、日高検事はこの状況を見ても冷静なのか。
私はグイッとナベシマの目に当てられていたタオルを取った。
「おはようナベシマ」
ナベシマは急に視覚を得たからか、どこか焦点が合っていない。少し経ってから周りをキョロキョロと見た。何か言葉を発しようとしたのか
「あっあうううう…」
「あれぇ喋れない??」
「当然よ。あんた両頬食って最後に顎蹴り上げたんでしょ。」
しまった。喋れる分の筋力は残しておけば良かった。思わずチッと舌打ちしてしまった。
「冬梅さん食べたこと否定してください。」
「あ、そうだった。」
それでもナベシマは頬をちぎられた状態なのに
どこか余裕のある表情をしていた。
「何その顔?あんた、もうすぐ警察来るのにまだ勝算があると思ってるの?」
「あ…あるさ」とナベシマは言って、ピクピクさせながら左の頬の口角を上げた。
良かった。かろうじて日本語は喋れるな。
「あらぁそれは見ものだね。」
佐々木刑事の到着を待つ間、私はソファに座らされた。そして黒瀬さんが私の怪我の応急処置をしてくれた。
その間、私は顎でノートパソコンを30度くらいの角度にし2人に藤田のことが見えないようにした。
日高検事はベッドに座って呑気にタバコを吸っている。
良かった2人とも部屋を散策しなくて。私は風呂場に目をやった。風呂場には半裸(下半身)の父が眠っている。ややこしくなると思って、父のことは話さなかった。
黒瀬さんが私の応急処置をしてくれて15分程が経った頃、佐々木さんが息を切らせて部屋に入ってきた。
「はぁ…はぁ…!!お待たせしました!黒瀬さん!日高さ…ぎゃああああああ!!!!」
「刑事のあんたが騒いでどうするの」と日高検事が舌打ちした。
「あ、すすみません。あまりにも現場が…」と言ってたじろいだ。
ん…玄関の方から気配がある。もう1人刑事がいるな。佐々木刑事の上司かな。
佐々木刑事はゆっくりしとした足取りで拘束されているナヘジマの方へと向かった。
ナベシマは品定めするような目で佐々木刑事のことを下から上にかけて見た。
「こんにちは。僕がナベシマですよ。可愛いですね。刑事さん」
「どうも有難う。ナベシマさん本名は?」と言って佐々木刑事は膝をついて、ナベシマと視線を合わせた。
こんな奴に視線を合わせるなんて、佐々木刑事も甘いな。
「本名を教える意味は無いですよね。僕はなんの罪も犯していない。」
「拳銃持っていますよね。その時点で現行犯逮捕ですよ」と佐々木刑事は子供に諭すように言った。
その対応はナベシマにとって不快だったろう。ナベシマは不愉快そうな顔をした。
「ふふふ捕まらないよ僕は。ねぇ!!奥にも刑事さんいるよねー!!署長にでも連絡してみてよ!!僕は捕まらないから!!」と叫んだ。
ナベシマももう1人刑事が隠れていることに気付いたようだ。
「な、何言ってるの?あなた。」と不思議そうに佐々木刑事は言った。
「知ってるさ。君のとこの署長は米田さんだろ。」
「はぁーお前、警察にも顧客がいるのか」と私は頭を抱えながら言った。どうりで東京の性犯罪がまともに捜査されないわけだ。
「ねぇ、アンタもしかして検察にも…」と日高検事はタバコを吸うのをやめ、ナベシマの胸ぐらを掴んだ。
「ははは。5.6人かな。検事さんは変わった性癖を持っている人が多いみたいで。」
とナベシマは微笑んだ。
日高検事は崩れ落ちるように床に座り込んだ。
「アンタのせいで今まで被害者がどんな思いして」
「被害者?違いますよ。あれはリスクを考えられない頭の悪い雌豚です」
瞬間、日高検事は立ち上がってナベシマを殴ろうしたが、黒瀬がその腕を掴んだ。
「日高さんダメですよ。こんな汚いのに触ったら」
「わーありがとう黒瀬弁護士。お兄さん…あぁお姉さんは元気??あれからハマって2人でセックスしてるの?」
「えぇお陰様で。」と言って黒瀬さんはニコリと微笑んだ。
ナベシマはまたしても想像と違った反応をされたからか不機嫌な顔になった。
「ったくお前本当にどうなってんだよ。」と玄関の方から部屋へと男が入ってきた。
「誰…」と言おうしたがその必要はなかった。
こちらに近づいて来る男は右手に電話、そして左手に警察手帳を持っているからだ。
「秋口さん」と佐々木刑事が言った。
「米田署長から連絡が来た。ナベシマという男の身柄は一旦保留だ。しかもこれは刑事部長さま直々の命令だそうだ」
「はぁああああ??!!!!!」と黒瀬さんと日高さんは声をあげて言った。そりゃ法律を専門としている…いや、法律を専門としていなくてもこの判断はおかしくて当たり前か。
「あっははははは!!!!!」とナベシマは声をあげて笑った。
「じゃあここで解散だぁ!本当に日本の法律ってチョロいよね〜最高の気分なんだけど!!」
「このクズ黙らせてよ!!」と日高検事は怒鳴った。
「ははは!!!冬梅お前今日の朝、警察署に荷物を送ったよな?。どうせ僕が斡旋した女がレイプされている動画だろ?」
なんで荷物送ったこと知ってるんだよ。
「藤田のやつ、リップだけは大事そうに持ってたもんな!!まさかリップの裏がUSBになってたなんて!!」
ナベシマは意気揚々と話す。こいつ口の痛みはどうなったんだよ。全く。
「でも、そんなの刑事部長に言って先手を打ってたんだよ。お前の努力は無駄だぁ!!!あっははは!!!」
「もういい加減にしてよ!!」
日高検事は泣き叫んだ。今までのストレスを全て放出するように。
目の前に犯罪組織のトップがいるのに裁けないなんて、こんなのあんまりだ。
せっかくの藤田のUSB無駄だったのか。
じゃあいいや。
コイツもう法で裁けないなら…
殺しちゃお
ナベシマへと一歩足を踏み出そうした時、黒瀬さんが私の肩を触っておさえた。
小声で「大丈夫だから」と言った。
ナベシマの笑い声が響き渡る部屋の一室で「何よ…その目…」と日高検事は吐き捨てるように言った。
「あははは。勝利を確信した目です。どうですマダム、あなたにも素敵な男を紹介し…」
「いや、アンタのことじゃなくて」
「へ…?」
「あんた達、何企んでいるのよ」と日高検事は言った。
その視線の先には佐々木刑事と秋口刑事が2人。
挑発的な目をしてナベシマのことを、いや私達のことを見ていた。
「まーだ勝負は終わってないですからね。ナベシマさん」
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