レイプされた君に代わって復讐します。ー元美人局の華麗なる復讐ー

地極ミミ

第1話 落ち着いてる喫茶店はパパ活初回の餌食

この店はパパ活に丁度良い。と思う。


 新宿三丁目。紀伊国屋書店の近く。客単価はおよそ4000 円。カフェにしては高い。だが老舗のブランド力と人気商品のカレーのお陰で、店外の待合席から客が消えることはない。そのため現代の新宿を象徴するような若者は、この店にはあまり来ない。


 だからこそ、この店はパパ活に丁度良い。と思う。周りの客も店員も常識と良識を持ち合わせている。「見て、あれパパ活だよ」と声を出すことも無ければ、怪訝な目でパパ活カップルを見ることもない。周囲から変な目で見られず、値段も安すぎず高すぎず、パパ活最初の顔合わせをするにはこの店は丁度良いのだろう。そう考えながら良識も常識もない私は3組のパパ活ペアに視線を向ける。恥ずかしもなく「大人どう?」と打診するおじさんを憐れむためでもなく、自分と年の近い女に同情の目線を送るためでもない。


 私は藤田を探していた。あの3組のどれかに藤田がいるからだ。


 どのパパ活ペアも女側の顔がうまい具合に見えない。

 1人目は白のふわふわニットに黒のショートパンツ、靴はロングブーツで髪はボブ。私の大学でよく見かけるスタイルだ。


 2人目は丈の短い黒チェックのワンピースにロングヘアー、髪の隙間から見える耳にはとんでもないピアスの量、そしてロングブーツ。


 3人目は韓国のアイドルが着てそうな黒色のセットアップ。髪は茶でクルクルに巻いてバレッタで留めている。そしてまたしてもロングブーツ。


 最近のパパ活女子のトレンドはロングブーツなのだろうか。確かに可愛い。3人とも藤田に見えるし、違うようにも見える。いかんせん藤田に会うのは3年ぶりだ。どんな見た目なのか想像がつかない。


 女の3年は全く違う。


 中高女子校上がりの小百合ちゃんが分かりやすい例だ。小百合ちゃんは早稲田の軽音サークルに入って、この間の3年夏の引退ライブの時にはすっかり別人になっていた。人は環境で変わる。周囲の人間で変わる。


 小百合ちゃんのことを考えながら、私は女3人の顔を覗こうとしていた。


 あ、いた。藤田。


 パパ活ペアその2のパパがトイレに行ったことで、その隠れていた顔がはっきりと見えた。

 化粧は濃いがあまり顔は変わっていなかった。ただピアスの量は凄い。耳がもはや銀色だ。皮膚よりもピアスの方の面積が広い。藤田も私に気づいたみたいで、片手を軽くあげ5本の指をがばっと広げた。


5分待て…ということだな。

了解、と私はインドティーを片手に軽く頷いた。


 そもそも、パパ活終わりに合流するのも如何なものか。4日前に「会えるか」と藤田からLINEが来て、とんとん拍子に話が進んで会うことになった。


いざ店に着いて藤田に「着いたよ」と連絡をしたら、

「ごめん私も店なんだけどおじの話が長くて(^-^)」と返信が来た。


 おじ?叔父?店内をぐるっと見渡しても、叔父さんと姪っ子のペアは見つけられなかった。その代わり、ザ•パパ活カップルが3組。


あー、なるほど。おじさんのおじ。


 藤田と最後にちゃんと話したのは高校3年生の学校祭だ。藤田が私のところに近寄って「写真撮ろ」って言って一緒に写真を撮った以来だ。別に藤田とは高校時代大して仲良くはなかったと思う。だって私、不登校みたいなもんだったし。


 藤田のおじ(?)がトイレから戻ってきたのと同時に、藤田も席をたって2人は店を出て行った。そして私がインドティーをちょうど飲みきった頃、藤田が「すみません。待ち合わせです〜」と言って店内に再び戻ってきた。店員も少し困惑していたが、藤田が迷いなく私の先に向かっていたのと私が藤田に向けて手を挙げたので下手に声をかけられることはなかった。


「え〜久しぶり!!相変わらず陰キャだね〜冬梅!」


「まず遅刻してごめんでしょ藤田」


「いやでも店には着いていたからセーフでしょ!待ち合わせの時にパパ活してたら遅刻になるの?」


 いや、確かに時間通りに指定の場所に来てたからセーフなのか。いやでも私とは合流出来てないし。私は黙って考えてしまった。そんな私を見て藤田が


「ねぇてかこの店パパ活多くない?!?」

と呑気に話題を振ってきた。


「藤田もそのパパ活の1人だったじゃん」


「まぁーね。こういう雰囲気大人しめで、爺婆が多い店はパパ活に使われやすいからね〜。椿◯珈琲とかも良くあるなー」


「ふーん」


 3年ぶりだけど、あの時と同じ気持ちで喋れた。少し嬉しかった。大学に入ってから、私は沢山の友達が出来た。でも藤田のように心を開いては喋れない。大学の子は当たり前のように親がいて、当たり前のように親の学費で大学に通っている。彼女達とは見えない壁がいつもあった。藤田と私の境遇は少し似ている。だからこそ、私は藤田に心を開いて話す事ができる。


「んで藤田、本題は?」 

ヘラヘラしてた藤田の顔が真面目になった。


「私これから出稼ぎでアメリカに飛ぶの。」

予想よりも斜め上の解答が返ってきた。いや斜め上どころじゃない。


「え、出稼ぎ?パパ活の出稼ぎ?アメリカ行くの?」


「いやパパ活じゃない。風俗。」

 藤田はまっすぐに私の目を見て言う。藤田のこんな真剣な姿を見るのは初めてかもしれない。よりによって風俗行きます宣言で。ヘラヘラして居眠りしてる藤田しか私の記憶にはなかった。


「藤田、風俗もしてたの?」


「うん。むしろ風俗が本業」


「へー。それはまたどうして?」


「掛けを返す。」


「ホスト?」


「うん。700万掛けあるんだ。しかも2ヶ月後のバースデーで1000万使ってあげたいし」


「あ、そう」


 私は店員を呼んで、インドティーのおかわりを頼んだ。藤田は紅茶を注文した。


 何で3年ぶりに会って、こんな話をするのか。しかも大して仲良くない私に。何かありそうだな。


 これから来るインドティー1杯で藤田の話が終わるだろうか。私はお財布にいくら入っていたか思い出していると、藤田が


「良いよ。今日は私が出すから」とニヤリと笑った。


「700万の借金あるやつが言うなバカ。」



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