第29話 イイダと冬梅の作戦会議(拷問を添えて)

この部屋は初めて来る。

 アパートの一室。イイダさんの隠し家の一つ。


 私とイイダさんは卓上テーブルに向き合うように座り、いつものようにお茶をする。


 私は抹茶オレ

 イイダさんはブラックコーヒー  


 イイダさんは「私も藤田から詳しい話は聞けてなかったからな。まぁ口止めされていたんだろうが。てっきり、ただホストにハマって闇金しただけだと思っていたよ。」と申し訳なさそうに言った。


「相当規模のでかい組織だ。それに… 心理掌握に長けた奴がいる。レイプした女の子を誰一人警察に行かせないなんて離れ技です」と私は言った。


「いーや、そうでもないぞ。自分のセックスしてる動画を300万で消してやるって言われたら、やっちゃうもんじゃないか。家族仲が良いやつ程頑張っちゃうからな」とすぐにイイダさんは否定した。


「まぁ親に相談せずに女の子が大金を稼ぐ唯一の方法ですもんね。」


「その間にホストもハマらせれば、全自動セックスマシーンの完成だ。そう言った面ではホストは凄いな。全く。」


「ということは、レイプ犯、ホスト、闇金がグルということですよね」


「そうだな。まぁ…お客さんに聞いてみるか」と言ってイイダさんは席を立った。


 今日はゲストがいる。

 この前、私と黒瀬さんを監禁した半グレ集団の1人。

 痩せ型の男。


 イイダさんは、私から見て右前…いやお誕生日席に座っている男の猿ぐつわを解き、ヘッドホンを外した。


「くっそ…どういうつもりだよ…」と男はやつれた様子で言った。


「どうもこうもない。おぉ、まぁ流石に2日経つとオムツは臭いな」とイイダさんはニヤニヤしながら言った。


「眠たい…」 


 男はオムツをして用を足すことに羞恥心はもうなくなったようだ。


「寝れなかっただろう。ヘッドホンで24時間ヘビメタ。尻も床ずれしているんじゃないか」


「くそ… 。死ね…。死ね…。」

男の目の焦点は合っていない。限界一歩手前。

 エコノミー症候群を防ぐための、男の足につけられたマッサージ機がウィーンという音を立てている。


「お前等の組織について聞きたいんだ」


「眠たい。眠たい…。」


「あぁ。この質問に答えたら、ふかふかのベッドで寝ていいぞ。」


 男の目に一瞬光が差した。しかしその光はすぐに消えた。答えるということは自分の所属する組織を裏切ることになると気づいたからだ。


「イイダさんっていつも拷問これですよね。」と私は抹茶オレを薄めるためにお湯を加えながら言った。


「これはシュタージのやり口の一つだよ。私は気に入ってる。暴力は嫌いだからね。」


「シュタ…?」と男は言った。


「君は先生の話をちゃんと聞いてなかったタイプだね」とイイダさんはクスクス笑った。


「さぁ答えてもらおうか。君たち組織のトップは誰だ?」


「…」

 当然だが男は無視して目を瞑った。その瞬間イイダさんはビンタしヘッドホンを男につけた。男のヘッドホンから漏れるヘビメタの音は大きい。私からでも歌詞がハッキリと聞こえる。


「もう少し起きててもらおうか」とイイダさんは言った。


「ごめんなさい…」と男の声はか細くなった。


 それから 1時間くらいが過ぎた。私は大学の課題を始めた。イイダさんはパソコンでヒソカのよだれ掛けを探した。


 そして、ようやく「…もう話します。」と男は言った。


 イイダさんはパソコンから目を離し席を立った。


「いい子だ。君は。いい子だ。ちゃんと話してゆっくり寝ようか。」と男の頭を撫でた。


 男の目には涙が溢れた。寝れない、飲めないは辛いんだろうなと他人事ながら同情した。


Q「お前の仕事は?」

A「女の子の…監視」  


Q「監視とは?」

A「風俗する女達はまとめて1つの部屋に入れる。そこから逃げ出さないように監視…」


Q「藤田は何故1人暮らしを許された?」

A「あの女は稼いでいたし、ガキもいてうるさいから一人暮らしを許された。多分。」



Q「女の子の特徴は?」

A「テレビとか広告とか華やかな業界の子…それを目指す子…。優秀な女…。」


Q「何故優秀な女なんだ…?」

A「優秀な女がレイプされている動画は…顧客に…」


 今にも寝そうな男にイイダさんはビンタをした。さっき暴力嫌いって言ってたくせに。


Q「顧客とは誰のことだ?」

A「知らない。でも…偉いやつ…」


「もう寝かせてくれよ」と言う男に、イイダさんは後少しの辛抱だと優しく言った。


Q「何故、レイプした女は皆、風俗に落ち、警察に被害を告発しない?」

A「動画を見せて脅せば…行かない…。その辺はナベシマが…」


Q「ナベシマとは誰だ?」

A「ホスト…。仮に警察に女が行ってもナベシマが動けば不起訴で終わりだ…」


 被害を告発しても不起訴になる…?どういうことだ。詳しく話を聞こうと思ったが、男にも限界が来たみたいだ。急に叫び始めた。


「うおおおお!!!くっそおぉ!!!!死ねよ!死ね死ね!イイダ!!このくそおかま野郎が!!自衛隊だったくせに!国裏切ったんだろ!!知ってるんだよ!こっちもお前等のこと知ってるんだよ!!むすめ…」


と言った瞬間、男が椅子に縛られた状態で椅子ごと吹っ飛んだ。


「マシロちゃん…」


「イダ様を侮辱するな。この下衆が」


「マシロ、お前帰ってきたのか。」


「はい。こいつの処理は私が…」


「いや、ぶん殴ってコイツの記憶を奪って欲しい」


「殺すのはダメですか?」


「あぁダメだ。」


「承知しました。」


 おぉマシロちゃん、今日は随分と物分かりが良い。イイダさんの悪口を言われて相当お怒りのご様子だ。


「さて…」とイイダさんは一息置いた。


「どんどん事が複雑になっているな。半グレ達が身内で仲良くやってると思っていたが、お国の方々も絡んでいるのか」


「マシロでも分かるように解説をください」と真剣な顔と声でマシロちゃんは言った。


 私は面白くて吹き出してしまった。マシロちゃん、いくら真剣でもおバカなんだよな。


 優秀な若い女の子をレイプ

     ↓

 その動画を撮影し膨大な金銭を要求

 もしくは、動画を拡散すると脅す

     ↓

 風俗で働かせる

     ↓

 ホストにハマらせて更に金銭を要求

     ↓

 闇金にも手をつけさせる

     ↓

 海外に行って出稼ぎさせる。


 このビジネスをしているトップが、ホストのナベシマと呼ばれている男。




「分かったか、マシロ」


「分かりません。」


「そうか…。」


 私は再び吹き出して笑った。


 イイダさんはマシロちゃんへの説明を諦めたようだ。


「藤田への復讐だ…と軽く意気込んだがマズイな。」


「何がですか?」


「これ多分、政治家…検察もグルなんじゃないか」


「そんなことありますか?」


「この組織のボス、ナベシマは、政治家や検察にも女の子を斡旋していたとしたら…?」とイイダさんは言った。


「そんな事あるわけ無いじゃないですか」と私は冗談混じりに言った。いや、そんな事あるわけ無い。いや、え?。でも、さっき男が言ってた顧客、偉いやつとは誰を指すんだろう。


 「とりあえず我々の目的は、ナベシマ率いる組織の解体。風俗で働かされている女の子の解放だ。」とイイダさんは言った。


 高瀬さんも、風俗で働かされていると思うと気持ちが焦る。


「殺しはOKですか?!」とマシロちゃんは手をあげてイイダさんに質問した。


「今回はありだ」とイイダさんは言った。

 


 マシロちゃんは「いぇい!」とピースした。


「冬梅、手首が折れている間の君の仕事は柊木を起訴させることだ。」


「大丈夫ですよ。不起訴になる要因がありません」と私は言った。


「検察が、組織とグルじゃなかったらな」とイイダさんはニヤリと笑った。


 確かに、今の時点で柊木や丸井の所属するXテレビと組織はグルだったことが判明している。日本のマスコミは腐っている。ジャーナリズムもクソも無い。


 なんだか嫌な予感がする。


 検察と組織が繋がっている…?。


 日本の司法はそこまで終わっていないと私は信じている。

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