第14話 ハメ撮りは一石◯鳥?ーイイダが動く①

気持ちが落ち着かない1週間だった。


 それでも仕事をこなさなければいけないのが社会人だ。柊木はパソコンから目を離し目頭を軽くマッサージしてからコーヒーを啜った。


…だが山場は通り過ぎた。


全ては自分の思い込みで考えすぎだったようだ。


 あの日、彼女がホテルを出た瞬間から3日間は探偵をつけたが特に怪しい行動はなかった。彼女は約束通り警察署や交番には行っていない。


 まぁ強いて気になる点といえば、次の日に彼女は小さな産婦人科に行ったくらいだ。後は大学とバイト先の弁当屋を往復していた。


 小さな産婦人科はアフターピルを出す程度で、体内の証拠を採取するレイプキットは常備していない。まぁ大丈夫だろう。


 それでも気になることがある。彼女の寝顔だ。睡眠薬が効いていないにも関わらず、何度殴っても犯しても一切声を上げず表情に出さず、こちらの弱さを見透かすように静かに目を瞑っていた。魂の入った人形みたいだった。


 友人がレイプされたからって、自分も被害に遭って証拠を抑えようと思わないだろう普通。普通だったら…普通…?。


 まぁともかく高瀬のハメ撮り動画を持っていて心の底から良かった。

 

 仮に警察にこの動画がバレても問題ない。睡眠薬で意識が混濁していて、犯行中、高瀬は喘ぎ声を出している。これで不同意なわけがない。この動画のおかげで彼女も警察には行けなかった。ハメ撮り撮影するのは加害者にとって1石2鳥でも3鳥でもある。


 はーやっと…ストレスから解放される。彼女に入った睡眠薬も3日経てば体内からは消えている。完全に証拠は消えた。


 仕事を切り上げロビーに降り、社員証をタッチし外に出た。もうすぐ12月だ。いつまで自分は、部長の言いなりで女の子を騙さなければいけないんだろう。


 今でも、あの時の彼女の…冬梅さんの…目をつぶった、あの顔を思い出す。


 そんな考え事をしているとすぐに駅に着いた。しまった。今日は家に定期を忘れたんだった。ちっと舌打ちをし券売機で切符を買おうとしたところ「すみません」と声をかけられた。


 振り返ると、男なのか女なのか、日本人なのか西欧人なのかすぐには判断できない性別不詳、国籍不詳の人物が立っていた。


 背が高く黒髪のおかっぱが最初に目に行く。駅にいる人もおかっぱの人のことを見ていた。全国のテレビに出ている僕のことを気づく人は誰もいなかった。それくらい彼?彼女?のオーラはすごかった。


「すみません」という声からも性別が特定できなかった。男といえば男だし、女といえば女という声だった。


「あぁすみません。どうされましたか?」と焦って聞き返した。


 おかっぱの人は、綺麗にお辞儀をし鞄から名刺を取り出した。


「私、水道橋探偵社のイチガヤと申します」とおかっぱはニヤリと笑い名刺を差し出した。


「探偵さん?」

 なんで探偵が?僕が雇った冬梅さんを尾行させた探偵じゃない。水道橋探偵社のイチガヤさんか…。偽名なのは分かっているが、水道橋と市ヶ谷の間の飯田橋はないのか…とぼんやりくだらないことを考えしまった。


「柊木さま?」


「あぁすみません。えとどう言ったご用件で…」


「はい。本日は柊木リョウゴ様にDNA鑑定の結果をお知らせするために参りました」


おかっぱの人は再びニヤリと笑い、僕の瞳を奥深くまで覗いた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る