第24話 冬梅の戦闘② 黒瀬の夢、決着

結束バンドから抜け出した…!?。俺は冬梅さんの手元を見た。左の手首が変な方向に曲がり青くなっていた。


“自分の手首を折ったのか…!”


 冬梅は「片腕は使えないからな…」と言いながら、先ほどまで座っていたパイプ椅子を右手で思いっきり放り投げ、細身の男を吹き飛ばした。


「てっんめーーーー!!!!」と太った坊主頭が冬梅に向かった。冬梅は男の拳をヒョイと交わし、足を引っ掛け転ばした。


 そして男の上に跨り、右肘を男の顎に思いっきり当てた。男の歯がこちらの方に飛んできた。多分これは下の歯だ…。


 これで3人やられた。残るのは2人だった。2人も事態の深刻さに気づいからか、1人は胸元からナイフを出し、もう1人は倉庫にあった鉄パイプを取り出した。


 「いいよ。おいで。」と冬梅はニコリと笑った。


 小学生相手に先生が遊んであげる、あの感じに近かった。


 まずナイフの男をひらりと交わし、右足で男の睾丸を蹴った。そしてみぞおちにも右の拳を入れた。


 続けて鉄パイプの男には右手で鉄パイプを受け止め、そのまま男の首を目掛けて足を絡ませた。そして前後が逆の肩車のような体制になり、男は地面に倒れ込んだ。そして先程の男と同じように右肘で男の顎を打った。また男の歯がこちらに飛んできた。これは多分、上の歯だ。


 先程まで男の叫び声と金属の音が響き渡っていた倉庫が静まり返った。俺は夢を見ているんじゃないかと思った。


冬梅さんはゆっくりこちらに近づいてきた。


「怪我はないですか」と優しい静かな声で言って俺の方に近づいてきた。


 囚われていたプリンセスを助けに来た王子様のようだった。そして情けないことに、ここでのプリンセスは俺だ。


 そんな冬梅さんの後ろから人影が見えた。俺は猿ぐつわを咥えた状態で懸命に声を出した

「んーーーーーーーー!!!!!」


 パイプ椅子で吹き飛んだ細身の男が、ナイフを持って冬梅さんの背後にいた。


「死ね〜!!!!!」と男は叫んだ。


 冬梅さんは小さく「あ」と言った。だが、その瞬間、細身の男は崩れ落ちた。


 おかっぱの女が木製の小さなバッドで男の頭を殴ったようだった。誰だコイツ。


「うめ様〜!お久しびりです〜!!」とおかっぱの女は言って、冬梅さんのことを抱きしめた。


「マシロちゃん、ちょっと遅かったかな。」


「姉様の戦闘シーン、久々だったので、真白はついウットリしていました。」


「こっちは手首折れてるんだから」


「そんな姉様も素敵です」と言って、おかっぱの女は、冬梅さんのほっぺにキスをした。


 おかっぱの女は地面に倒れている男達の頭を木のミニバットで殴っていた。ぬかりない。


 そして一通り、おかっぱと冬梅さんの話が終わった後、「さて、どうしようかな」と冬梅さんは、俺を見て言った。


「殺しましょう!」とおかっぱは楽しそうに言った。


「却下」と言いながら、冬梅さんは僕につけられた猿ぐつわを解いた。


「忘れてくださいと言っても無理ですよね」と冬梅さんは困った顔をしながら言った。


「すみません…。3年ほどは忘れることは出来ないです。」嘘だ。こんなこと死ぬまで忘れない。


「じゃあ殺しましょう!」とおかっぱがまた言った。


「却下」と冬梅さんは即答した。“殺す”という単語が当たり前のように使われていることに悪寒がした。


「これは困ったな〜」と冬梅さんは頭を抱えた。俺の手首につけられた結束バンドは解いてくれなかった。


「姉様、困っているのですか?」


「あぁ困っているよ。」


「何に困っているのですか?」


「このお兄さんが、この現場を見てしまったことに」


「あぁ!それなら真白にお任せください!真白!上手に頭を叩けます。2時間くらいの記憶なら飛ばせます!!」


とおかっぱ頭は、ルンルンしながら木製のミニバッドを振り回した。


「本当に?信じていい?」


「はい!その代わり、イイダさんに真白の頑張りを報告してください…」


「いいよ。勿論する。」


「イイダ…」と俺は先程の男の会話を思い出しながら呟いた。


 冬梅さんは「ごめんなさい。黒瀬さん。ということで少し痛いかもしれないんですけど。」と言って、横の女の方をチラッと見た。おかっぱの女はルンルンでバッドを構えている。


「拒否権ないですよね…?」


「はい。」


 忘れてしまうのか。この出来事を。彼女の本性を。忘れたいようで忘れたくない気がした。


「じゃあ冬梅さん。忘れちゃうかもだけど、1個だけ」


「…なんですか?」


「あの時の会話の続き…。俺も猫…好きなんです」


 彼女は少し困ったように笑った。そしてゴンという鈍い音と共に俺の記憶はここで終わった。

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