第47話 最終決戦② 好きな女の解釈
私の目の前には画面越しでレイプされている藤田。下半身丸出しで拘束されている父親。そして、その様子を楽しむナベシマ。
「さぁ桜ちゃん、どうする??」
どうするー?
何をー?
私は床に座り込み傘を持った右手で自分の胸を押さえた。呼吸を整えなければ。
「そっかぁ。左手はまだ治ってないんだっけ。」
ナベシマはソファに足を組み、こちらを見下ろしている。
「でも別に手は怪我してても出来るよね。」
「何を?」
「言ったじゃないか。このゲームは君が自殺するか、自殺しないかだ。このまま君がこの部屋から退出しても構わない。でも君は藤田がこのままレイプされるのを見逃しに出来るのかい?」
「だから…父さんとヤれと?」
「君が僕にソレを見してくれたら藤田のことを解放する。それにユウナの借金も、鮎川と黒瀬の動画も消すよ」
「そして私が自殺する…」
「そうでしょ。君、父親とまたヤッて生きていけるの?それにその様子も藤田に見てもらうよ。あ、イイダさんにも後でその動画送ろうか」と言って天井のカメラを指差した。
「そう…」
ナベシマが藤田を使って仕掛けてくるのは想定通りだった。だけど、まさか父親を用意してくるだなんて。
ナベシマは再び立ち上がり、私の父親の元へと向かった。
「あ、お父さんと話すー?」と言って、ナベシマは父親につけられた猿ぐつわを外した。
鼻呼吸が苦しかったのか、父親は少し息を整えてから「百合…」と呟いた。私の母親の名前。
あぁ。やっぱり、母さんが死んでから、あの人の中では私が死んだことになっているんだ。
「良かったねぇ。お父さん!大好きな奥さんと今から愛し合えるよ!」とナベシマは父の肩をぽんと叩いた。
中学2年生、初めて父さんに手を出された時、私は何も思わなかった。
本当にどうでも良かった。母さんが死んで心が空っぽになった父さんに私が出来ることなんてこれくらいだと思った。世界なんてどうでも良かった。今もそうだ。どうでも良かったんだ。父さんとのことは。憎んでなんかいない。
それを何でコイツがまた…。
父さんは「百合…百合…」と何度も呟いていた。
その時「もう…やめてよ」と声が聞こえた。
弱音が口に出たと思い咄嗟に口を抑えた。
違う。私じゃない。誰だ。この声…。
私は顔を見上げた。
その声の先は藤田だった。
私はゆっくりと立ち上がり、藤田が映るパソコンの方へと重い足取りでノソノソと向かった。
「藤田…」
高校生の時は天真爛漫なギャル。
最後に会った時は艶かしくてあざといギャル
今は四つん這いで、男に好きなように遊ばれるただの1人の売女。
「藤田…」
藤田は「助けて…助けて」と言って四つん這いの姿勢で必死に手を伸ばし何かを掴もうともがいている。そんな様子の藤田の髪を男が引っ張って自分の陰部へと当てつける。
「こんなのって…」と私は呟いた。
「さぁ!!さぁ!!桜ちゃん!どうする!?」
「お父さんとここでヤれば、藤田は解放!イイダさんと黒瀬さんの動画も消す!絶対だ!」
「そんなことしたら私は…」
「良いじゃん死ねば。皆の英雄で終われるよ」とナベシマは甘い声で囁いた。
黒瀬さんは言った「ナベシマの敷いたレールに乗ったら負ける」って。
分かってる。ここでナベシマを殺したら藤田の身の安全は確保できない。かと言って私がここで父さんと…。私は着実にナベシマの敷いたレールの上を跨ろうとしている。
いや。大丈夫。父さんとだって私は出来る。大丈夫。前はいつもやってたんじゃん。ナベシマは父さんと私がヤッたら自殺すると思っているんでしょ。じゃあ私が自殺しなきゃ良いだけの簡単な話。これでゲームは勝ちだ。
「良いよ。父さんとヤるよ。別に大したことはない。」と言って、ブラウスのボタンに手をかけた。
ナベシマはにんまりと笑った。気色の悪い笑顔だった。そしてナベシマはパソコンに向かって「ストップ。一旦撤収。」と声をかけた。
画面に映る男達はそそくさと部屋からはけて行った。そして藤田1人がベッドの上に取り残された。
「藤田〜見える?これから冬梅が楽しいものを見せてくれるよ」と言って、カメラをこっちに向けた。
数ヶ月ぶりの藤田との対面だった。みぞおちが強く痛んだ。絞られてちぎられそうなくらいだった。
藤田はボンヤリとした目でこちらを見ている。
やめて。見ないで。見ないで。
ブラウスをかける手が震えた。
「ほら早く脱げよ。フユウメ!!!」とナベシマが怒鳴った。
涙が出そうになった。嫌だった。大好きな人に自分の誰にも見せたくない汚い部分をこれから見せなきゃいけない。桜を消してまた百合にならなきゃいけない。嫌だ。嫌だ。そんなの死んだ方がマシだ。
私はポケットに入れた小刀を取り出そうとした。自分の頸動脈を切れば全部終わる。もう嫌だ。ここで終わりたい。イイダさんの大好きな冬梅で終わりたい。
私は私で終わらせたい。
その時だった。
パソコンから藤田の声が聞こえた。
「あなた誰?私、知らな〜い」
子供のような可愛らしい声。いつも聞いていた藤田の声だ。藤田は四つん這いの姿勢で頬をついてこちらを覗いている。子猫みたいだった。
「頭イカれたか。冬梅桜だよ。冬梅。」
とナベシマは言った。
「ふゆうめ??違うよ。この人は冬梅じゃないよ。」
「は?」と言ってナベシマは舌打ちした。
「だってぇ私の知っている冬梅は、陰キャで、不器用で、私のことジロジロ見てきて、ガリ勉の不登校なの」
「ふふ。だから、今画面越しで写っているそれが本当の冬梅だよ」
ナベシマからは苛立っている様子が伝わった。藤田の反応はナベシマの予想と違っていたのだろう。
藤田は黙って私の方を見た。目と目が合った。藤田の目はどこかピンとが合っていないようだ。私のことを認識出来ていない…?
「違うよ。これ、冬梅じゃない。」
「めんどくせーな。冬梅桜は父親とセックスして!イイダと共謀して美人局してる阿婆擦れなんだよ!」
「違うよ。私の冬梅はそんなんじゃないから。勝手なこと言わないで」
今までの喋り方が嘘だったかのように、藤田は真面目なトーンで言った。
私の冬梅。私の冬梅。私の冬梅。
頭の中で3回この言葉を繰り返した。
藤田にとって私は
一緒に学校から帰った人
一緒にコンビニで買い食いをした人
テスト前に軽く喋った人。
キスをしてくれた人。
それだけでいい。そんな風に覚えていて欲しい。
不器用な私の側にいてくれた。大好きな藤田。
「違うよ。私の冬梅はそんなんじゃない」
そうだね。こんなの私じゃない。藤田に知ってほしい、見てほしい冬梅桜じゃない。早く陰キャの冬梅桜に戻って、藤田にヨシヨシしてもらわなきゃ。またキスしてもらおう。
柊木に騙されてレイプされて子供孕んで、ナベシマに堕とされて闇金に手出して海外風俗に飛ばされた藤田。
ねぇ最初から思ってたよ。
「私の藤田はそんなんじゃない」
私は満面の笑みで言った。画面に映る藤田もピースしてた。
そして私は右手に持っている傘をぶん投げて部屋の照明を壊した。部屋は暗闇に包まれた。
「な…どういうつもりかなぁ冬梅桜!!」
「別に…藤田に見られたくないから」
暗闇の中、傘を構えた。ナベシマから聞こえる呼吸音から位置を把握した。
これで全部終わりだよ藤田。
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